第7話 シーフード家族なのにトリッキーヘッドが居ないとかどういう事なの?
この物語はフィクションです。
登場する名将は実在の人物・団体などとは
一切関係ありません。たぶん。
カクヨムにも同時連載中です。
俺がこの世界での実家であるはま城に戻って10日近くが経った。
その間はタラちゃんからこの2年間にこっちで起きたことを聞いたり、小春に何度か風呂を覗かれたり、寝室に忍び込まれて今川家で誰かに正体バレてないか締め上げられたりと平穏な日々を送っていたが、ついにあの日、この地域だけでなくこの時代の日本中を震撼させるニュースが史実通りに伝えられた。
「尾張国桶狭間にて織田本隊の奇襲により、今川本軍壊滅!!!
東海一の弓取り・今川義元公お討ち死に!!!」
この大ニュースに人々は動揺し、特に今川家のお膝元であるこの駿河はこれからどうなるのかと誰もが怖れ慄き、不安に苛まれていた。
たった一人、元々それを知っていた俺を除いては。
「わ、若!!こっここっこっこここここれからどうすれば!!! 」
「落ち着け多羅尾!!今はとにかく父と兄上達がどうなったかだ! 」
慌てすぎて鶏のようになっているタラちゃんをとりあえず落ち着かせる。とにかく慌ててみた所で起こってしまったイベントはどうにもならないし、あの蹴鞠王子がマトモに跡を継げるとは思えないのも分かっている。
むしろこういう時の為にウチみたいな海賊ヒャッハー腕っぷし集団が居るんじゃないか。きっとあの見るからに海賊の頭領って感じがする今世父ならばなんとかしてくれる……
「父上、ただ今戻りました。」
そう思っていると気配もなく表れた一人の女性。顔立ちは見間違えるくらい小春に似ているのだが、昨日見た小春はおかっぱぐらいの髪型だったのに目の前の女性は長い髪を後ろで結んでいる。この時代にウィッグなんてあるワケないし、別人だよな? にしても、よく似てる。
「鈴夏、してどうであった?」
「……我が浜家一隊は矢作川を渡河する際、反旗を翻した三河衆の追討軍によって壊滅。寿太郎さま、寿一さま、浜太郎さま全員お討ち死に……との事です」
「くっ……まさかそのような事が。あの三河の恩知らずどもがっ!!! 」
タラちゃんが報告を聞き、肩を落とす。報告した鈴夏と呼ばれる女性も唇を嚙みしめている。いやそれよりも、こんな時の為の腕っぷし集団が全滅って、どうすればいいんだよ!
「あの……それでこれからどうなるんだ?」
「ご報告です。この混乱に乗じて磯野家が自身の館に兵を集めているようです。さらにこのような文が」
多羅尾の後ろにまた一人の女性が現れる。こちらは髪をほどいたロングで着物の女性。だけどやはり小春と顔がそっくりだ。どうなってんの、コレ?
ともあれ、急ぎっぽいのでその場で渡された文を読んでみる。そこには大きく汚い平仮名の多い字で簡潔な内容が書かれていた。
『今こそ東するが国しゅうは当家のもとにまとまるべし。はま家、うら家も当家にしたがうのがよろしかろう いそ野かつ氏』
この内容なら親父の書いた文はよっぽどマシな手紙だったんだな。やはり識字率は低いのか。
「くそっ!! このような時を突いて我らの領地を横取りしようとは、磯野のカワハギどもめ!!」
憤慨する多羅尾を落ち着かせて状況を聞き出す。父が連れて行ったはま家の主力が全滅したとなると、残っているのは家臣になって日が浅いか、まだ若くて力が強くない漁師の若手とか合わせても2、30人というところ。
そこに今回、東駿河内で対立している【磯野家】が降伏しろと持ち掛けてきたのだ。磯野家は桶狭間行きでは後方に詰めていて今川義元《お歯黒》が討たれた後、一目散に逃げてきたため戦力をあまり失っておらず、戦力は十分あるのだそう。はっきり言ってめちゃくちゃピンチじゃねーか、磯野ごときに!
