はち「ゆがみ」
【memoryー追憶ー】1章「海鳥」
口下手だがずばぬけて頭がよい“アオイ”
笑顔で過ごすがどこか寂しげな“リョウ”
日々を平和にくらす幸せな子“ヒオリ”
キレ症ですぐ手を出す“ケンセイ”
平和だった。“私達”みんな笑顔で、面白いことが毎日あった。
いつからこうなってしまったのだろう。
いつから私達は歪んでしまったのだろう。
…あぁ、元からだったっけ。
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幸せな日常を送っていたヒオリは、ある時親友の『アオイ』喪うが、幽霊となって彼女は現れる。アオイの“心残り”を無くすための夏休みをおくり、そしてついに別れのときが訪れた。
『たとえ世界があなたを忘れても、私は絶対にあなたを忘れない。』
〈1部残酷表現等があります。人が死んでます。〉
巡り巡るものがたり。
親友を失った少女の、ものがたり。
朝。
支度をする。
コンタクトもちゃんとつけて…よし!完了!
クラスラインも確認!特に通知なし!おーけー!
「いってきまーす」
明るい声は今日もこの辺りを響かせる。
お母さんのいってらっしゃーいという声が遠くできこえた。
夏休みが明け、数週間。私は元気だ。
アオイたちと話すことはなくなったけど、ケンセイもいるし、同じクラスの他の子ともよく話すようになった。前より深く広く人付き合いができてる気がするね!
もうすぐ実力テストということもあり、勉強も珍しくたくさんしている。(いつもしないと行けないんだけどねっ)これは…念願の100点が取れる勢いかもしれないね!!!
いやぁ私隠れた天才だからなぁ。いつ才能が目覚めるか分からないのよ。
全て丸のついた用紙をもつ自分を想像しているうちに学校についていた。
って…やばい!もう25分じゃん!あと5分で遅刻になるところだった…。
どうやら、頭の中でヒオリサン劇場をやっていたら歩みが遅くなってしまったようだ。
いつものように、元気よく挨拶をしながらドアを開ける。
「おっはよー!」
ドアの近くにいた数人の男女がびくっと反応し、次々と挨拶を返してくれた。
「っあ、おはようヒオリちゃん!」
「今日もうるさ…じゃなくて元気だな!ははっ」
「ちょっと!うるさい言うな!!!」
「聞こえてたか。」
そんなやり取りを一通りし、廊下側の自分の席に座る。
(実はあの後、席替えがあって私は窓側から廊下側にかわったのだ)
もうこの教室にアオイ達はいない。机の花束もない。いつもいなかった私の周りの席は、今は誰かがいる。
こうやって少しずつ変わっていくんだ。
私たちは前を向いていく。
でも、私はアオイを忘れない。
約束したから。
「ヒオリちゃん。」
学級委員の友達に声をかけられ、ハッとする。
「んっ?!あ、どしたの?」
「あの、進路調査のプリント昨日提出だったから出来れば今出して欲しいんだけど…」
進路調査…あーあったなぁ、でも、確かまだかけてないんだよね。色々忙しかったし(言い訳)
「あー…ごめん!実はまだ少し悩んでて…。今頭叩いたりのばしたりしてる所!」
「…ふふっ、でも今日中に出さないとまずいよって先生が言ってたから、早めにしてね!」
ズキ
「おっけー!わざわざありがと!」
動く度に短い髪がふわりと揺れる彼女は席に戻り、友達と話をはじめた。
ズキッ
頭…痛い。珍しいな、ここ7年くらいは風邪ひいてないのに…。今日は帰ったらゆっくり過ごして早めに寝てリフレッシュしようかなぁ。あ、でも勉強もしないと。
いや〜でもさぁやっぱたまには自分を甘やかさないと勉強も続かないよねー。
ぐるぐる考えていると、頭痛は1分もしない内に治り、私は安堵した。
そして机の中から出した白紙の進路調査表を眺める。夏休み、アオイの心残りを無くしつつ色々な学校を見に行ってみた。でも何処も『なんか楽しそうだなあ』ってところばかりで決め手にかける。正直、何がしたいかって聞かれてもわかんないし…。
進路どうしよっかなぁ…あ、そういえば去年アオイと将来のことしゃべったな。
確かアオイの夢は…
*
「ヒオリさんや。」
後ろからトントンと肩を叩かれる。
その主は、さっと前の席に座った。アオイだ。
「なになに、どうしたんですかアオイさん。」
私は何故かヒソヒソ声にして話す。
「来年私たち受験じゃないすか。で、ヒオリさんは進路とか、決まってるのかなって。」
アオイも声を潜めて返すが、予想外な話題に私は大きな声をだした。
「えー!まだ2年の夏だよ!?早くない?なんも決まってないよ!!」
「まぁ、ヒオリはヒオリのペースで決めたらいいけどさ。なんなら決まってるって言われたらびっくりした。」
「今さらっと私のことバカにした!?そっ、そういうアオイこそどうなのさ!」
確かに自分でも決まってたらびっくりするけど!
