ご「くろねこ」
【memoryー追憶ー】1章「海鳥」
口下手だがずばぬけて頭がよい“アオイ”
笑顔で過ごすがどこか寂しげな“リョウ”
日々を平和にくらす幸せな子“ヒオリ”
キレ症ですぐ手を出す“ケンセイ”
平和だった。“私達”みんな笑顔で、面白いことが毎日あった。
いつからこうなってしまったのだろう。
いつから私達は歪んでしまったのだろう。
…あぁ、元からだったっけ。
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毎日を普通に、幸せに暮らしていた少女、ヒオリはある日突然親友の『アオイ』を失う。
だが、幽霊となった彼女がヒオリの前に現れ、「心残り」があると言う。ヒオリはその心残りを無くそうとアオイの母に会いに行ったのだった…。
少女は、彼女に生きていて欲しかった。
〈1部残酷、流血表現等があります。人が死にます。〉
巡り巡るものがたり。
親友を失った少女の、ものがたり。
ー昼休み。
7月に入りすっかり夏になったため、階段をかけあがるのも暑くてしょうがない。
汗だくになって登ったその先にはいつものようにケンセイがいた。
「やっほい!今日も来ったよん!
…ってあぁっつ!なにその格好!」
熱中症に注意を!と言われているにも関わらず、ケンセイは冬にも着ていたパーカーをまだ着用していた。
「…寒がりなんだよ。悪いか。」
「寒がりにも程があるよ大将ォ…。」
うう、見てるだけで暑い。
私はどちらかというと暑がりだ。
「もーすぐ夏休みだんねぇ!テストも終わったし心が楽だなー。」
ケンセイはテストを受けていないし毎日が夏休みみたいなものだからあんま変わんないかもだけどね!
「そうだ。ケンセイ、夏休みどっか行かない?よ…2人で!」
「いかない。」
即答。
流石の私もショックを受け肩を落とす。
だがすぐに顔を上げて言った。
「また誘うから心変わりしたら言ってね!!」
いや行かねーっつってんだろという声が聞こえたけど、諦めない女よ私は。
その時、ふと頭に思い浮かぶ。
「あ、そうだケンセイ。もし、もしさアオイが生きてたら、どうしたい?」
蝉が、おもむろになき止んだ。
「…それ聞いて、お前はどうすんの。」
汗が肌に伝う。
その汗は暑さから来るものではなかった。
―冷や汗。
まるで初めて会った時のような、敵意の目。
そういえば、つい数週間前にも感じたな。
「もし、お前が『こうしてあげれば良かった。』とか言うような奴なら、俺はもうお前とは会わない。ここにも来ない。」
私の体は石のように固まった。
そんな、ケンセイまでいなくなったら私…
数秒の時が、酷く長く感じる。
そのまま私が何も言えないでいると、ケンセイはため息をついて、階段を降りようとした。
「アオイが、死にたいと望んだから。」
声を、振り絞る。
ケンセイは立ち止まった。
「アオイが、っ死にたいなんて、言うから。私との約束とか、心残りとかいっぱいいっぱいあるくせに、死にしか希望がもてなかっただなんて言う。おかしいよ。何でそんなこと思うの。」
ああ私、何言ってんだろ。アオイが見えているのは私だけじゃないか。きっと意味不明だと笑われるだろう。
「私は、私が理解したいの。アオイが死んだことを、アオイは確かに生きていたことを。」
言葉は留まらなかった。
私は理解できなかったのだ。彼女の死を。
「だから、聞きたい。アオイは確かに生きていたってことを証明するんだ。私の中で。」
そう口に出してから気づく。
ああ、私のしたいことは、目標はこれだったんだ。ずっと、心のなかでモヤモヤしてた。なんで既に死んだ者にここまでするのか、そんなの、たったひとつの理由だ。
復讐でも、罪滅ぼしでもない。
私の、エゴだ。
生とは、死とはなんだ。
アオイは、なぜ死んだ。
本当に死んだ?
