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第25話 白い闇

 今回は作者としても書きあげるのもしんどかった、見る人からしたら「胸クソ回」です。イヤだなーと思ったら次の26話に読み飛ばされるのもご一考ください。

 それを鑑みまして毎日一話ずつ更新予定でしたが26話は本日18時に投稿予定です。

 曳馬城の戦い(という名の虐殺)の渦中で倒れてから先の事は何も覚えていない。


 気が付いたら勝手知ったる、はま家の城の俺の部屋に寝かされていた。


 聞いた話では傷ついた俺をサバが馬に乗せて必死でここまで運び込み、傷の手当てを受けた後は昏々と眠り続けていたのだという。


 サバ自身もあちこちに刀傷を作っていたが何とか回復して、俺が目が覚めた段階ではもう槍の訓練に出かけているそうだ。だがそれ以外の戦に参加した兵や将たちは行方知れず。恐らくは戦死したのではないかと言われた。


 それなのに俺が生き残っている事が何だか夢みたいに思えて「これはタイムリープとかそう言うのなんじゃないか」とも思ってみたが、夢ではないって証拠みたいに右肩から先は力が入らず、だらしなく下がったまま。鉄砲の弾は貫通していたが、どうやら力は戻らないらしい。これじゃ槍なんて持てないから、敵討ちも出来ないな。


もう……出来る事なんて何も無いんだろうな。


 落ち込んで何もする気が起きずにいる俺に、魚兵衛兄はよく釣った魚を持ってきて捌いてくれた。夜になるとその刺身をツマミに酒を飲む。

 魚兵衛兄は戦での事やこれからどうするかは聞こうとはせず、その日に釣りであった事や前の釣りでどんな魚と格闘したか、子供の頃に俺たち兄弟にあったエピソードとかを話してくれる。それが何というか、居心地が良かった。

 転生(転身?)した俺には子供時代の話なんて分からないのに、何故かその話の中に出てくるような気分になってもうずっと前からの本当の兄貴のような気がした。

 そうやって二人で穏やかな気分で酒を飲み、酔っ払って広間の床で雑魚寝して、朝になって真冬に二人揃って怒られる、今はそれが心地良かった。


 でも兄もいつも城に居るわけではなくて、何処かに出かけてそのまま戻らない日なんかもあった。

何日かは一人で誰とも話すことも無く酒を飲んだが、そういう時は気分がどんどん落ち込んでいって、不安で仕方なくなる。


 俺達を前線に放り込んだ小原の手勢たちの「ほれ! さっさと死んで来い」と言いたそうな愉悦の表情。

 大将首と聞いて群がってきた三河兵たちの獲物を狙う獣のような血走った目。


 目の前で小春を死なせてしまった事の後悔と悲しみ。


 酩酊してくるとそれらが目の前でフラッシュバックして一人でいる事が怖くなって、涼夏を呼びつけて何度も抱いた。若芽は用があるとかで甲斐に戻っていたので涼夏が居ない時は千秋に代わりに側に居てもらった。


だが良くも悪くも、二人とも小春と顔が瓜二つなのだ。


 コトの最中……終わった後……そのまま眠りこけて朝目覚めた時。どれかのタイミングでどうしても小春の事を思い出してしまって今、目の前にいるのは小春ではない事を思い知ってしまう。

そしてその度に自己嫌悪と嗚咽でボロボロになっていたんだ。


 そんな事を繰り返して、ある時から二人は俺の前に現れなくなった。きっと俺に愛想をつかしてしまったのだろう。そうだよな、こんな何の役にも立たない酔っ払いのクズ男は捨てられて当然なんだ。



砦の外に見える緑は赤く色付き始めていた。



 入れ替わるように甲斐から戻ってきた若芽に俺は酒を飲んで酔っ払うと同じ事を求めた。


 そんな事をすれば愛想をつかされて居なくなるだろうって事は冷静に考えれば幾らでも分かる話。って思ってはいても、誰も居ない砦の自分の部屋に籠っていると段々考えが良くない方向に引っ張られていって、どうしても誰かのぬくもりが無いと不安で仕方なくなってしまう。まるで脳の中だけが白濁した濃い霧の中を彷徨っているような泥沼の中に居るような気分だった。


サバはそんな堕落した俺を一瞥して砦から出ていった。


 若芽は俺の事を拒みもせず、ただ受け入れてくれた。身体が繋がっている時だけが、唯一生きていると思えた。それ以外の俺は自分をまるでボロ雑巾だと思っていた。

もうこのままドロドロに脳まで溶けて人では無いナニカに成り下がってしまえば、過去を思い出すことも何かを目指すことも何も無いのだろうか。


何も要らない、もうこのままそれだけで。


若芽、一緒にそこまで堕ちてくれないか?



 俺はもう、そんな風にしか考えられなくなってしまってたのだけどある日、若芽は誰にも何も告げずに甲斐へと戻っていった。



普段は温暖な駿河に冬の嵐が近付き、珍しく雪が舞った日だった。



 もう、俺の元には誰一人残ってはいない。家臣だった奴らは誰一人顔を合わすことは無いし最近では魚兵衛兄の顔も久しく見ていない。ただ食堂のオバちゃんみたいな女中だけが朝と晩に部屋の外に飯を置きに来てくれるだけだ。

 そもそもこの部屋を出た所で、こんな奴と誰がマトモに話してくれるというのだろうか? 右腕も使えずに槍も振るえず、落ち込んで酒に溺れるしかない自堕落なクズ男に成り下がった役立たずのこんな俺なんかに。



もういっそ、死ぬか。

それとも、左手に刀一本で駿府にでも突撃するかな。

そこで華々しく命を散らせば、小春は笑ってくれるかな?



そんな事を考えながらただ横になって深海魚のように動かずじっとしていたある日、俺の部屋の障子戸が開け放たれた。

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