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海鳥  作者: 雲音︎︎☁︎︎*.
9/10

きゅう「こわれたせかい」

【memoryー追憶ー】1章「海鳥」


口下手だがずばぬけて頭がよい“アオイ”

笑顔で過ごすがどこか寂しげな“リョウ”

日々を平和にくらす幸せな子“ヒオリ”

キレ症ですぐ手を出す“ケンセイ”


平和だった。“私達”みんな笑顔で、面白いことが毎日あった。

いつからこうなってしまったのだろう。

いつから私達は歪んでしまったのだろう。

…あぁ、元からだったっけ。


------------------‐


幸せな毎日を暮らしていたヒオリは、ある時幼なじみのアオイを喪う。彼女が本当に消えてから数週間たった日のこと。クラスメイトが自身の陰口を言っているのを聞き、そしてケンセイからも衝撃の言葉が…。重なる悲劇がヒオリを襲う。



〈1部残酷、流血表現等があります。人が死んでます。

特に今回はエンドレス鬱回ですが、自殺を推奨する意図は全くございません。〉


巡り巡るものがたり。

親友を失った少女の、ものがたり。



「俺、もう学校来ねえから。…お前ももう来んな。」


「え…。」


耳を疑った。

そして、彼は背を向けたまま、吐き捨てるように言う。


「生きてる価値がないと思うなら死ね。“ヒオリ”がしんだって、世界は何も変わらない。ヒトは結局死ぬんだから。龍治もそうだよ。アイツは生きててもそのうち俺が殺していた。」


私は思わず立ちあがり、大声で言った。

「!?、ケンセイ、どういうこと!?ころ、す…なんて、何で!??」


ケンセイは返事をしないまま階段を降りてしまった。私はその小さくなる背中を追いかけることが出来なかった。その場に立ち止まり、ただ床を見つめるだけ。足は鎖が絡みついているかのように、うごかないのだ。

しかしその間も、異常気象のせいで8月並の暑さになった日差しが私を焼き尽くしていった。


         *



龍治アオイはこのままだと世界を滅ぼしかねなかった。だから俺の目的のためにいずれ殺そうと思った。だって、奴は、『     』だから。



         *


私は結局その日は学校をサボった。

もう今日は行ける気なんてしなかったから。

家に帰れるわけもないので公園などを渡り歩いた。(家に帰ったらお母さんに何と言われるか…。)補導とかされても面倒だから、できるだけ人目につかないとこを転々とし、それが幸となったのか特に何も言われることなく夕方となった。

まぁ、私が住むところがある程度の都会とはいっても、皆結局自分の事で精一杯。私のことなど目にも入らない。

それより…

ケンセイ…殺すなんて、冗談だよね…。

だって、私たち4人でも遊んだじゃん。

楽しそうに、してたじゃん。

そんなアオイに対しての恨みがあったなんて知らないよ。


「おかしいよ…こんなの…。」


今日は嫌なことばかりが続き、一日がとてつもなく長く感じた。夏休みの頃と比べて日が短くなったにも関わらず、まだ日は沈んでいない。

あ、そうだ塾…行かなきゃ。

行きたくない。でも、行かなきゃ怒られる。

なんで勉強なんて、学校なんてあるんだ。

何もしたくない。ただダラダラしたい。

自由でいたいよ、私は。


また場所を変えようと、立ち上がると頭痛がした。立ちくらみとはまた違う感覚だった。体もだるいし、これは本格的に体調崩したか…。まあこれなら、塾とか、学校とか休む理由になりそう。

私はそのまま、いつもより少し早いが家に帰ることにした。

ドアノブに手をかけ、笑顔を作る。

よし。大丈夫!

「ただいまー!」

元気よくそう言ったが、返事は帰ってこなかった。玄関に私の声が反響する。

あれ、靴あるのにな。

耳を澄ますと、誰かと話す母の声がする。

「ただいまー…?」

私がチラッとリビングに入ると、母は慌てたようにこちらを見た。

受話器を持っていて、電話中だったようだ。

「あっヒオリが帰ってきた。ごめんなさい。切るね。」

そう締めくくりあっという間に受話器を元の場に直した。

「おかえり。今日は少し早いのね。」

ギクッ、目ざといな…サボったのバレないといいけど…。

「あ、た、ただいま。あのねお母さん、今日…ちょっと体調悪くて、塾休んでもいいかな?」

できるだけ顔色を悪そうにする。(?)