私が確かめたかった。
私が生きていて欲しかった。
遊ぶ約束も、したいことも何ひとつ果たせなかった。だってずっと、このままの日々がつづくと思っていたから。
私がアオイに死んで欲しくなかった。
嫌なんだ。
そんなの。
チャイムが鳴った。
もう5分後には5時間目…国語の授業がはじまる。急がないと。
そう思って階段を降りる。
踊り場のところでふと振り返った。
「ありがと!!ケンセイ!」
ケンセイはなんの応答もしなかったが
顔をふいっと向けてまた階段に座った。
*
ねえ、聞こえてる?…聞こえてるんでしょ。
「…あ?なんだ、俺に用か。」
…やっぱり見えてるのね、私が
用は一つだけ。彼女ともう関わらないで欲しいと言いに来た。彼女を助けるのは私の役目。
「おい間違えんなよ。俺が関わってんじゃねえ。あいつが勝手にやってくるんだ。」
じゃあここを立ち去ればいい。
どうして逃げない。
「…気になることがあるから。」
…そんな理由で私の計画を壊さないで。
何も知らない他人が。
「お前こそ、何がわかるんだ?何知ってる風にしてるんだよ。何も覚えてないのに」
意味のわからないことを………、チッ、もう時間か。
『 この言葉を最後に気配は消えた。 』
*
数日後。
「はい、じゃ明日から夏休みです。受験生のみんなにとってはこの休み、重要になってきます。遊ぶなり、勉強するなり、夢を見つけるなりと自由ですが、今後の人生を変えるでしょう。1日1日を大切にね。」
話が終わったと同時に号令がかかり、全員が起立する。
「「「さよならー」」」
そして、待ってましたと言わんばかりにわっと歓声がクラス内にあがった。
夏休みだー!よっしゃー!という歓喜の声も、勉強やだなあと言う悲しみの声も所々から聞こえる。
因みに私は前者である。
夏休みだーーーーー!!!
冷静な顔を装ってはいるが、心はうっきうっきだ。え?隠せてない?そんなわけないよん。
沢山の荷物を担ぎ、手にすると、クラスメイトからからまれた。
「ちょっとヒオリ何その量〜暑さでバテないようにね。」
「計画的に持って帰れよな〜。」
「大丈夫大丈夫!私体力はあるから!!」
実はわたくし八色ヒオリ、持久走早いんです。2キロを7分!
短距離だと平均くらいなんだけど、長距離でも短距離とあんま変わんないペースで走れるんだよね。
そういや陸上部に入るかも1回なやんだな〜。大荷物を抱えて、私はすたたたーと走って学校を出た。
灼熱の太陽にさらされた空気は暑く、熱気を感じる。
気温的に十分夏なのだが、学校が終わったということで本当の夏が始まった!という感じた。
よぉし、あらためて…
夏休みだーーーっっ!!
「ってことでえ、夏休みにはいったのでえ。前より沢山外に出れるようになったよ!」
「おーー。」
平坦な声をだし、パチパチと拍手しているアオイ。
ちょっと!反応鈍いよ!
「早速明日心残りを無くす旅行こ!あと久しぶりに色々遊ぼーよ。ゲーム機とかは持てないだろうしそれ以外のゲームになるけど。」
「ヒオリ、それはいいけどさ、ちゃんと勉強もしなー?高校行くっていってたじゃん。」
アオイはそう言って足をぶらぶらさせ、息を吐いた。
「うっ、先生みたいなこと言わないでよー…。あ、そうだ!アオイまた教えてよ!前みたいに。」
「…無理だよ。私だってずっといる訳じゃないし。…自力で頑張りなさいな。」
「えー…アオイ、前『私の目が黒いうちにヒオリに勉強を叩き込む!!!』って言ってたくせにぃ。」
ぶぅ、と口をとがらせた。
「…あん時は死ぬなんて考えてなかったからさ。ほら、人って意見すぐ変わるじゃん。それに、もう目は黒くないよ。」
軽く笑う彼女に返答できる、良い言葉が思いつかなくて、口を噤む。
そして、サラッと話題を変えた。
「…っあ、そうそう。アオイ次どこ行けばいいの?道とか調べておきたいんだけど。」
「んー…あそこかな。
