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第47話 見た目はおっさん、中身は子供、そしてエロさは将軍様

 遠山氏の治める恵那の地から山中を通って進むこと5日間。俺達はようやく今回の戦場となる美濃に辿り着く。今回の行軍距離は磐田からだと山ばっかり通っての60里(約240キロ)越えはホントにキツかったケド、これからが本番なんだよな。


 その間に信玄本隊は関城を奇襲に近い形で攻め落としていた。京都方面に兵を進める予定だった信長は慌てて美濃に侵攻方向を変更し、小牧山城を出て稲葉山城へ向かう中間点、木曽川を渡ろうとしたあたりで俺達の軍団と対峙する。

 信長にしてみれば急に美濃の北から大群が現れ、対抗しようと兵を出したら山から急に別の大群に進路を塞がれた形だ。全く把握してなかったとしたら今頃「何じゃこりゃー!? 」って言ってる頃だと思う。


 信長軍は木曽川と支流の中州である『河野島(こうのじま)』と呼ばれている所に陣を敷き、俺達は木曽川を挟んでその対岸に距離を取って布陣する。陣を張り始めた頃は小雨が降っていたのが雷を伴う霧雨になっていた。


「若様、寿四郎どのも。大殿様が稲葉山城に入られましたので陣の用意が出来次第、斎藤どのへの挨拶に参られるようにとの事です」


 信玄本隊からの使いが義信と俺にそう告げる。今回は仮の名目として『同盟に基づいて美濃国内の信長勢を追い出すために救援に駆け付けた』という設定なのでそういう風に振る舞わなければならない。なんか騙し討ちみたいで気が進まないけどなぁ。


「分かった。四郎、ここは任せる! 織田勢に何か動きがあれば早急に使いを寄越せ」

「大丈夫ださっさと行け」


 兄の声掛けに振り向きもせず、配下にあれこれ指示を飛ばしながらそう答える勝頼。いつの間にか元に戻ってるけどその態度はねぇ……ぽわわ~んとしててもらった方が良かったかなコイツ。



 義信と数騎の護衛と共に雨の中を掛ける事3里(約12キロ)小高い山の上にそびえたつ稲葉山城に辿り着く。織田の軍勢がすぐ近くまで攻め寄せてきているというのに、馬繋ぎ場にいた者も門番も暇そうに欠伸なんかして緊張感が感じられない。

 そして城の広間に近づくにつれ濃くなっていく酒臭い匂いと喧騒。現代で言うと大人数で宴会やってる居酒屋の廊下に居るみたいな雰囲気だ。


「おお、おお! お二人ともよくぞ参られた。まぁこちらへ」


 酒臭い赤ら顔で両脇に女を侍らせた酒臭いおっさんが俺達を手招きする。誰じゃコイツと思いながら義信の後に形式通りの挨拶をするとなんと、この城の主・斎藤龍興(たつおき)だった。

 えぇとたしか……俺より4つ下だからキミ、18歳のはずよね?お酒とたばこはハタチから。なんて事は時代が違うから言えないが、それにしてもでっぷりと太って赤ら顔で何の警戒心も無い感じはどう考えても10代はおろか、20代にも見えないんだが。


「武田の軍団が織田を追い払ってくれるとあらば、これで斎藤家は安泰! 安心して酒が飲めるな」

「ですな殿」

「いかにもいかにも」


 自分は出陣せずに大宴会かよ、と思ったがそれを咎めようとする側近の一人も居ない。どころか同調して自分達も楽しんでいる様子。そりゃアカンやろ!

 優秀な祖父と親に及ばない自分を恥じる気持ちとか、弱さや不甲斐なさから酒と色に溺れてしまう気持ちも俺には分かるつもりで来たが……コレはさすがに救いようもないわ。宴会の席を見回すと信玄以下、武田重臣団の皆様も白け切った様子で出された膳を黙々と食べている。


「やだぁ龍興様、今ワタシの乳触ったでしょ~?」

「触っておらぬわ。誰だと思ってんだ斎藤さんだぞ」

「なによそれ~。もう、エロさは将軍様なんだから」

「エロ将軍か、それも良いかものう。これからは将軍様と呼ぶがいい」


 あまりに下品なやり取りに耐えかねて、いい加減退席したいと思っておると


「それでは我々は信長に睨みを利かせるべく陣に戻るゆえ、失礼いたす」


 そう言って義信が勢いよく立ち上がったので後に続く。だがその横顔がピクピクとしていたのを俺は見逃さなかった。よくキレないで頑張ったよな、俺達。



 霧雨から本降りになった雨の中、会話も無く黙々と馬を走らせる。城を出て陣に戻ると、中心にある将の集まる会議室のような所が騒がしい。何事かと思って敢えて声を掛けずに陣幕の中へ入ると


「ですから、そのような事は無理と申しておりましょう!! 」


 と怒鳴る声が聞こえる。俺達が中継点として使わせてもらった岩村城の主・遠山景任(とおやまかげとう)さんだ。キレている理由をこの場に居た他の武将から聞いてみると、この雨に乗じて遠山衆単独で先行して川を渡り、信長本陣に火を放ってくるよう勝頼が指示を出したのだという。


「これくらいの任務はこなしてもらわねば、貴様らのような織田に付くとも我らに付くとも分からない者らなど信じられぬわ! それとも織田に寝返る算段でも既にあるという事か?あ!? 」


 そう言って遠山さんに額か鼻がぶつかり合うぐらい顔を近づけて、脅すように言う勝頼。完全にヤ〇キーが絡む時のやり方じゃねえか。てか何を勝手な事してくれちゃってんだマジで!


「四郎!! いい加減にしろ!

 遠山殿、弟が大変無礼な事を言って申し訳ない。我らにとって協力してくれる国衆こそ武田の礎。どうか今の発言は水に流していただけないだろうか?」

「しかし兄者……」

「五月蠅い! この場において大将はこの私だ! これ以上勝手な事をするでない。

 ……この天気に加えて敵の陣容がまだわからぬ以上、無闇に動かないのが最善策。明日の朝、準備を整えてから攻撃を開始する。各将、敵方の夜襲には警戒するように。今日の所は以上とする! 」


 遠山さんから勝頼を引き剝がし、義信が場を収める。集まった将兵たちはそれを見て散り散りに自分の陣へと戻っていった。勝頼もあからさまな舌打ちをしながら退出する。全く、本当に困ったヤツだ。


「済まないな、寿四郎どの。迷惑を掛ける」

「いえいえ、流石に疲れましたね」

「ああ、全くだ」


 互いに顔を見合わせて苦笑する。とりあえず今日はそれでお開きとなった。

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