「私?私は、学校の先生になろっかなーって。」
「先生!?え、凄いじゃん!アオイならなれるよきっと!!テスト毎回90点以上だし!」
私なんか1桁の時だってあるのに…時々アオイは頭のネジが外れてるんじゃないかと思う。いや、外れてたらアホになっちゃうか。
その時、ふとひとつの考えが私の頭を走る。
「…じゃあ、私も先生目指してみよっかな!」
「えっ」
「ちょ、何その反応!無理って思ったでしょ今!!」
「いやっ絶対無理、とは思ってないけど、難しいよ?大分がんばらないと。」
「がんばる!ってことで勉強教えて♡」
ばんっと今日出さなければならない宿題を机に置く。
やってみようとは思ったしやったんだけど丸つけしたら8割間違っていた。(なぜだ)
「…これさ、今日提出のだよね?しかも、昨日やったばかりの所の復習。」
アオイからマイナス30℃の冷たい視線が刺さる。
「いや〜わかんないんですよね!先生の教え方が悪いのかn」
「誰の教え方が悪いって??」
背後から突如現れたその声の主に頭を鷲掴みにされる。
「ぎゃああぁあっや、やーちゃん先生!?」
「あ、おはようございます安原先生。」
私のクラスで英語を担当する安原先生ことやーちゃんだ。黒く長い髪を1つにまとめた可愛い先生。でも時々物騒。
「おはよう龍治さん。この救うのが難しいというか、色々結構やばい八色サンのこと任せていいかしら??今日提出のコレとか。」
語尾が強い、非常に語尾と気迫が強いよやーちゃん先生。
「是非!もう性根を叩き直してやりますよ!」
にっこぉおおと外面スマイルで元気よくアオイ。あれ、テンションおかしくない?
それに満足したのか強く頷いた先生は、さっさーと離れてどこかへ行ってしまった。
「…アオイの猫かぶり。」
「うっさい。」
*
…こーんなこともあったなぁ。もう1年くらいたつのかぁ。
あ、因みにやーちゃんは私の今の担任。
よくウザ絡みをされるよ〜特に最近は進路関係でね。なんせ私は自他ともに認める成績やばい人だからな、、。
ま、そんなこんなで私はアオイの件からは
ほとんど立ち直れている。まあ受験勉強は大変だし、志望校もまだ悩んでいるところ。困難は多いけどこれは誰もが通る道だ。逃れるのは諦めて頑張ろう。
この先に、きっとまた幸せが待っている。
私は、幸せな人生を送る。
*
そう思っていたのに。
どうして。
いつも終幕は××だ。
なぜ∞遠がなi??
わか??なRe:い*°:all
終わりなんてなければいい。
ずっと私の世界であればいい。
プツン
*
「ねえどうしてあなたは幸せなの?僕はこんなに苦しいのに。」
しらないよ、わたしのせいにしないで。
「違う、あなたのせいよ。あなたが全部、飲み込んで散らかしているから。」
なんなの…そもそもあなた、だれ?
「…もう、忘れたんだ。嘘つき。絶対に忘れないって言ったのに。」
…え―?
ハッ
いつもの天井が目にはいる。
今のは、夢…?誰かが、私のせいだと言っていたけど…。
はあ、最近ふしぎな夢ばっかり見るな…。
後で夢占いとか調べてみようかな〜。
時計は6時半と起きるにはまだ少し早い時間だったが、目が冴えてしまったので、二度寝はやめた。
枕元に置いておいたスマートフォンを手にする。ラインなどを確認するが特に何もなかった。そういえば、お母さんがそろそろスマホ没収するっていってたな…そしたら、クラスラインとかどうしよ。あのお母さん(鬼ばば)のことだから、
それ絶対じゃないでしょ?
