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第55話 真に恐れるべき敵はチートではなくアホウである

 永禄9年(1566年)10月。


 富山城での1ヶ月の準備期間が終わり、今度は加賀に向かう。


 越後上杉軍が折角、準備万端で出撃してきたはずなのにこの地で一か月の準備期間を要したのは、越後で本庄繁長の反乱が鎮圧され、越中を椎名の残党や一向宗から守備する為の援軍が到着するまでに時間がかかったことが原因だ。


 しかし、問題はそれだけでは無かった。今回の加賀攻めの主力である越前朝倉家も義輝将軍の弟、義秋と将軍家取り巻き軍団が「一向一揆攻めなんかより京の三好征伐はよ」と言ってせっついてくるせいで家中の意見が割れ、中々取りまとめに苦労しているらしいのだ。


 半兵衛じゃないが『真に恐れるべきは有能な敵(チート)ではなく無能な味方(あほう)である』と何処かの偉い人の格言を前世で聞いた覚えがある。ほんっと椎名といい義秋といいよく言ったもんだわ。



 信玄は輝虎に慰めて貰って落ち着いたのか、越後からの援軍が到着する少し前に美濃へと戻っていった。どっちがどうなのか状況は分からないが『元カレと今カノで翻弄される信玄』ってのも見たかった気もするけど、血が流れそうだからそっとしておいてやった。あとで俺に感謝するがいい、信玄。



 富山城で足止めを食らっている間、俺達の軍団編成にも変化があった。一向宗との戦いで損害を受けた分の兵馬の補充と再編成が一か月の間で行われたのだが、馬産の盛んではない越中では俺達の軍の分までは馬の数の確保が難しいため、騎馬隊が編成できなかったらしいのだ。仕方ないので騎馬隊の田中・海老名・磐田たちには富山城に残ってもらい、代わりにと越後上杉から兵と武将を借りる事になるのだが……


「こ、これは寿四郎さま。ご、ご立派になられまして……」

「さ、左様。我らはつい、あの戦で命を落とされたものとばかり思っておりました」


 そう言って目の前に現れたのは遡る事4年前、1回目の曳馬城戦の時に武田・北条出身組と喧嘩して勝手に突撃をかました挙句、そのまま行方知れずになった寒ブリこと桓武 利右エ門とノドグロこと能登 黒兵衛の二人だ。俺もお前らは戦死したもんだと思ってたぞ。


「せ、拙者は桓武どのとは違い寿四郎さまは生きておると確信しておりましたぞ! それを桓武殿が『今は越後へ戻って態勢を立て直すが重要』と言われたもので」

「なっ!? 全てそれがしのせいにするつもりかっ!? 」


 その言い訳はちょっと苦しいなあノドグロ。だったら何で今の今まで連絡一つも無いんだよ?お前の呼び方、ハラグロにしてやんぞ!?


「過去は不問とする。今回は『越後上杉よりの援軍』として存分に働いてくれ」


 まあコイツ等ともう一度組むのは恐らく今回限りだ。寝首でも掻かれなきゃ多少の不義理は気にしない。



 そうやって軍団の再編成が行われている中で軍監と半兵衛、海老沢は城の一室に籠って何やら色々と話し込んでいる様子だった。気になったので聞いてみると今回の行軍で学んだ事を活かし、美濃~飛騨~越中の川沿いを通るルートを切り拓き、そこに交易ルートを新たに作る計画について話しているという。


 交易で売れる品について尋ねると、飛騨高山は『合掌造り』と呼ばれる茅葺きで屋根が急こう配になった家屋が多く、その上側のスペースが養蚕(ようさん)に向いているらしい。(かいこ)というと絹糸を生み出すヤツだ。ソイツで出来た絹を越中へ運び、そこから陸路で越前若狭まで持ってきて商人の手で京都にと流通ルートを拡げれば莫大な利益を生み出すハズなんだとか。


 美濃の特産品については刃物。信玄が真っ先に攻め落した稲葉山城の北、。関という地には優秀な刀鍛冶が集まっていて特に孫六兼元・和泉之守兼定の作った刀は名のある武将でも欲しがる逸品だそうで。そういえば信玄がこの前使ってたし俺も一本ずつ貰ったんだった。刀剣コレクションにも目がない輝虎辺りも喜びそうな品だ。


 越中はもちろん新鮮な魚。湾に面して穏やかな海に恵まれたこの越中ではホタルイカや白エビなどここでしか手に入らない海産物もあり、あまり新鮮な魚を口にする機会に恵まれない山地の人々には甲斐の時同様、喜んでもらえるだろう。ここなら山では雪が降るし、保冷もバッチリそうだからな。


 そうやって特産品をやり取りすることで利益が出る様になれば、狭い平野部で限られた米が採れる土地を奪い合ったり、弱い者には行き渡らずに飢える事も少なくなって皆が豊かになってくれるはず。俺のその考え方に半兵衛も海老沢も賛同してくれていて、こうしてそれを実践しようとしてくれているのが嬉しい。もっと拡げていけたら良いな。



 それから次の戦に向けて新たに加わったモノがもう一つ。


「殿、取り急ぎ試作ですが完成しました! 着けてみて下さい! 」


 出陣が差し迫った頃、半兵衛と軍監に呼び出されて入った部屋に飾ってあったのは彼が軍監から譲り受けてバラバラに剥がした『ふるぷれーと』ではなく、それと具足(戦国の全身鎧)を足し合わせたような、今までに見た事のない鎧だった。


 分厚い鉄板を一枚で打ち出した甲冑ではなく、何枚もの板を繋ぎ合わせて軽量化が図られた胴体部分。具足には無い首回り部分と強靭な肩当て、顔も守るフェイスマスクのような物が追加されたフォルム。すべて金属製ではあるが西洋甲冑の防御力に動きやすさと軽量化を考えて作られているのが分かる。

 試しに着けてみるが通常の具足と変わらない重さで動きにくさも感じない。まさしくこの時代のテクノロジーとしては完璧な鎧だ!

 ただ……兜の前立てにデカデカとつけられた「は」の一文字だけは恥ずかしいけど。


「どうでしょうか?まさしく完璧な鎧ではありませんか?」

「拙者の案と半兵衛殿の知恵を結集して作らせた、まさにチー……最高の鎧にござる! 」


 半兵衛と軍監が二人並んでドヤ顔で自慢してくる。君たち、同調圧力って言葉を知ってるかな?


「確かに防御面は良いとは思うが……この『は』ってヤツ、何とかならない?」

「その前立ては拙者がこだわりにこだわりぬいて旗印に合わせて作った部分! いわばこの具足の魂ですぞ!! それを捨てるなんてとんでもない! 」


 オメーが自分で付けたんかい、軍監!!


 仕方ないのでこの戦が終わるまではこのままで着てやることにした。駿河に帰ったら速攻で外してもらうからな。

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