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第36話 駿河の後継者

この話でもしかしたら久々登場の登場人物(略称と正式名称)

ノブ=朝比奈信置…駿河今川御三家、朝比奈家の当主

ヤス=朝比奈泰朝…遠江朝比奈家、掛川城主。ノブとは血縁がある

オカ=岡部正綱…駿河名門岡部家の猛将。岡部元信とは同族

永禄7年(1564)4月。


 駿府から安部川を渡り、4里(約16キロ)ほど山に入ったところにある城、朝比奈城。今川家の重臣御三家の一つ、朝比奈家の居城である。


 この山城に駿河今川の重臣である瀬名家・関口家やオカの出身である岡部家、三浦・庵原・由比・小笠原といった有力国衆などが集められていた。ノブの従弟であるヤスも富士城の富士信忠もいる。全員、先日の駿府今川館襲撃について協力または賛同する返事をくれていた者たちだ。その真ん中には蹴鞠王子・氏真が居りその一段下の上座にノブこと朝比奈信置と、何故か俺が並んでいた。


「皆の者、良く集まってくれた。駿府今川館は先の戦で焼け落ちたが故、此処をひとまずの氏真様のおわす本拠とする」


 ノブがまず初めにそう説明する。先月の小原一味との戦いで駿府の町は元々荒れていたものが更に酷くなり、今川館も小原鎮実の爆発させた火薬で崩壊し、使いモノにならなくなったからだ。

 それでも俺たちと王子が生きていられたのは先に女中として潜入していた雪菜が人質を裏庭側に逃がし、火薬の大半を時化させていてくれたかららしい。とはいえ大広間を中心に崩落したモノを建て直すのは困難なのもあり、比較的守りが固く遠江から離れたこの地に居を移した、という事だ。


「余は今まで逆賊・小原鎮実の言にしか耳を傾けず、そなたらを遠ざけて駿河・遠江を治める者として幾つもの判断を誤った。その責を取るとともに、この事態を治め逆賊・小原を討ち取ってくれたこの浜 寿四郎の恩に報いたいと思う」


 居並ぶ今川家重臣の皆様が頭を下げる。なんていうかこう、照れくさいなこういうの。


「今の余には、この今川家の当主として駿河・遠江二か国を治めるほどの力は無いと思っておる。ゆえに……遠江は長らく我が右腕として才を揮ってくれた朝比奈信置に、駿河はこの浜寿四郎に任せたいと思っておる」



え!!!?



 さすがにそれは俺にも寝耳に水だった。居並ぶ皆様に動揺が走る。


「御屋形様、信置様を国主とするは異存ございませんが、浜殿では家格というものが……」


 今発言したのは手紙のやり取りしか覚えがなかったけど三浦さんだったっけか?そりゃそうだよね。言いたいのはよーく分かるよ。やっぱりここは……


「この者は甲斐武田・小田原北条に果ては越後上杉まで信頼を得ており、その才を認められておる。だがそれだけではない!

 失意と絶望から誰の言葉も耳に入らず、自刃を考えておった余の心に寄り添い、そこから救い上げてくれたわが命の恩人ぞ! そのような者に家格がどうなど関わりがあるか! 」


 王子がそう言い、反論を遮る。コイツ、こんなアツい奴だったか? 今の言葉にも家柄を重視しそうな年寄衆はうーむと顎をさするが、ノブは目頭を押さえている。どうも泣きポイント直撃したらしい。


「俺……拙者も『御屋形様の心を救った恩人』となれば、御屋形様のご意思を尊重すべきかと思います」


そう賛同の言葉を継いでくれたのは、近習時代は何かと対抗意識を持ってたし俺の昇格を一番に反対するんじゃないかって思っていた男、ヤスだ。そこに続いてオカとノブも援護を続けてくれる。


「左様、寿四郎殿の家格に寄らぬ優秀さは一緒に近習を務めておった時より知っております」

「私も、駿河・遠江と肩を並べ良き地としていくには寿四郎殿の手腕が適任かと」


今まで大丈夫か?という顔をしていた者たちも『名家の後を継いだ者たちの推薦』となると話が変わってくるらしく、話し合いの雰囲気が変わってくる。インフルエンサーの影響力、ってどの時代でもデカいのね。近習時代の繋がりがこんな所で役に立つなんて思わなかったわ。


