尋問
六月中旬。例年より早く梅雨が明け、目に染みる程真っ青な空から燦々と太陽が照りつけるある日、僕は同級生の女子と学校から帰っていた。
「今日君の家に行ってもいい?」
何の前触れもなく一緒に帰っていた女子に尋ねられた。
「えっ、なんで急に?」
「いや、最近化学難しいじゃん?ちょっとついて行けなくてさ。君、化学得意でしょ?よかったら教えてくれないかなあと思って」
「だったら図書館とか行かない?カフェとかでも勉強はできるし」
昼下がりの強い日射しがじりじりと皮膚を焼いていた。
「どうして君の家じゃダメなの?私は君がどんなところで生活しているのかにも興味あるんだけど」
「いや、特に片付けもしてなかったから散らかってるしさ。今度片付けたときにおいでよ」
背筋をゆっくりと汗が伝うのを感じた。
「私は全然気にしないよ?それにここからだと図書館とかカフェより君の家のほうが近いじゃん」
額から汗が噴き出し、たまらず手で拭った。どう言い逃れしようかと考えるうちに次第に俯きがちになり、気づけば視界にはアスファルトで舗装された灰色の地面だけが映っていた。
「もしかして私に見られたくないものでもあるのかな?」
口元に笑みを浮かべた彼女が僕の顔を覗き込んできた。第一ボタンの開いたワイシャツから、白く艷やかな胸元が見え隠れしていた。頭がくらくらした。速くなった鼓動と呼吸を必死に押し殺していた。あくまで「いつも通り」を装わなくてはならない。
「じゃあ今日はやめておこうかな」
えっ、と拍子抜けして思わず漏れた情けない声に、彼女はくすくすと笑った。
「その代わり来週には絶対君の家に遊びに行くから。ちゃんと準備しておいてね」
そういうと彼女は、じゃあまた明日、と手を振って歩き去っていった。
気づけばもう自分の家の前だった。
彼女の姿が見えなくなるまで家の前から見送ったあと、扉を閉め、鍵をかけた。
「これじゃあ、まるで尋問じゃないか……」
溜め息混じりに独り言を呟いた。