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第70話 何でも話せる自由でアットホームな家臣団です

 ようやく北陸から駿河へ帰ってきて二日後の朝。


 三枚橋城の天守大広間には魚兵衛兄や今回居残りだった者、マグロや軍監といった今回の遠征に参加した者、はま家の主だった者たちが全員集結していた。


「殿。この度は無事のお戻り、一同大変嬉しく思っておりまする」


 俺の横に控える真面目そうな若者が頭を下げる。コイツは初めて見るような気がするんだが、俺のいない間に誰かが雇ったんだろうか?


「ありがとう、ところで誰キミ?」

「なっ!? 1年近く離れていたとはいえ、ずっと傍で仕えさせていただいている『アナタの心の拠り所』この多羅尾めをお忘れになるとは。酷いっ! 酷過ぎますぞ殿ー><」


 まさかの多羅尾かよ!? キャラ変わりすぎだろ!? お前は俺の記憶の中では〇手伸也似のずんぐりむっくりでピザがこれ以上無いぐらい似合いそうな男だったはずだぞ。この時代にピザは無いけど。


「あぁ、それですが……四郎さまがお生まれになった後、殿が帰ってこられない事で奥方様は大層気が滅入っているようでしたので『鬱屈を晴らすため、海にでも出かけられてはいかがでしょう?』と申し上げましたところ……」


 多羅尾の話では俺が北陸から中々戻ってこないせいで光の溜まったストレスを晴らすため、毎朝早朝から砂浜ランニングと木刀の素振り100回、剣の稽古に付き合わされていたのだという。その結果本人の望む望まないに関わらず、激痩せダイエットに成功してしまったんだとか。うん、なんというか……すまん。



 という多羅尾の近況はさておき、今回は北陸行軍で当家に加入した者も居るのでまずは軽い挨拶から入る。


「私、新参者の姓は竹中、名は」

「いや普通に名乗ろうか、竹中半兵衛な」

「!? 美濃の麒麟児と呼ばれるあの竹中半兵衛様ですか!私も含めこれなら当家の軍略方は盤石ですなあ」


 多羅尾はすでに半兵衛の事は知っていたらしく、興奮した様子だ。っても、そこにしれっと自分の名前も並べる所がたいした自信だけど。確かに軍略方は盤石のサポート体制よね。



「俺は槍の天才、可児 伊蔵ってんだ! これからよろしくな! 」

「へっ! 自分で天才とか、言うじゃねえか」

「魚兵衛どの。実際のところ彼の槍の天賦は凄まじいものがありますぞ」


 一方のカニ少年も威勢の良さで早速、魚兵衛兄に一目置かれているみたいで良かった。浜騎馬隊の面々も一人一人名乗るが、古参のウチの家臣たちはアットホームな感じで迎えている。そうだよ、これこそが格式ばった代々続いてるような大名家には無い、ウチの良さなんだ。



「じゃあ今回の報告と今後の当家の方針について……」

「俺俺! じゃあ俺から!! 寿四郎聞いてくれよ! すっげー船作っちゃったんだよ! 」

「今回の進軍で浮かび上がった課題はやはり兵種による行軍速度の差をどう埋めるかですな」

「殿! 殿の居られぬ間に駿府の町が何処まで復興したかをご説明したく……」




 前言撤回。『何でも話せる自由でアットホームな職場です』って書いてあっても、それはただカオスで統率が取れていない職場って可能性もあるよね。まあウチは元々がヒャッハー集団から始まってるから、ある意味仕方ないんだけどさ。



 そんな軍議どころかフリートーク大会になりそうな場だったが年長の騎馬隊長・田中さんが仕切ってくれてようやく話が整理された。


 まずは遠征に掛かった兵糧などの費用面や失った分の人員などについてだが、今回は元々が『武田軍の美濃攻めの協力』という形だったためか、甲斐武田家から甲州金と関刃物の武具などそれなりの量の現物支給、それから訓練された武田兵千数百人がウチに来る事となった。


 貴重な戦力を貰って大丈夫か?と思ったが元々山での暮らしに飽きて海の近くに移りたいという奴らばかりだったので問題ないそうだ。


 それ以外にも越前朝倉家からは加賀平定の礼として結構な額の金も戴いている。多分一向宗の寺からぶんどった財宝の山分け的なモノもあるのだろうが、そのおかげで収支的には大きくプラスになった。これで今回の遠征でマイナスになった分の兵糧や甲冑を買い足したり、新たな兵を雇い入れる分の給金にも多分困らないで済む。


  はま騎馬隊の皆様はその金を全額、騎馬部隊の増強に回そうと力説していたがさすがに全額突っ込もうって意見は却下しておいた。馬にアツくなりすぎるのはいかんよ、この時代も現代でも。



 そして俺が居ない間の報告についてだが、これと言った大きな問題は起こらなかったようだ。逆に問題が起こらなかったおかげで駿府の復興は進み、もう桶狭間前ぐらいの賑わいに戻りつつあるとか。


 この三枚橋城の城下・田子の浦も、はま寿四の人気で人が溢れ駿府の町に迫りつつあるのだそうだ。だがそれだけに留まっていればこれ以上は発展しない、という事で軍監が密かに新しい目玉を遠征前から考えていたらしい。


「こちらにござりまする。食に通ずる殿ならば分かりますかな?」


 軍監がそう言って盃のような器に入れて差し出したのは水よりも少し粘度のある、サラッとした感じの油みたいな液体。でもドロッとした感じでもなく、食欲をそそる匂いがする。現代人としては主に茶色くてガッツリした香ばしい食べ物を連想させるこれは……


「揚げ油?か??」

「左様! 甲斐にて採取した菜の花を栽培し、そこから菜種油を搾りました。美濃の先々代・斎藤道三殿が若い頃、菜種やえごまの油を売っておったと聞いたことがありますのでな」


 確かに斎藤道三は油売りからスタートしたって話は有名だけどな、揚げ油なんて売ってたっけ?


「これで寿司に次ぐ人気食・テンプーラが作れますぞ!! 」

「おお! じゃあ天ぷらうどんなんかも!? 」

「はい。ついに、です!! 」



 キタコレ! 今の生活に慣れてきて不満は少ないが、油ものの無いヘルシー食生活が続くのはちょっとどうにかならんかなーと思っていたんだ!


 ついにエビにイカにキスやアナゴ、山の物だとキノコやナス、サクラエビのかき揚げなんかも食べられるぞー♪それにスシ・テンプーラ・ハラキーリって言ったら海外の方も理解を示す日本を代表する食文化よね!! ……食?


 早速必要な食材の調達ルートを押さえ、試作に入ってもらう事にする。軍監以外はキョトンとした顔をしているが、きっと食べてみたらここに居る全員が吹っ飛ぶことだろう。完成が楽しみだ。



 それ以外にも留守中と今回の遠征で得た事から、我が軍や駿河の問題点や改善案などの色んなアイデアを出し合ってその日はお開きとなった。今日のこの会議を基に各部署で実行可能か、予算などの細かい部分を取りまとめたものが戻ってくるはずだ。色んな所を周った分だけ、それが領地経営とか色々な所に活かされてくれると良いな。

 


 何か話し忘れてたような気もしたけど、急ぎでは無いから大丈夫だろう。

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