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君が語る僕の詩-①

ユリアシティに流れ着いて一週間が過ぎた。

その間、ゼンはユイからこの国の情勢についていくつか話を聞くことが出来た。

「この国は厳密に言えば国の体裁を成してはおらん。この都市を中心に複数の地域が密集してユリアの教えという一つの共通点を持って国の形をもしておるだけだ。ユリアの教えが無くなればすぐに瓦解してしまうほどに脆い楔でかろうじて存在しておるだけなのだよ」

ユイは自室に置かれた天蓋付きのベッドに無防備に寝転がりながらゼンに話し続けた。

ユイの自室は、やはりだだっ広い空間にベッド、クローゼットに調度品のテーブルが置かれ、ステンドグラスのようなアンティーク調の窓が燦々と照らす日の光を取り込み部屋を明るくさせる。

寝起きというには昼下がりもあり遅すぎる気がしたが、この一週間で目の前のお姫様を見てきた限りいつもの光景なのでついに何も言わなくなった。

「そういえば最初はただの礼拝堂なんだったっけか」

「うむ。うぅむ」

ユイがベッド脇に置かれたサイドテーブルの上の菓子類をとろうと腕を伸ばす。しかし、幼児体型のユイはなかなか菓子に手が届かず手招きをするような格好になってしまっている。

「こら、菓子を食うならせめて起きろ」

「なんじゃい、我は空腹なのだ。そう言うならおぬしが我に食事を持ってきてくれれば良いでは無いか。ほらはーやーくー。ご〜は〜ん〜」

「俺はお前の執事でも召使いでもねえんだよ」

「召使いだか飯使いだかどうでもいいわい。ええい、仕方ない」

そう言ってユイが服を脱ぎ出す。

「ってバカ!いきなり着替えるやつがあるか!そういうのは俺のいない場所でやれ!め、メイドとか家政婦とかそういうヤツいねぇのかよ」

ゼンは慌てて目をそらす。

そう言えばここに来てからユイと女騎士以外の人間を見た記憶がない。

「・・・・・・居らんよ。最初に言うたであろう。ここには城主である我以外居らぬと」

「・・・・・・なんで、って聞くのは野暮か?」

ユイは傲慢不遜な笑みを絶やさない。常に支配者でいようと態度で示す。だが、その笑みの奥に眠る感情までは完全に隠せていない。

「おぬしも超越者ならば、ましてや1000年もの間封印されていたような者ならばわかるだろう?超越者というものは孤独なのだ。人であって人でない。どれだけ傷つこうとも、寿命を迎えたとしてもそう容易く死ぬことは無い。そんなモノは人とは呼ばぬ。・・・・・・化け物だよ」

ゼンも封印される以前のことを思い返す。

家を追われ、友を無くし、身よりもなく連れられたのは孤児院とは名ばかりの人体実験施設だった。国が極秘に行っていた超越者狩り。まだ、魔法というものが未知であった頃だった。

世界が、混沌にのまれはじめた現在の世界の黎明期。

やがて大戦に身を置くことになるゼンにとってみればこの半生はろくなものではない。誰に話すこともないだろう。

「この世界じゃ超越者は神みたいなものだと聞いたが・・・・・・」

「触らぬ神というやつだな。もはや威光を集めていたのは原初の超越者たちだけだ。こぞって居なくなった今、世界がどう動くか予想もできぬ。いや、逆にわかりやすい結果がもたらされるやもしれんな」

その言葉の真意を図る。

「・・・・・・戦争、とかか?」

「そうだな、その点に関してはゼン様の方が詳しかろうよ」

言われてしまった、とばかりにゼンは肩をあげる。

「俺が見た感じだと、この世界の文明は俺のいた時代とさほど変化がない。いや、むしろ逆行してる感じだ。何故なんだ?」

ゼンはユイに尋ねると、「停滞しておるのだよ」と短く返された。

「1000年前の大戦の後、文明は一度滅んでおるらしい。そこから新たに魔法が主流の文明が栄えたがそれも400年とせんうちに停滞してしまった。そこからは衰退と低迷を繰り返した。今の文明と文化もつい200年前にポッと出たものだ。それも過去の遺物の劣化コピー」

ゼンはそれでもまだ納得出来ていなかった。そんなに簡単にいくとも思えないが、それでも機械文明の一つや二つでも発達してもおかしくないはず。何よりその時代を知るはずの超越者が五人もいたのだ。

