第45話 まさか我が子以外も突き落とす虎が居るとは聞いてなかったわ
「先程の話し合いで北条殿は関東平定、朝倉殿は加賀一向一揆と戦う事を明言しておられたが、我らも我らなりに動こうと思う。私は越中を制して能登、信玄殿は美濃を制して飛騨じゃ」
先程までの子供を抱っこしてあやしていた雰囲気とは一変した輝虎が、自分の豆札を越中の方にバチン、と置きながら明言する。本当に別人かと思うレベルだ。子育てママとキャリアウーマンの二つの顔を使い分けるバリキャリの管理職、みたいなね。ついでに言うと声のトーンまで1オクターブぐらい違う。
「ワシの方は飛騨の姉小路家と、輝虎の方は越中半国を押さえ有力国衆とは既に話が付いておる。問題は織田信長めに狙われておる美濃をどうするか、よ」
信玄の方は美濃攻めについて話し出す。確かに史実だと美濃は斎藤道三が倒された後、それを倒した息子の義龍も数年後に30代前半の若さで急死。孫の龍興が若くして家を継ぐものの、信長には敵わず離反者続出して最後は斎藤家滅亡。だったような気がした。
うろ覚えの記憶だけど大体合ってるみたいで、報告ではもう既にそうなりつつあるらしい……自力で信長に抵抗するのは無理なラインに来ているとか。
「美濃・斎藤龍興とは一応の同盟を結んでいるとはいえ、重用している家臣らと共に酒と色に溺れもはや愚鈍で救いようもない状況。織田信長などにこの地を押さえられるならば、ここはワシが一計を案じてまとめて稲葉山城から追い出し、美濃を取る方が我らにとっては得策じゃろう。じゃが」
地図上の飛騨方面の黒い碁石を一つ一つどかしていき、美濃の本拠地・稲葉山城の『斎藤龍興』と書かれた豆札をひっくり返す信玄。だがその後で稲葉山城の下側、小牧山城と書かれた場所を指差して言う。
「その間、尾張より攻め上ってくる織田信長めを押さえつけて足止めを食らわせる役割が必要じゃ。寿四郎、頼めるか?」
え、今サラッと『捨て石になって死んでこい』的な発言しましたよね?ウチの家臣団は有能なのが多いとはいえ、あんな常軌を逸した化け物に対峙できるとはまだ全然思えないんすけど……
「武田からは我が息子の義信と勝頼を出すつもりじゃ。じゃが先程の様子でも分かる通り、あやつら……ことに勝頼は顔を合わせればあの調子。当家とは別の者の考え方・やり方を学ぶことで考え方も変わってくれればというのもあってな」
ライオンは我が子を谷底に突き落とし、這い上がってきた者だけを育てるという……っていうのは聞いたことはあるが、まさか我が子以外も突き落とす虎が居るとは聞いてなかったわ。あんな話の通じない野生動物みたいなヤツとヘイト買った今の状態で一緒に戦場に、しかも狼の群れみたいな連中の最前線に放り込まれるとは……やっぱサラッと死んでこいって言われてるパターンですよねコレ。
とは思ったもののそれは口に出せずに承諾する形になり、戦支度の為に一旦駿河へ戻る。出陣は準備が整い、一旦暑さの落ち着いた閏8月(太陽暦では9月)になった。
「ダメよそんなの!! 何考えてるのあの鬼瓦!!! 」
帰って顛末を説明するなり、烈火のごとく怒りだす正室・光。
「よりにもよってあの信長と戦う最前線だなんて! 自分が行けばいいんだわ! ちょっとお父様に抗議の手紙書いてくる」
「ちょちょちょ待って待って! それはさすがに」
「そうでござるぞ、お光様!! 」
騒ぎを聞きつけた軍監が話に割って入ってくる。コイツの頭の良さなら何か説得材料とこの状況を打開する方法があるんじゃないか?
「信玄殿ほどの戦上手ならば織田の軍勢を前にしても、互角の勝負をしてその場に引き留める程度の事は出来ましょう。その役割を敢えて息子たちと、息子同様に目を掛けている寿四郎どのに任す事で戦国武将として新たな高みへと成長させようとしておられる。それをどうして止めようとされるのか」
だぁぁーやっぱり谷底へ叩き落すパターンなんじゃねえか! それ聞いたら俺も北条に頼んで無茶ぶりは止めてもらう作戦の方が良い気がしてきたんだけど!
「ようは戦にてケガをしたり命を落とす危険を無くせば良いのです。そこでこちら! 」
お!? 新たに何かそんな便利アイテムでも出てくるのか?と一瞬期待したが……
軍監がドヤ顔で紹介したのは中世ヨーロッパ映画なんかでは見覚えのある、銀色の全身鎧だった。アレね、貴族の屋敷の廊下なんかに槍もって飾ってあるヤツ。実際に見た事はないけど。
「南蛮より小田原に持ち込まれた防具『ふるぷれーと』なるものにございます。このように顔と頭部も含む全身が厚い鉄板で覆われていてコレなら刀や矢はおろか、鉄砲の弾でも跳ね返しましょう! 」
いや、防御力はそうだろうけど……コレ着て動けんの?
「先ほど多羅尾どのに試しに着ていただいたが、大きさについては申し分ありませぬ。ただ……普通の鎧の3倍近い重さですので多羅尾どのでは指一つ動かせませんでしたが。そこは大将は動かないものなので大丈ぶ……」
言い切らないうちに光が甲冑に全体重を載せて蹴り飛ばす! 見事なヤ〇ザキックを食らった甲冑はドンガラガッシャーンと派手な音を立てて横倒しになった。
「ああっコレ高かったのに」
「そんなモノ、本陣に攻め込まれたらタダの的じゃないの! 溶かして鉄砲の弾にでもするがいいわ!
そんなのよりも私は父上に有能な武将を送り込んでもらえないか聞いてみるわね!! 」
言うが早いか、氏康への手紙を書きに走る光。新品のプレートメイルを派手に倒された軍監はしばらくショックで典型的なorzの型で放心していたが、自我を取り戻す。
「それならば私も殿に敵を近づけぬよう、この駿河にて有能な武将を必ずや見つけて参ります」
「なるほど、そういう事ならば拙者も所縁ある甲斐にて強者をお誘いしてこよう」
ドンガラガッシャンを聞いて駆け付けたマグロも新武将のスカウトに加わる。そういえば彼は俺がまだ国衆で小原に動向をマークされてた時期、甲斐で兵の訓練をしていたんだったな。
こうして三方面のスカウトにより新たな戦力を得た俺達は着々と準備を進めた。
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