「どうしますか、若様……いや、殿」
「いや、どうしますかって言われても……」
「父君も兄君も居られぬ以上、寿四郎さまが全てを決めるしかないのです!」
いきなりそんな事を言われても困る! けど、間違いなく言えるのはシーフード家族なんぞの手下になるのはまっぴらだ。俺はタラちゃんに頼んでウチの残っている家臣たちを全員、広間に集めてもらうことにした。
砦の広間に集まったのは飯炊き役のオバちゃんたちも含めても30人ぐらいか、2年前に比べたら随分と閑散としていた。ほとんど討たれたのだから仕方ないか。
タラちゃんから親父と兄2人が亡くなった事、そのタイミングで磯野家から吸収合併の話が来ている事が告げられる。
「どうすんだよ!! 磯野っつったら一大勢力だろ!? 今ウチにいる連中でどうにかなんのかよ!! 」
「左様、磯野家は現当主の波兵衛どの、嫡男の勝氏どのが居られる。どちらも猛者と名高いですぞ」
上座に座る二人の男が発言する。一人は粗暴な感じが前面に出ており、それに対してもう一人は冷静で動揺が感じられず対照的だ。
「さらに磯野家には分家に波野頼助という猛将もおります。その3名に加えて兵力は100以上、それに対してこちらは」
「兵力じゃ劣るがこっちにはこの天下の猛将、青野佐馬之介様がいるぜ! 俺様が全員指揮して突撃すれば兵の数の不利なんざ大して」
「カマスじゃあるまいしそんなモン、囲まれて袋叩きに決まっておろう! 多勢に無勢の不利を覆すには兵力の冷静な分析と策が必要……」
「そーーんなコト言って軍監さんは戦で先陣切ったコトあんのかね? それこそ机上の空論だろーが!! 」
「なにをーこの脳筋突撃魚がーーー」
この二人は言動も対照的みたいでいきなり口論が始まる。
どうにもサバノスケと名乗ってた方は短絡的で猛将型、軍艦と呼ばれた方は頭でっかちで軍師型らしい。
んで敵方は国民的人気アニメに似た名前のトリオか。呼び名が特徴的で覚えやすくて助かるな。でもその割に主役であるアイツは、いないのか?
二人は脳みそ足らんだの槍も持ち上げれないだのとしょーもないディスり合いを繰り広げていたが、砦に入ってきた一団の足音で口論を止めた。
「参上遅くなり申し訳ない!! 私は浦家の新たな当主、浦 島次郎と申します。貴殿の兄上で当家に婿入りしてくれた次郎殿のこと、誠に残念です」
そう言って配下20人ほど共々、頭を下げる。たしか浦家ってのは2番目の兄の次郎が婿に入った家だったはずだ。なのに目の前にいる男も、次郎。苗字が浦ときて島が頭に付くのに太郎じゃなく次郎、どういうことだ?
「次郎殿が次期当主として当家に入ってくれた為、私は島太郎から島次郎へ、次郎殿は代わりに浜太郎と改名していたのです。ですがこんな事になるとは」
でも別にだからって浦島太郎にもっかい改名はしないのね。シマジロー……複雑だわ。
「浦家の勢力が合流したことで当家の勢力は50。将は若に多羅尾殿に島次郎どのに左馬之助。さて、どうするか……」
軍監が唸り声をあげる。とりあえず勢力が加わったところで少しはマシになったが50対100と不利な状況に変わりはない。
「何か弱みを付ければ良いのだが……」
「じゃあさ、磯野家にそそっかしくて色々失敗しまくる嫁とか、いない?」
ここまで名前が一致してるんだからきっとアイツが、と聞いてみるが
「磯野家の奥方様は大層しっかり者で家内を支えておると聞いております」
そうかー、あのトリッキーヘッドはいないのか。
「んーじゃあ、磯野の大将が牡丹餅が大好きで30個も食うとか」
「猛将なら食えるモンは沢山食って蓄えるのは誰でもじゃねえか?」
脳筋代表が自分でもそうすると言いたそうなドヤ顔で応える。
「んーーじゃあじゃあ、波野家の頼助が酒に目が無いとか?」
「お、それは聞いたことがありますが、策に使えますかな?」
そこは当たってんのかい、いや世の中大体のおっさんはそうか。
「若!!……いや殿!!! お見事です。一連のやり取りで策を閃きましたぞ!! 」
その時、しばらく思案していた軍監が急に大声を上げた。。
ご観覧ありがとうございます。
是非とも面白い作品に仕上げていきたいと
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