「あぁ…いいわよ。今日はゆっくりなさい。」

「あー…だよねぇ、無理だよ…ってえ、いいの!?」

こんなすんなりと了承を貰えるとは思っていなかったから、つい大きな声が出た。

「何その反応〜?…ほら、こん詰めすぎても体に悪いじゃない?」

「だ、だよね!ありがとうお母さん。」

なんだ、割と簡単に許して貰えるんだ。

強ばっていた肩が少し緩む。

2階に上がろうとした時、母が言った。

「あ、ヒオリ。明日どこにも寄らず真っ直ぐ帰ってきなさい。少し出かけるから。」

「?わかったー。」

自分の部屋に入ると、夕日の白い光がカーテンから差し込んでいた。

取り敢えずいつものグレーのパーカーにだけ着替えて、そのまま自分のベットに倒れ込む。

思ったより疲れていたようで、すぅと流れるように眠りについた。

耳鳴りが、クラスメイトの笑い声が聞こえたのはきっと気の所為だろう。



         *


何の夢をみていたかは覚えていない


わたしたち、


ずっとこどものままで


いたかったね


『もう、ぼくはぼくのきおくが信じられないよ。ねえ、どうしたらいい?』


わたしとぼくは手を繋いだ。


         *



ジリリリという目覚まし時計の音で目が覚めた。カーテンからさしこんだ朝日が眩しくてきゅう、と目を瞑った。

「朝か…。」



教室の前で一旦立ちどまる。深く深呼吸をして、ぐっと口角をあげた。

「おっはよー!!」

いつもより大きな声で言ったせいか教室中に響き渡った。

一斉に皆が私の方を見る。

「あーヒオリじゃんおはよー。昨日どしたん。」

「寝坊したからサボった〜!」

「なにそれクズじゃ〜ん最悪〜!」

「そういうことデケェ声で言うなよなー。」

そんなじゃれ合いをいつもの様にする。

自分の席についたとき、私ははじめて自分の手が震えていることに気づいた。

(みんな…本当は私なんか嫌い…なんだよな)

外は未だに最高気温を更新しているというのに、私はひどく寒くて冷たいように思えた。


昼休み、階段に出向いたが誰もいなかった。

ケンセイ…本当にこれから来ないのかな。

寂しいな…。

心安らぐ、悩みを打ち明けられる人がまた

いなくなった。私はしばらく、階段の上で独り蹲っていた。


あれだけ鳴いていた蝉の声はもうしない。

自分が酷く孤独に思えた。

これまでの思い出、小中学校のイベント、私にとっては最高だったけど皆はちがったのかな。小学生の時から私は勉強が苦手で、遊んでばかりだった。けど、まだ許された。

そういや、中学生あたりになってから変わったよな。みんな勉強とか将来に集中しはじめた。でも私は、授業は相変わらずわからなったし楽しくなかった。

お母さんに言われて入ったテニス部だって、テニス本当は得意じゃなかったし好きじゃなかった。大会、いつも散々な結果だったもん。

でも、私幸せ者なんだよな。

美味しいご飯と帰る家があって、毎日安心して暮らせる。

それだけで十分恵まれている。


キーンコーンカーンコーン…


低いチャイムの音に殴られて、夢の世界に行きかけていた意識がもどる。

やば、時間だ。戻んないと…。

むにーっと指で頬をあげ、笑顔にしてからこっそり階段をおりる。

よし、このまま教室にさっさと戻ろう。もう4分後ぐらいには、あのチャイムがまた鳴る。早くしないと、怒られてしまうよ。



数時間後。


「さようなら〜。」

終わりの挨拶がおわると、教室の中では各々の声が飛び交った。そんな中、私は静かにカバンを持って教室から脱出する。

帰りは誰も声をかけてくれなかった。

今日はお母さんが早く帰ってきなさいって言ってたから、急がないと。あぁでも、買い物とかなら行きたくないな…勉強もあるし、気分悪いし。

いくつか断るシミュレーションをするが、成功例が思い浮かばないまま私は走った。

雲ひとつない、“灰色”の空は私を見つめていた。


          *


「八色 陽織さーん」

少し高い看護師さんの声が私の名前を呼び、母と2人立ち上がる。

促されて入った室内には、50代辺りとみられる男の医者が座っていた。こちらに気づくと微笑み、座るよう言った。そして母と世間話のようなことを軽く話しているが、私はまっったく頭に入ってこない。

あぁ…どうしてこんな状況に…!

