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第76話 じゃあお前の名前は今日からナス天な。

寿司天史上初!ついに!!

寿司ネタ名以外の家臣が加わります(笑)

いや、ナス天握りもどっかであったっけ?

「くっ貴様らのような者に捕縛されるとは。それもこれも時忠、貴様が北条と通じておったからだろうが!? 」

「なっ! 通じてなどおりませぬ! 城に一旦退くのを拒んだのは殿ではありませんか!? 」

「ええいうるさい! 城に逃げ帰ったなどとなれば義頼に良いように言われてしまうではないか! 」


 

 今、俺と氏康の目の前には縄で後ろ手にされたにも拘らず良く喋る二人の男が居る。里見家の"一応"現当主であった里見義弘(よしひろ)と"一応"里見家重臣である正木時忠(ときただ)

 ただ里見家は隠居したはずの先代・義堯(よしたか)が実権を握っていたり、年の離れた弟の義頼の方が有力視されていたりと色々メンドクサイらしい。その重臣の正木家も北条方に裏切ったり里見方に戻ったりと中々ややこしい事情があるんだとか。


「そもそも貴様のようなすぐ裏切る奴を連れてきたのが運のツキじゃったわ。憲時(のりとき)の方がワシの方に居れば……」

「何と! 長年仕えたワシでは無くあのような若造の方が役に立つと言われるのか!? 」

「少なくとも敵か味方か分からぬような蝙蝠野郎よりはマシじゃったわ」


 うーん、どんな事情があるにせよ大のおっさん二人が口汚く罵り合ってるのは見るに堪えないわ。


「貴様らには二人ともこのまま海に沈んでもらう。最期ぐらい潔く武士らしくせい! 」


 氏康が怒鳴り倒すが二人はまだ往生際悪く、お互いを処分して代わりに自分は助けろと騒ぎ立てる。それを聴かされる氏康の額に青筋が浮かび上がり、周囲の温度が下がるような雰囲気になる、が、このおっさん達は気付かないのだろうか?

 


「ふざけるな! 家臣が主君を裏切るは主に足らない所があるゆえ、家臣が主君に戻るは己の間違いを認め再び主君に光を見出すがゆえ!

 そのような事も分からぬ輩、このワシが叩き切ってくれる! 」


 氏康は言うが早いか刀を抜くと一閃の元に二人を斬り捨てる。斬られた二人は一瞬何をされたのかと顔を見合わせてから斬られた事に気付き、断末魔の悲鳴を上げながら崩れ落ちた。

 

 てか早すぎて全然見えなかったぞ今の。この人さっき自分には武田上杉ほどの『個の力』は無いとか言ってたケド、充分張り合えるレベルでヤバいじゃねえか。


「ふん、行くぞ! 寿四郎」

「えっ?はっ、はい」

「……貴様は、あの者どものような最期は迎えるでないぞ」

「……はい、肝に銘じておきます……」


 斬り捨てた二人を全く振り返ることなくズンズン進んでいく氏康を見て、ちょっとチビりそうになったのは内緒だ。



「こちらの者にござりまする。本人は滅んだ那須(なす)家の者を名乗っておりますが」


 おっさん二人とは別の場所で、同じように後ろ手に縛られて正座させられているのはまだ若くて色白の小柄な男。おっさん達と違って騒ぐことは無く、だがこちらをキッと睨みつけ敵意をむき出しにしている。

 

「那須、と申せば常陸にて我らに敵対する佐竹家に潰された家柄ではないか。何故我らに弓を引く?」

「……金の為だ。俺が名乗ってるのは父と叔父で貶め合って最後は潰された情けない家の事じゃない。源平合戦の英雄・那須与一(なすのよいち)の末裔としての那須家だ」

「ほほう、話しぶりからするとそなたは那須高資(たかすけ)の息子か。かの者には子がおらなかったと聞いていたが」


 戦国時代における那須家って家について俺は聞いたことが無かったけど、那須与一って名前なら知ってる。源氏と平家の戦いの頃だから鎌倉時代より少し前か、揺れる船の上から敵の船の先に建てた扇を見事撃ち抜いたって伝説があったよね?さっきの鉄砲ですら狙いを定められない距離からの矢を見てれば、確かに末裔だと言われても納得できる。


「そなたほどの弓の腕前ならば申し分ない。我が北条家に仕えぬか?」

「断る。デカい家の争いに巻き込まれて潰されるのは親父の代で思い知ったからな」


 『父と叔父で貶め合った』『デカい家に潰された』って話しぶりからするとなかなか壮絶な人生を歩んできたんだろう。親子や兄弟で家の継承権を争うなんてのもザラにあるからな、この時代じゃ。


「そうか、ならばこの娘婿の浜寿四郎の元でならばどうじゃ?」

「悪いがそんな名前、聞いた事ねぇな」


 

 クリティカルヒット!!俺の精神に2856のダメージ!!


 いやまあ、そりゃ北条家ほどに有名じゃない事は知っていたさ。でも一介の漁師豪族から駿河国主に成りあがった男ぞ?武田上杉北条の新三国同盟の立役者とか言われる男ぞ?にもかかわらず、認知度ってメチャクチャ低いのな俺。


「だがそれぐらいがちょうど良い。『無名大名の下にとんでもない有能な家臣が居る』って方が話題になりやすいからな。俺がお前んトコの最有力家臣になって、領土を拡げたら城持ち大名になってやんよ」


 なぜこうも上から目線で来られるのかとグヌヌって声が出そうになるが、まあ仕方ない。

 有能な奴ほどクセが強いってのはもう慣れてるからな。誰がとは言わんけど……カニとかサバとか。


「俺の名は那須 天弓(てんきゅう)。那須与一の生まれ変わりだ!

 よろしくな寿四郎! ってか、殿とでも呼んどくか?」


 そんな便宜上呼んどいてやるって感じで殿とか言われても嬉しくも何ともないわっ!!

 じゃあお前の名前は今日からナス天な。分かったら返事をするんだ、ナス天っ!!


 そんなこんなで俺は凄腕の弓の使い手、ナス天を何とか仲間に引き入れたのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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