第21話 新☆三国同盟
前話までのあら寿司
越後での謀叛を鎮圧しました。
「これは一体どういう事だ!! 説明してもらおうか! 」
怒気を含んだ声で輝虎が捕縛された者たちを問い詰める。あー、この姿見てたら女だとは気付かないわ。
「我はそのぅ……御屋形様の留守中に春日山城が奪われたと聞いて、思わず信じて合流してしまっただけなのじゃ……」
先程の戦場での呂布っぷりがウソかと思うようなか細い声で北条が言う。
「高広! そなたは何でもかんでも信じすぎだ。
……して、誰がそのような事を吹き込んだ!?」
「ワシじゃ!春日山さえ落としてしまえば我らが天下!! 越後に帰参した御屋形様に城を返すのと引き換えに揚北の独立も認めてもらえようというもの」
呂布もどき二号機こと、本庄繁長が悪びれずにそう言う。他の者たちも「そうだそうだー」と口々に野次を入れる。
そして決定的な一言を色部・鮎川が口にした。
「そもそも、御屋形様が越後に居れば防げたことじゃろうが! それを関東管領なんて称号貰って喜んで関東ばっかり行きおって」
「そうじゃそうじゃ!もっと我らの暮らしぶりを見てより良い国を造る事に集中してくれりゃ、ワシらは御屋形様に付いていくというのに! 」
彼らの言い分はド直球の正論だ。そんなこと言われりゃ言い返せると思えない。輝虎は肩を震わせ、下を向きながらその言葉に耐える。
「そんな事言われてたって……」
「そんな事を言われても、関東管領職を引き継いだからには関東の地に安寧をもたらすのは自分の役目、そう思っておいでですかな?」
輝虎が顔を上げて見据えた先にはニコニコとして仙人然とした中条藤資がいた。ってかいつの間に縄解いたんだよこの化け物爺さん。
「それでは、御屋形様に問いましょう。
上杉憲政殿が居られず、関東にも兵を送らずとも平和が保たれるとしたら、御屋形様はこの越後の為だけに働いてくれますかな?」
表情が見えない笑顔の奥に一瞬だけ、凄みを見た気がした。この返答次第では、戦で負けた事が無いと言われる上杉輝虎でさえも斬り殺されるかもしれない、そう思わせるほどの威圧感だった。
その時。
「おおーい、輝虎殿ー!」
単騎で浜辺を馬で駆けてくる男が一人。この声は信玄だな。
「先程の戦い、この信玄も後方より見ておったが流石は毘沙門天の生まれ変わり、大したものじゃ! 寿四郎もなかなかの戦いぶりじゃったぞ!」
乱入してきて全く空気読まないのな。知ってるけど。
「そうそう!そなたが目の上のタンコブと感じておる上杉憲政じゃがな。ワシの手の者で始末しておいたわ、あと長尾政景殿もな」
イキナリ現れて何つー爆弾発言ですか!!アンタって人は!?
びっくりしすぎて俺も輝虎も周りにいる上杉家の人達も口が塞がらない。
「春日山で幾つか問答したんじゃが、アレが悩みの種なんじゃなぁと判ったのでな……『春の越後の海を見てみたい』と馬で遠乗りに誘い出してこう、ドーーーーーーーンって感じじゃ!
落馬での事故という事で片づけられるじゃろう」
そう言って信玄は高笑いをする。こええ、こえぇよアンタ!
「じゃがワシが手を下さずともそなたの配下も同じ事を考えておったのじゃな。
宇佐美定満どのは『あのような輩、ワシが舟遊びにでも誘い出し仕留めておったのに』と悔しそうに言っておったわ。良い家臣に恵まれてるのぅ」
そしてまた高笑い。ええっと、どっちにしろ消してたって感じなんですね?俺の疑問に対して中条の爺やが答え合わせをする。
「いやはや、さすがの名将、武田信玄公には敵いませぬな。
姫を……いや御屋形様を幼少より見てきたワシと宇佐美殿の最後の仕事として兵を関東にばかり向かわせようとする上杉憲政と、内乱を企む長尾政景の二人だけは刺し違えてでも排除しなければと話し合っておったのだが……
そうか、それも全部お見通しというワケか!! 」
釣られて中条の爺やも高笑いをする。内心はこんなキャラだったのね、じっちゃん。ひとしきり悪だくみの高笑いが収まって、信玄は改めて輝虎に言う。
「これで、そなたを縛り付ける鎖は無くなったハズじゃ。
これより後は我ら武田・北条と力を合わせ、自らの治める国を戦も貧しき民も出ない地にする為、共に戦ってはくれまいか?」
上杉輝虎はひとしきり考えた後、口を開いた。
「よもやここまでお膳立てされてはな……その話、乗らぬわけにはいくまい。
家中の意見をまとめ、後日改めて場を設ける事を約束しよう」
そうして永禄6年(1563)5月。
上野国(現在の群馬県)厩橋城に
武田信玄・北条氏康・上杉輝虎の3者が集まって三国同盟の締結が行われた。
いや、先にあった三国同盟は甲斐・相模・駿河だったから新・三国同盟とでもいうべきか。
3者は1時間ほどの話し合いで内容を詰め、基本として
一、原則的に三国間での戦はしない事
二、領国間の人や荷駄の行き来を制限しない事
三、お互いの国の武将に対する引き抜き、謀略も行わない事
などを取り決めた。まあごくごく一般的な和平同盟だ。
それから北条・上杉間での関東どうするか?問題が揉めるかと思われたが、北条氏康が放った一言に上杉が同意したことで難無く決着した。
「上野一国は上杉にくれてやる!!関東にあってワシに不満を持つ者は上野の地に移れるよう取り計らうが良い!!」
そんな事をして集結した反北条勢力が挙兵するような暴挙に至らないのかと心配になるが、輝虎がそれをさせない様うまくやる事も含めての妥協案らしい。そもそも北条に従えないのなら上野への転封も断るだろうし。
その辺は上杉の手腕によるのだろう。
この時代の約束手形みたいなもので人質交換も同時に行われ、北条氏康は7男の北条三郎を上杉輝虎に差し出し、子の居ない上杉輝虎は先日亡くなった長尾政景の嫁で実の姉である仙桃院とその子、喜平次顕景を差し出した。
7男が成人したら上野国の国主とする約束付きで。
そうなったら結果的に上野も北条家のモノになるような約束だし、謙信の甥っ子っていえば子の居なかった上杉謙信の死後に越後上杉を継ぐハズの人物だったような気がするので大丈夫か?と俺は思ったが本人達が納得済みならば俺は何も言えない。
10年ぐらい経ってこの三人が亡くなった後で「こんな筈じゃなかった」って展開にならなければ良いのだが。
その後は我が兄、魚兵衛兄によって寿司が振る舞われた。
越後の米・甲斐の寿司酢と葡萄酒・相模の魚でわざわざ用意された寿司に感嘆の声を上げていたのだそうだ。
中でもほぼ初めて寿司を口にする輝虎は完全に女子に戻り「何コレうっま!」って感じで瞳を輝かせていて、それを横で見てる武田信玄の頬が緩みまくってたんだそうな。
あー俺もその光景は見たかったわーコンチクショウ!!
うん?その場に俺は居なかったのか?だって?
そう、その時の俺は別の案件で別の場所に呼び出されていたのだ。
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