第56話 加賀でほうとう大作戦
富山城を出て南西方向へ山中を分け入って10里(約40キロ)
5日かけてようやく、山を挟んであと少しで加賀・御山御坊に着く位置の山中の村まで辿り着く。
この加賀の地は80年前に一向宗の武装勢力が守護大名を倒してしまって以来『一向宗持ちの国』となっていて、本拠地である御山御坊を中心に幾つもの寺が武装し乱立しているという。領民も完全に一向宗を信じている者達ばかりらしいので非常にやりづらい。
平地を通ればいたる所にある寺から武装した坊主が攻め掛けてくるうえ、そこら辺の農民までが武装して団結し襲ってくる、というので人里離れた山奥の道を時間をかけてゆっくりと進むようにしているのだが、そこは勝手知ったる地元民。何処からか嗅ぎ付けてきたのか夜になると、山中の野営に手斧やナタや竹やりを持った農民が念仏を唱えながらワラワラと襲ってくるのだ。さながらマイ〇クラフトの大量に襲ってくるゾンビの恐怖である。
これにはさすがの軍師・半兵衛も困り果てた様子だった。なにしろどれだけルートを変更して進軍効率の悪い山奥に分け入っても襲ってくることに変わりはない。武士ではない民だからと殺す事を禁止にしても、襲われてる兵たちにとっては殺るか殺られるかでそれどころの状況ではない。その上苦労して生け捕りにしても口を揃えて「仏敵は死ね! 」としか言わず、マトモな会話になる状態ではない。
「ここまで徹底的に敵視された状況だと、我らの掲げる『天下泰平』など彼らにとっては迷惑でしかないのかと、そんな気さえしてきました……うっ帰りたい……」
輝虎から借りた愛玩用のうさぎを膝に乗せ、せめてモフモフに癒されながら半泣きっぽい顔で半兵衛が言う。たしかに兵の中にも現代で言う鬱とかPTSDっぽい状態になっているのを見かける事が多い。この状況はちょっとヤバいな、と思った俺は輝虎に相談してある作戦に出る事にした。
山を下りた所にある、麓の小さな村。村外れの見晴らしのいい場所に陣取り、鍋に火をつける。入っているのは大根、人参などの野菜に行軍途中で狩った猪肉とキノコ、それに甲斐から持ってきた味噌。
鍋から少し離れた所では大柄な兵士たちが大きな小麦粉の塊をドスンドスンと木の皮に叩きつけ、よくのしあがったモノを伸ばして大ナタで等間隔に切っている。
「おめぇさん方、そこで何をしてるんじゃ!? 」
騒ぎを聞きつけて鍬や竹やりを手にした村人たちがワラワラと集まってくる。だが俺達の素性よりも、良い匂いが漂ってくる方への興味が強そうな感じだ。
「山中でコソコソと行軍するのも飽きましてね。ここは見晴らしが良いから憂さ晴らしに広い所で賑やかにご飯を食べたいなーって思って。いかがですか、皆さんもご一緒に?」
そう言って椀に盛った出来立ての『ほうとう』を村長なのか、この集団のリーダーと思われる老人に差し出す。立ち上がった俺に一瞬警戒する素振りを見せるが、生唾を飲み込む様子もこちらはバッチリ捉えている。
「おめぇ等は坊官様たちに仇をなす仏敵じゃろうが! そんな奴らの施しなど誰が受けるか! 」
戸惑いを振り払うように老人が言うと後ろから「そうだそうだー」と叫ぶ声が続く。でもな、俺は知ってるんだぞ。そこの若そうなヤツ、お前の顔には「肉食べたい肉~何で誘い断るんだよ勿体ないな」って書いてある! 他の奴らも大体内心はそんな感じだろ!?