って言うんだろうな…うげぇ。
まーそこまで皆やりとりしてないから良いけどさ。ほとんど私から話振ってるし。
でも、娯楽のひとつであるスマートフォンか奪われるのは中々…。
昔から、お母さんは厳しかった。弟…八色 陽介が結構何でもこなす器用なやつだったから特に。
(まっ運動の面では私の方が上だけどね!)
お父さんはまず私たちにそんなに興味がなさそうだった。ある時から家にいる時間がほとんど無くなったしね。
…これが反抗期ってやつかな。皆のこと、嫌いになってる、私。
ごめんなさい。私が悪いのにね。
急に重荷が乗ったかのように頭が重くなる。
ずっと穏やかに流れていた川が大雨で激しくなったみたいだ。
痛いほど、
土砂降りの、
記憶の雨が、
私の頭の中で…。
「…今日は、雨かな…。」
30分後…。
「おはよ〜。」
うぅ、二度寝すればよかった…強い眠気が私を襲い、そう後悔した。
「おはよう…ってヒオリ、靴下ちがうのはいてるよ。色違う。」
んえっそうなの?あー確かに見た目はおんなじだけど履き心地違うかも。
「変えて来なさい。白い…じゃなくて、前から2番目の奴ね。」
「おっけー」
自分の部屋までたどり着いた時、ふと視界が歪み、よろけたが何とか踏みとどまった。
目眩かな…昨日の頭痛は収まったけど…やっぱ体調悪いかも。
靴下も間違えちゃうし。
そう考えながら靴下をはいていると、下からパンの焼ける音がし、急いで降りる。
朝の光は眩しかった。
今日も元気よく歩いて登校した。ふふ…だが、いつもより…早い!!見よ!今はなんと8時15分!いつも30分ギリギリ到着の私とはひと味違うぞ!
教室にやってきた私を見て驚くであろうクラスメイトの顔を思い浮かべ、にやつきなかまら校門をくぐった。
ドアに手をかける。
「おは―」
「ヒオリってさ、前から思ってたけど調子のってるよね。」
ぴた、
「分かるーてか皆に好かれてるとか思ってそう。」
「いや〜流石に気付いてるだろー。あっちのクラスライン全然やり取りしてねえもん。」
「あの子馬鹿だから気づかないかもよー。ヒオリ抜いたライングループがあるとか。嫌われてるとか。」
あははははは、と笑い声が聞こえた。
どういう、ことだ。
思考はとまり、体の動きも停止する。
扉を開けようとする手が震えはじめた頃、一気に思考の波が押し寄せてきた。
私がみんなに嫌われ、え、別の、グループ
笑われてる。私は、何故、また、
その瞬間、廊下にいる人たちの視線が刺さった。…正しくは刺さったような錯覚に陥った。
思わず、その場から逃げ出した。
逃げなくては。どこか。遠いところに。
今はクラスに戻れる気がしなかった。
それに、今あの中に入っても空気が凍るだけだろう。私がまだ来ないと踏んであの会話をしていただろうから。
先程の声が脳内で響く。いつもふざけ合った男子。分からないところがあったら教えてくれていた友達。今まで聞いたことの無いぐらい冷たい声だった。
あぁ。全部嘘だったのか。
あの暗い闇の渦の中で、ニセモノの友情の前で笑えるはずはない。
何も考えず、無意識的に私はいつもの屋上階段へと向かった。
「…なにしてんだよ。」
突然声が聞こえた為、驚いて顔を上げた。
目の前には怪訝そうな顔をしたケンセイがいた。
「もう、授業はじまってんじゃねえの。サボり?」
「…うん。サボり。今は、行きたくない。」
そう言いながら私はもう一度顔をうずめる。
「ねえケンセイ…私って、うざい?」
「気持ち悪い?」
「頭悪い?」
「こんな見た目で、こんな性格で、目で。」
「誰も私が生きてることを望まない?」
口から出る言葉が、止まらなかった。
ケンセイが今どんな顔をしているのかは見えない。見たくなかった。
その後は長い沈黙が続き、ようやく彼の口が開いた。
「…俺はお前が嫌いだ。」
目を見開く。
「うだうだ悩むし、ウザ絡みしてくる。迷惑なんだよ。お前は。」
まるで、錘でもつけられたかのように体が動かず、ケンセイの顔が見れなかった。
随分と減ったがセミの声が微かに聞こえる。
「俺、もう学校来ねえから。」