私は脳をフル回転させ、こうなった経緯を整理する。

まず、帰宅してすぐ母に「出るわよ」と車に乗せられる。

いつものスーパーで買い物でも付き合わされるかな?と思ったがスーパーとは逆方向の道をいった。

そして着いた先はここ…総合病院の精神科。

大事な事だからもう1回言うね。

総合病院の、精神科。

え、どういうこと?と訳が分からぬまま院内に連れられ、この状況である。

「ヒオリ。」

「ひゃいっ。」

突然呼びかけられ噛んでしまった。やばい、弄られるか…と恥ずかしくなってきたが、それとは相反して母は真剣な眼差しで私を見ていた。そして、ゆっくりと口を開く。

「落ち着いて聞いて。ヒオリ、あなたは『統合失調症』の可能性が高いの。」


「統合…失調症?」


聞いたことも無い。でも、多分病気…だよね。え…私死ぬのか?大病なのか?

心做しか私を見る医者や母の目が優しいはずなのに、痛い。

「心の病気。幻覚や幻聴がみえたり、考えが纏まりづらくなったりする症状がでるの。」

心…ってことは、死ぬような感じではなさそうか。あ。そういえばここ精神科だった…。

「…って、幻覚??」

私は冷や汗がたれ、苦笑のような笑みを浮かべる。

「ええ。ここ数ヶ月、気分悪そうだし、何かおかしいからお医者さんに相談したら、それじゃないかって。あなたには知らせず経過観察という事にしてたんだけどね、一旦、前より落ち着いたみたいだから話そうって思って。」

「ちょ、ちょっとねぇ待ってよ。おかしいって、どういうこと?何が…。」

母は眉を若干歪め、目を逸らし気味に言う。

「あなた、夏休みの少し前から部屋で1人なのにブツブツなにか喋っていたのよ。」


夏休み前から

私の部屋で

『ひとり』…

そのキーワードで、数ヶ月前姿を消した黒髪の彼女が思い浮かぶ。

「しかも、時折『アオイ』って…。」

あぁ、お母さんは聞いていたんだ。私とアオイの会話を。傍から見れば、1人での会話を。

「アオイちゃんはもう死んだの。それは、変わらない事実。」

「アオイは死んでない。」

私は遮るように言う。

誰よりも彼女が死んだ事を理解したはずなのに、気づけば口からはその言葉が出ていた。

「死んでない。死んでないよ絶対。だってちょっと前まで一緒に喋ってたんだもん。急に死ぬなんておかしいじゃん、なんでそんなこと言うの?お母さん。」

「死んだのよ。あなたが見ているのは幻。」

「死んでない!だってまだわたしが忘れてない!!アオイは今少し遠くに行ってるだけ!」

「海に溺れて、死んでしまったの!」

医者が止めるような動きをするが、私も母も止まらない。

「溺れてないよ、アオイは自分から沈んだんだ。あぁそうだ。誰にも私にも言わずに、リョウと2人で。私を置いていった。」

「ヒオリ!」

「どうして?ねぇどうして置いていったの?また遊ぼうって言ったのに。なんでなんでなんでなんでなんで!!!!!」

雄叫びのような声は枯れはじめ、涙が溢れる。膝から崩れ落ちて座り込んだ。

看護師何人かが部屋の中を出入りする。

ふと上を見た時に見えたのは、面倒そうな顔をした、母だった。


         *


それから後のことは、あまり覚えていない。

母がなにか薬を貰い、会話がないまま帰路に着いたような気がする。

そしてそのまま今私は、部屋でベッドにころがっている。

『あなたが見ているのは幻』

その言葉を思い出し、胸がズグリとした。

あれは、幻覚なんかじゃない。

確かにアオイだった。

触れられない手も、滑らかな黒髪も、眉をやや下げて笑う笑顔も全てアオイそのものだった。

それに、あの日、お別れした日から1度も彼女の声も姿もみていない。何度も会いたいとは思ったが会えていないのだから、幻覚なわけが無いよ。

あ…でも、いっそのこと幻でいいから現れてくれないかなぁ…はは。


「ヒオリ」


ガチャ。

扉の向こうから私の名を呼ぶ声が聞こえ、開く。暗い部屋に光が入った。

一瞬アオイかと思ったが、これは違う。数年ぶりかに聞いた、弟…陽輝の声だった。声変わりのせいか、あの頃より随分と低くなった。

それより、なんで急に陽輝が…。あの日、喧嘩した日から1回も話してくれなかったのに。

「統合失調症なんだって?」

思わず起き上がり、振り返る。そこに立つ弟は、私に笑顔を見せていた。

普通であれば久しぶりにみる弟の笑顔、喜んでいただろう。しかし、なぜか不気味に感じ寒気が走る。

「ち、違うよ。私は普通。何も見えてない!分かってよ陽輝!ねえ、最近変なんだ。皆私を疑う。」

瞬間、彼の表情から笑顔が消えうせた。

「…馬鹿なお前に教えてあげるよ。こうなったのは、全部お前のせいだから。」

「目を逸らしたから。

背けたから。

見て見ぬふりをしたから

ヘラヘラ笑ったから!

