第77話 五色って聞いたら赤だと思うに決まってんだろ
前回までのあら寿司
北条・はま水軍連合で北条氏康と共にやって来た上総里見家征伐。
まずは海戦にて里見家率いる房州水軍を倒し、上陸に成功した。
魚兵衛丸から小早船に乗り換え、富津という海岸から上陸して1里(約4キロ)
なだらかな丘の上に建てられた三船山砦の周辺には、すでに陸路から軍を進めた北条氏政たちの軍が集結していた。その数、陸路からの軍が1万に船で上陸した軍が5千、合わせて1万5千という大軍だ。
「父上! それに寿四郎殿も! よくぞ来てくれた! 」
俺が来たのを見て両手を広げ、ガシっとハグをキメてくる氏政。こういうシーンで歓迎の意を表すパフォーマンスは父親のしている事をなぞってるだけとも言えるけど……キミ、何か前より貫禄が出てきたんじゃない?
「そういえば寿四郎殿は初めて会うんじゃったな?紹介しておこう。これなるが拙者の従兄弟にあたる康成じゃ」
「はじめてお目にかかる! 我が名は『地黄八幡』北条綱成が息子、康成だ! 以後ヨロシク! 」
いかにも武人という感じのいかつい男はガッシリと握手してくる。メチャクチャ痛いんだけど! コイツ、握力で人の強さを測ってくるタイプのゴリラかよ!?
まあそれもその筈か、父親の北条綱成ってのは氏康とほぼ同年で北条家では一番の猛将だって聞いている。見事に父親と同じタイプに育ったパターンなんだろうな。
父親が「黄備え」って黄色の物を身に付けた軍隊だったって聞くけど、コイツも具足の色んな部分に細かく金色の装飾があしらわれている。そういえばと思って見比べると氏政は似た様なデザインに装飾の部分は銀色が使われていた。さしずめ金と銀、ってことなのかな?
「そしてこれなるが我が弟、北条氏規じゃ。今回は留守居役の氏照の下にあたる」
「お久しぶりにございます寿四郎さま。覚えておいででしょうか?」
「あっ、君って確か今川義元公の近習の!? 」
紹介されて顔を見せた若者には遠い昔、まだ今川家時代の駿府で見覚えがあった。たしか俺の一個下だったけど氏真の近習衆ではなくて父親の義元直属の近習扱いだったヤツだよね?おぼろげな記憶だったから『北条家の人質』ってのしか覚えてなかったんだけど。
「氏真殿と寿四郎殿が蹴鞠をされているのを見て、それがしも一緒にやってみたいと密かに思っておりました」
お、おう。きっとあの頃は「北条家から預かってる大事な坊ちゃんを蹴鞠バカにするわけにはいかない」って遠ざけられてたのね。判断としてあながち間違っていないけど……今度、一緒に蹴鞠やるか?
「ここには居らぬがもう1つ下の弟・氏邦には常陸国より佐竹の援軍が来られぬよう北の守りを固めてもらっておる。ワシと康成・氏照・氏規・氏邦、そして寿四郎殿はみな、兄弟も同然じゃ。ワシらがこれからの北条を作っていく!
今回はそれを父上に証明する戦としたい! 力を貸してくれるか?」
おおおっ、いつの間にそんなアツい漢になったんだ氏政!? 前は寿司をエサに頑張ってくるってだけの犬系男子だった気がしたのに。
「そこでじゃ! 父上の時代には五色備えという北条を代表する猛将がおったと聞き、密かにこの具足を作ったのじゃ。ワシが銀・康成殿が金・氏規が青・氏邦は黒。そして寿四郎殿には……」
えぇーなに戦隊モノみたいで燃えるじゃん! ブラック! シルバー! ブルー! イエロー! ときたら主役はやっぱ!?
「寿四郎殿にはこの緑備えを付けていただきたい」
「あ、いえ。お気持ちだけで結構です……」
なんでだよっ!! そこでレッドじゃねえのかよっ! 自然を愛する森の戦士、グリーンかよっ!
「赤備えは寿四郎殿も知っての通り、武田に居るのでな……不服なら氏照の桃色備えとも交換できるが」
「い、いえ。本当にお気持ちだけで大丈夫ですので。お気になさらず」
男子なのにピンクやらされる氏照ってどんだけ不憫なんだよっ! 止めてやれよ!
「あー、コホン。氏政よ」
「父上、申し訳ありませぬ。つい久方ぶりの再会で話し込んでしまって」
「それは良い。じゃがワシのやった事をいちいちなぞって真似せずとも、そなたはそなたのやり方でこれからやっていけば良いのだ」
かくして(新)北条ブラザーズ戦隊!備えンジャーは構想僅か数分で電撃解散したのだった。
「此度の戦、里見家を完膚なきまでに叩き潰すため、これだけの将兵に集まってもらった。この氏康、謹んで御礼申し上げる」
全軍の将が集まる中、小田原城でしたのと同じように深々と頭を下げる氏康。ここまでの実権を手に入れてもそれに驕らず『家臣の協力があって初めて大きな戦が出来る』という姿勢を崩さない事こそ、この人の強みなんだろう。
「氏康様! 頭を上げてくだされ」
「左様! 我らの方こそ氏康様が主だからこそここまで戦って来られたのです」
家臣一同が声を上げる。俺は……ここまで信頼し合える関係性を家臣たちと築けるだろうか?
「よし、では軍議を始める! 安房・上総の里見家に残る戦力は大きく3つ。先代当主・里見義堯が籠る内陸の久留里城、里見家代々の拠点である安房稲村城、そしてこの佐貫城じゃ!
まず稲村城攻めに関しては氏規、そなたが清水康英・笠原綱信ら伊豆水軍と共に海から安房へと向かえ! 」
「はっ! 」
房州水軍のもう一つの拠点、房総半島の先も当然ながら潰しておきたいところなので北条家の水軍全部、4千を投入して攻め込むらしい。ウチの水軍衆の主力、魚兵衛兄とヒャッハーさん達も当然ながらそこに加わる。
「そして内陸の久留里城じゃが、ここはワシと綱成を中心として4千で攻め込む。この佐貫城を攻める総大将は氏政、そなたじゃ」
氏康は当然と言った表情で堂々と明言するが、この発言に北条家の重臣と思われる面々は騒然となった。
「なっ!? 大殿が居らねばこの難攻不落の佐貫城を落とせましょうか?」
「左様、昨年の三船山を奪われ撤退した屈辱を繰り返しては……」
ドン!!と大きな音を立てて氏康が地図を拡げていた机をひっくり返す。
「ワシが居らねば敗戦を繰り返し、家臣の信用を失う様な跡継ぎであれば元より、北条家はワシの代で終わらせるつもりじゃったわ!
人とは敗戦や失敗から学び、成長していくもの。ワシらもそうだったであろう!?」
「父上……」
「やれるな?氏政」
「はい……必ずや」
氏政は泣き出しそうな、だがやるしかないって覚悟を決めた様な顔をしている。氏康はそんな息子を見て笑い
「そなたは一人ではない。康成も寿四郎も居るじゃろう?ワシは兄弟に恵まれなかったがそなたには頼れる兄弟を残してやれた。
一人で何でも解決しようとするのではなく、兄弟で力を合わせて絆の力でワシを越えてゆけば良いのじゃ」
そういって肩をバシンと叩き、踵を返した。
北条戦隊、備えンジャーをご愛読いただき
大変ありがとうございました!
(注:本編はまだ続きます)
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