「仏敵とて坊官とて、あなた方とて皆同じ。腹が減っては戦も出来ぬし、飢える事無く美味しいものを食べれれば皆が笑顔になる。違いますか?」
敢えて満面の笑みを浮かべながらお椀を差し出して一歩、二歩と近付く。村人たちはもはや理解不能、という表情を浮かべながら遠巻きにして後ずさる。輝虎側も首尾は上々のようだし、あと一押しだな。
「あなた方が崇める『坊官様』というのはあなた達が飢えたり困ったりしないようにちゃんと気を配ってくれているのですか?あなた方の顔の艶から健康状態を見ている限り、とてもそうは思えない」
「お、おめぇ何を言って……」
「『皆が貧しくても協力すれば、争いが無く平和に過ごせる』と日頃から坊主に言われてるのですよね?でも、本当にそうでしょうか?」
ちょうど完璧なタイミングで輝虎が数人の配下を連れてこちらへやって来る。配下が連れているのは、高価そうな生地で仕立てた法衣を着て後ろ手に縛り上げられた、丸々と太った坊主。
「こ、これは最高寺のご住職ではないですか! オメェらなんちゅう罰当たりな事を」
「そこの寺の坊主を締め上げてきた。例の物を」
村人たちの動揺を意に介さず、輝虎が配下を振り返る。指示を受けた配下がドサッと地面に広げたのは、一目で高価な品と分かる装飾品や織物など。
「ひいいっ貴様ら、ワシが必死でかき集めた数々を! 許せん! 天罰が下るぞ」
「天罰? 領民に貧しい思いをさせて自分は寺で贅沢三昧! 貴様のような生臭こそ天道に背く行いであろうが!? 」
怒りで鬼のような形相になった輝虎が一刀のもとに住職を始末する。生臭坊主は悲鳴を上げる暇もなく真っ二つに切り裂かれた。
「こ、これ……おっかぁがわっちの嫁入りにって取っててくれた着物だ」
竹やりを構えていた年若い女子が坊主の貯め込んだ品々の一つを指差して呟く。
「このまま坊主が生きていたら、そなたの大事な着物がどうなってたか教えてやろうか。これらの品は商人の元で金と酒と肉魚に換えられ、金はこの坊主が一向宗内で上の地位に上がるための上納金に充てられる。そうやってこの坊主をもっと肥え太らせるためにしか使われぬのだ」
「そんな……それじゃあオラたちは何の為に我慢してたんだ」
「『貧しくとも平和の為、他国から民を守る坊主たちの為』などと言われていたのだろうが、実際はその逆! この国を食い荒らしてたのはこのような坊主たちよ」
輝虎が憎々しげに吐き捨てるように言う。『信じてもらえなかったらどうしようか?』とも考えていたが、村人の大事なものが混じっててくれたおかげで話にリアリティが出たようだ。
「俺たちはそのような坊官たちに牛耳られたこの国を救うために来たんだ。誰も争わず誰かが搾取するでもなく、協力して豊かになっていく国にしていければ、今のこの国の状況よりよっぽど良くなるはず」
「そんな事言って、この国以外の戦国大名は戦の度に領民から搾り取って領地を奪い合ってってのを繰り返してんだろ?
そこの上杉輝虎ってのも甲斐の武田信玄と争ってて、越後はほったらかされて荒れ果ててるって住職様が言ってたべ」
村人の一人がそう口を挟む。情報が伝わるのが遅いこの時代なのを利用して、まだそんな事を言い聞かせていたのか。
「それはもう数年前の話で、今は越後・甲斐・相模に駿河遠江までが手を取り合って戦無き世を目指している。隣の越前朝倉も賛同してるんだ。それが証拠にこの『ほうとう』ってのは甲斐武田で食べられてる食べ物。敵対してたとしたらそんなの食べるわけないだろ?嘘だと思うなら食ってみなよ?ホレ」
そう言って村の若者にほうとうの入った椀を手渡すと、最初はおずおずと言った様子だったが二口目からはすごい勢いで食べていた。それを見て他の村人たちも「オラにも」と口々に言ってくる。そこからはもう、村人を交えてのほうとう食べ放題大宴会だ。腹が満たされていくにつれ村人達にも笑顔が戻り、兵も村人も分け隔てなく笑顔になっていく。やっぱり『貧しくても念仏で救われる』なんて屁理屈よりも『食で満たされて幸せに』の方が俺は正しいと思うんだ。
こうして加賀のほんの一部分ではあるけれど、俺達の真意を受け入れてもらえる事が出来た。
ご観覧ありがとうございます。
是非とも面白い作品に仕上げていきたいと
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