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第72話 海賊王に船自慢とか始めさせたら軍議なんて進まないやん

前回までのあら寿司

 甲斐武田の要請で美濃、越後上杉の要請で北陸と遠征続きだった主人公だったが駿河に戻り、平穏な毎日を送っていた。そんな所へ義父・北条氏康より書状が届く。

「それで、書状にはなんて書かれてたの?」

「んーなんか、ついに関東最後の戦いになるかもしれないから見届けに来い、って」

「そう。父上がそう言うなら、行かないわけにはいかないわ。行ってらっしゃい」

「え、いいのか?」

 

 帰ってきてまだちょうど1年も経ってないし「今後2年は傍に居てもらうからね」って言ってた(みつ)がすんなり簡単に送り出してくれる事に、俺の方が逆に躊躇する。


「兵力的に劣勢でも無いのに父上がわざわざ呼び出すって事は、それ相応の意味があるはずよ」

「何?意味って?」

「多分……いえ、行けば分かるわ。子供達は大丈夫だから、行ってきて。寿四郎」


 

 永禄11年(1568)5月。


 北条氏康から『ついに長年の宿敵である【古河公方(こがくぼう)】足利藤氏とそれに味方する者達を安房(あわ)下総(しもうさ)に追い詰めた。付いては伊豆水軍と共に船を率いて参陣せよ』との書状が届き、我が駿河はま家も参陣する事となった。


「今回は海戦か。そうなると騎馬隊は使えないから今回は……」

「俺俺! 俺の出番だろ!? 寿四郎聞いてくれよ! すっげー船……」

「はい兄上、もちろん今回は兄上のお力をお借りしたいと思っております」


 開口一番、元気良く名乗りを上げる魚兵衛兄をとりあえずなだめる。船自慢とか始めさせたら軍議が進まなくなっちゃうからな。新車を買った時のオッサンには喋らせるな、ってのは現代ではお約束として上司から習ったやつだ。


「船……せ、拙者今回は遠慮させていただきます」


 逆に開口一番、参加拒否を唱えるのは船酔いが酷過ぎる事に定評のある軍監。代わりに半兵衛が参加してくれるなら大丈夫だろう。


「殿、今回は拙者も連れて行ってくだされ」


 今度は意外なヤツが名乗りを上げる。『城から出たくない』に定評のある多羅尾だ。もしかして激ヤセに成功した事で心境にも変化があったんだろうか?


「実は敵方に少し伝手がありまして。それがお役に立てることもあろうかと」


 確かになんだかんだ各国に情報網を持ち、色んな方面に通じている忍びである駿河多羅尾衆の頭目だし、それがメリットになるパターンもあるのかもしれないな。


 こうして今回は軍監が駿河に残る事となり軍略方は半兵衛と多羅尾、武将方は国友鈴木衆の鉄砲隊と魚兵衛兄を中心としたヒャッハーな元海賊衆、俺の護衛としてはマグロ・カニ少年が付くという布陣になった。


 

「な……んだコレ!? 」


 まずは今回乗り込む船を見せる、という事でウッキウキの魚兵衛兄に富士川の河口・田子の浦(みなと)に連れていかれた俺達は言葉を失っていた。そこにあったのは今まで見た事も無い、城が海に浮いているかのような船だ。俺が以前、堺に行く時乗せてもらった積船(せきふね)に比べたら長さも高さも倍くらいあって、現代で言うと客室にあたるような部分が三階分もある。


「だ~からぁ言ったじゃねえか、すっげぇ船作ったんだぜって。それなのに全然お前見に来てくれないんだもん」


 そう言って拗ねたような声を出す魚兵衛兄。スミマセン、ただの新車自慢的なナニかだと思ってて、こんな凄い船作ってたなんて思ってませんでした。


「これは、安宅(あたけ)船ですな。東国では小田原の北条氏が何隻か作っているとは聞いておりましたが、まさかもう完成させておられたとは」

「おうよ!この海賊王、魚兵衛様だからな」


 てか兄上、いつの間に海賊王になってたんですか……自称ですよねきっと。


「コイツなら軽々500人は乗せられるし下手すりゃ800ぐらい乗るかもしれねえ。それに軍監の野郎が前に作ってた大筒(おおづつ)ってのもコレなら運ぶ苦労はナシだ。どうだ、最強の船だろう?きっと北条でもこんな船なんて持ってないぜ!」


 早速乗り込み、両腕を組んで得意そうにドヤ顔をキメる魚兵衛兄。確かにこれだけの船、この時代にはまだほとんど存在してないと思う。でも、気になる事が1つある。それは……



「ほうほう。それで、この船でまず小田原に向かうにはどれほどかかりますかな?」


 俺がまさしく気になってた部分を半兵衛が質問してくれる。


「んーそうだな。漕ぎ手に必死で頑張ってもらったとして……10日あれば着けるか」


 おいおいおーい。堺に行った時の積船ならこの辺まで5日で着いてた記憶があるぞ。どんなにデカくて色々積めて素晴らしい船でも、その分船速が半分しか出ないんじゃ戦場に辿り着くだけで大変なんじゃないの。その辺考えてたの兄上??


「とりあえず戦の支度をしている間に、仮のもので良いので帆を張りましょう。敵陣の近くへと着きましたら即座に帆を畳めるもので」

「お、確かにそうだな。それなら小田原まで早そうだ」

「それからこの船は海戦では一番後ろに付け、もっと小型の船への矢や銛などの武器供給と遠距離射撃を主体としましょう。このような船、敵の船団に囲まれてはひとたまりもない」

「オイオイすげぇなこんな短時間で的確に! 半兵衛、お前もしかして天才なのか?」


 いや、それは魚兵衛兄がデメリットとか考えてなさすぎるだけだと思うんだが。


 とりあえず、半兵衛の助言通りに戦までの準備期間でなんとか即席の帆を立て、無事の出航に漕ぎつける事が出来た。

ご観覧ありがとうございます。

是非とも面白い作品に仕上げていきたいと

思っておりますので感想戴けると嬉しいです♪

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