「だがその前に一つ!! 」


と叫んで王子が立ち上がると空気が一変する。今ちょっと良い感じで話がまとまりかけてたのに……いつだって空気読まんのな。


「『東国一の弓取り』と呼ばれた父・義元の率いた誉れ高い今川家として、最後に成し遂げたい事があるッ!! 逆賊・松平家康を討ち払い遠江を我らの手に完全に取り戻す事を、余の今川当主としての最後の大仕事としたい! 」


先程まで議論に講じていた一同からおおおっ! って感じの歓声が上がる。


「そしてその大戦の中で、この寿四郎が活躍を見せたとあらば、駿河の国主とすることも異存はあるまい! そうであろう皆の衆!!! 」


 そう言って腕をつかんで立ち上がらされる。さらにボルテージの上がる歓声。なんだよこれ!? ようは力を示せばまだ押し切れない反対意見も吹っ飛ばせると言いたいのだろうが……やっぱこんなキャラだったか? コイツ。


「出陣はひと月後とする!余が総大将を務めるゆえ、朝比奈信置、泰朝、岡部元信、正綱、そして浜寿四郎! そなたらは兵を率い、高天神城に参れ! 他の者は追って沙汰する!! 」



 そして評定が終わり、宴の膳が運ばれてくる。もちろん我が浜家が誇る、現代からみたら伝統食でこの時代から見たら超近代美食、寿四(寿司)だ。今回は真鯛にヒラメにメバルなど駿河湾で採れる生臭みの少ない白身魚が中心のチョイス。生魚に食べ慣れていない者にもとっつきやすい構成となっている。いつだったか『生の魚を食うなんて野蛮人の極み』って武力一辺倒の野蛮人に言われたことがあったからね。


「寿四郎!! 貴様こんな美味いものを食っていた事を隠してたのか!? 羨ましいぞ卑怯者!! 」


とそのお方は寿司を一つ口にした途端に態度豹変してたけど。あの発言は蒸し返さないでやるか。


「蹴鞠の才といい、お前には毎度驚かされる事ばかりだ。だが何より、お前はあの信玄公のお心を動かし頑なになっていた殿のお心をも動かした。お前の一番すごい所はそこだと思う」


 ノブが改めて礼を述べながらそう話す。俺個人としてはその場その場で思ったことを正直に言っているだけなんだが、それがこの時代の感覚とは違うところが良かった……のか?


「しかし、これからの戦いに勝って初めて功が認められるというもの。しかも相手はあの松平の小倅だ。我らが果たして無事に勝てる相手かどうか」


 ノブの記憶にある家康は駿府での人質時代、身体が弱く武術や身体を動かすのは苦手だと蹴鞠には参加せず、ずーっと一人で囲碁の盤に向かっているか本を読んでいるガリ勉陰キャタイプのお子様だったという。

 そのクセ太原雪斎の教えを習う者の中では常にトップで今川義元にも目を掛けられ、桶狭間以前の戦いでも無理と言われた作戦を見事遂行したりと目覚ましい活躍を見せたらしい。頭が相当キレるタイプなんだな、ネジもぶっ飛んでるけど。

 そしてそんな家康の率いる三河家臣団は結束が強く「殿の為なら代わりに死んでも」という熱狂的な家臣を何人も抱えているんだとか。


 そんな奴にこの布陣で勝てるのか? 父親と同じく舐めプで全滅とか御免だぜ? と思って王子に目をやると岡部元信・正綱を捕まえて『どっちもオカだと紛らわしい』だとか『どっちをオカと呼べばいいんじゃ』とか議論している。不安だ。不安過ぎる!!


「……死ぬなよ。お前が死んだらこの寿四ってのを食えなくなる」


俺の肩をバシッと叩き、言葉少なに告げるヤス。俺の心配より寿司の心配、ってどこぞの氏政と一緒かよ。


「いや、そうじゃなくて、なんだ……俺は、お前を認める。だから、勝つぞ」


照れくさそうに言い直す。最初からそう言ってくれりゃいいのに。でもやっと認めて貰えたみたいで嬉しいぞ。


そうして俺達は翌日から今川家臣団としての最後の戦いに向け、準備を始めた。

ご観覧ありがとうございます。

是非とも面白い作品に仕上げていきたいと

思っておりますので感想など戴けると嬉しいです♪

つぎはいよいよ第一幕ラストバトルです。

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