なのにゼンのみたてではこの発達しているユリアシティでさえも19世紀頃の印象が強い。化石燃料を使用していない分、環境汚染は深刻ではなさそうだったがそれでもあまりにも進歩がない。

「この数百年で一度も大きな危機はなかったのか?災害や病、戦争とかは?」

「災害は何度かはあったが、被害地域の犠牲者は超越者の庇護下にあればそうも深刻ではなかったな。病も過去の資料が残っておったらしい。発達こそしなかったが、治癒魔法にその理念体系が残っておる」

ユイはまるで教科書をなぞるようにすらすらと語る。

「戦争にいたっては黎明期の領土争いが落ち着いて以降、超越者たちが協定を結びそれを禁じたのだ。よって国境沿いの小競り合い程度におさまっておる」

ユイは脱ぎかけの寝間着のまま、ベッドの縁に座りおもむろに足を組むと挑発するようにゼンの膝に右脚を滑らせてくる。

「と、いうのが現状の大陸の情勢だ。質問はあるか?」

「そうだな、なぜ今そんな格好でちょっとえろいことをしようとしているのかを聞いても?」

「気分よ。何となくおぬしはからかうと可愛い反応をしそうだから」

そう言いつつユイは脚をすぅっと下腹部へと向け・・・・・・そこで脚が届かずぷるぷるしていた。

「お前な、ただでさえ見た目がなんかの条例に引っかかりそうなんだからそういうのやめろよな。届いてねぇし」

呆れつつもゼンはその脚に触れて退けても良いのか逡巡していた。触った途端にセクハラだなんだと訴えられないだろうか。そんな法律がこの国にあるのかは知らないが。

「やかましいわい!我も好き好んでこの体躯ではないわ!ってきゃぁっ!?」脚を戻そうとして体を起こしかけた瞬間ユイが体勢を崩した。



「ゼン。ユイ様に話は聞けましたか?ゼン?」ティアの声が扉の外からする。ドアをノックし返事がないのを確かめると「開けますよ?失礼いたしますユイ様」


「うっ・・・・・・ぃ、ててて。あ、ティア?なんだ。どうしたそんな顔・・・・・・し・・・・・・て・・・・・・」

絶句し、軽蔑する顔を向けるティアの視線を辿り、ゼンは首を向ける。

「・・・・・・・・・・・・ふぎゅう・・・なんじゃ、なんか・・・固い・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。・・・・・・・・・っ!!なっなななっなっ!!」


ユイの顔が完全にゼンの股ぐらに埋もれていた。

誤解のないように言っておくとユイが感じている固いものは大理石でできた立派な床である。断じて股間にあるものでは無い。

それでも傍から見たこの状況はどう見ても誤解しか与えず、彼女の見た目からすれば完全にアウトな光景だった。

ティアはかつての主が幼女相手に欲情している様を見せつけられているのだ。誤解であろうと不愉快なものであることに変わりは無い。

ゼンは必死に弁明を試みる。

「ま、待ってくれティア。ちゃんと話は聞いたぞ、その、これはだな・・・・・・」

「えぇ、わかっています。おおかたユイ様がベッドから起き上がる際体勢を崩して転んだのでしょう」

上手く言葉に出来ず焦っていたがさすがは長年寄り添いあった相棒だ。ゼンの無実は晴らされた。

「良かったですね、あなた好みの幼女にもたれかかられて。この変態」

あれ?

「ご無事でしたかユイ様。こんな変態糞野郎の股ぐらにあなたの可憐なお顔を埋められて・・・・・・さぞお辛い思いをしたでしょう。さあ、顔を洗って身支度を整えましょう」

テキパキと涙ぐむユイを起こし、手を繋いでティアは浴室へと向かった。

「ティ、ティア?ティアさん?ユースティアリスさん?」

にこやかに要領よく動くティアはまるでゼンの言葉に耳を貸さない。

浴室へと向かう扉の前にたったところでゆっくりとティアがゼンの方に顔を向けた。

「ひぃっっ!」

それはおおよそヒロインがしていいようなそんな顔ではなかった。

浴室の扉が激しく音をたてて閉まる。


「・・・・・・・・・っ!違うんだってえええええぇぇぇぇぇ!!」


**********


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