自分の意見を言わなかったから!!」

一言ずつ強調して、彼は少しずつ距離をつめる。

私はヒュッ、と息を飲む。上手く声が出ない。

「はる、き…。」

「分かって欲しい?無理だよ。お前は、誰にも理解されねぇし。誰のことも理解できねぇ!」


「最初から壊れてるんだよ。失敗作。」



バタン

言うだけ言って扉は閉まり、部屋は暗くなる。私は何も考える間もなく布団に潜り込み、まだ夕方なのだが眠ろうとした。彼の言葉の意味をわかりたくなかった。分かってしまったさいご、もう眠れない気がした。

このまま眠って朝が来れば、全て忘れられる。

朝はいつだって私を助けてくれた。

そうだ。だから、大丈夫。大丈夫。



微妙な時間に眠ったからだろうか。

真夜中、私はふと目が覚めた。

意識が覚醒して完全に目覚めてしまう前に、そのままもう一度寝ようと思ったが、尿意が迫ってきたため、もぞもぞと布団から這い出る。

「トイレ…。」

眠気で頭がぼんやりする。のっそりのっそりと階段を降りていると、リビングが薄明るいことに気づいた。

あれ、お母さんまだ起きてるのかな…。

扉の隙間からのぞく。

大きな男の人影がみえた。


ん…?あれ、お父さ…?


「ヒオリ?……あぁ、アイツか。へー…幻覚ねぇ。それは大変なこった。」


ピシ。

時が、止まる。

そこにいたのは紛れもなく父と母で、『数週間ぶり』にみた父はそれは怠そうな雰囲気を醸し出していた。

お父さん…今、私の名前忘れてた…?

「で、なに。俺がどうこうできるわけねぇだろ。俺もあいつも互いに互いのこと興味ないから(笑)」

苦笑するような、捨てるようなその言動は私の心を酷く突き刺す。

体が金縛りにあったかのように、全く動かない。痛い。

「わっ、私も、もう限界よ…。こんな狂った子が生まれるだなんて思って無かった。普段2人の面倒は、私が全部見てるんだから、あ、あなたも少しぐらいどうするか考えてよ。」

少したどたどしい、怯えたような母の言い方。父が今のようになってから、母はいつも彼の機嫌を伺うようになっていた。私の父は、数週間…長い時だと数ヶ月に1度しか家に帰ってこない。いつしかそうなってしまっていたのだ。


「いいよ。俺は寛大だから。ま…俺の意見としては、ただでさえ“見えない”のに、更に幻覚ときたらもう面倒だし捨てたいな。ただへんに警察とかに嗅ぎ回られるのは余計面倒だ。」

さらっと父が言った言葉は耳を疑うものだった。そして、それを聞いた母は何故か少し笑む。

お父さん、私、いらないの?

気づけば涙が零れていた。

お母さんは、私を愛してくれないの?

昨日の陽輝の笑顔が、ケンセイの後ろ姿がフラッシュバックする。

陽輝だって、ケンセイだってもう…


誰も、私を望んでいない?

家族も、友達だって。

そうだ、アオイも、私に助けを求めてくれなかった。

いや、それは不甲斐ない私のせいか。

陽輝の言う通りかもな。

全部、私のせいなんだ。

頭が悪くて、不器用で、いつも自分のことばかりで、こんな見た目で、体で、性格で。

私がいるから世界は狂うんだ。邪魔なんだね。私が。

その時、自分の見ていた世界が一瞬で暗く変わった。

あはは、そうだ。

ずっと、

目を閉じていたんだ

忘れようとしていたんだ。

これが

本当の世界

光と影しかない、


腐った世界


この物語が現実の話だというのは大間違いである。これは世界の命運を握るほどの力を持つ者たちの物語だ。

ただ、彼女は誰よりも見えていないだけ。

忘れているだけ。


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