あの、近くの赤い大橋。」
チカクノアカイオオハシ。
…あっあそこか!結構頻繁に車とおる(私も通る)あの橋ね。
「なんであんな所に?」
「うーん、…猫がいるんだ。」
ね猫…?ん?まて。微かな記憶を探り出し、思い出そうとする。
「あっそうだそうだ!ノラネコの面倒見てるって言ってたねアオイ!まだ続いてたんだ。」
「そうそう。で、最近様子見に行けてないから気になっちゃって。心配なんだ。」
そういうことなら任せよ…植物や動物は飼ってはいないが、関わるのは好きだ。(どや)
「でも、何週間も見に行けてないから、もしかしたら何処か遠くに行ってるかもしれないし、それにもう…」
うじうじと何か言いやがるので私は言った。
「野生の生き物ってのはそんな弱くないし、アオイが愛情こめて世話してたなら、覚えて待ってるよ!」
するとアオイは、そうかなぁ、と嬉しそうに笑った。
早速明日!ということて、私は準備をはじめた。
次の日。
ミーンミーンと蝉が鳴き、尋常ではない暑さが私を襲う。元々気温は高いのに、蝉の音のせいで倍増していた。異常気象というやつだろうか。そのうち世界は夏だけになってしまうんじゃないか…そんな考えも頭に浮かぶ。
「あっついねー。」
目の前でのんびりと宙に浮いてるアオイにイラッとした。
「嘘つけぇ幽霊さんは涼しいでしょーが。」
「うん、暑さも寒さも感じないね。結構便利。」
いいなぁ…今だけその体がほすぃ…。
「でもさぁヒオリを見てたらなんか暑くなってきた。ちゃんと水分とりなよ?倒られたらこまる。」
「とってるとってる。ポカリ1L持ってきた。」
てか昔熱中症になってたのはアオイじゃん…。すーぐ保健室いくんだからさぁ。
すると、建物の隙間に赤い橋が見えてきた。
お、きたきた!
あそこの下はきっと日陰だろう。
私は少しかけ足で橋の下まで降りた。
「ついたー!ひょえーすずし!」
日陰に飛び込み、ひんやりとした石の地面に寝転ぶ。
自分が今さっきまで居たところを見ると、暑さのせいか空気が淀んでみえた。
「さてねーこ、ねこ猫と。」
近くを見渡す。とはいえ、猫は自由気ままだろう。橋の近くにはいてもこの広い橋の下じゃどこにいるか見つけにくそうだ。
なにか猫が好きそうなものでおびき寄せるとか…?でも警戒心も強いよなぁ。
すると、近くから私を呼ぶアオイの声が聞こえてきた。
「ヒオリ!こっちこっち!」
柱の影を指さして私に手を振る。
もしかして…と思いかけ寄ると、そこには猫が居眠りをしていた。
艶やかな黒い毛に覆われた子猫だった。
「いた…!」
触れようとして、ふと思いとどまる。
そうだ、アオイに野良猫には注意って言われてたんだ。
『野良の猫は危険な病原菌もってたりするし、むやみやたらに触らない方がいいよ。』
『え、じゃあアオイはどうしてたの?』
『手袋をして、あまり機敏に動かず、大きな物音を立てないように気をつけてた。』
『やば。プロじゃん。』
『まあ、元々そんな警戒心の強い凶暴な猫でもないから、余程のことをしない限りはひっかかれないよ。』
…という会話を昨日した。
まあひとまず、猫ちゃんが無事でよかった。
やはり野生の生き物とは強いものだ。
人間なんてひとりじゃ生きられないのにね。
「…。」
暫くすると、猫がパチ、と目を開け動き出した。
あ、こわがられちゃうかな。
そんな心配をした時、猫は「にゃあ」
と小さな声で鳴いた。
私の方は向いていない。
だれも見えないはずの、アオイがいるところに向かって鳴いていた。
まさかこの猫…!
「アオイが、見えて…!!」
「アホか。」
速攻横からツッコまれれば、ぱしっと叩かれ…通り抜ける。
猫はアオイの方から飛んできた蝶を楽しそうに追いかけていた。
「ちょっと妄想してみただけじゃん!もしかしたらそんな力があるかもしれないでしょぉ!」
ほら人間たちよりきっとそういうのに敏感だって!
猫は捕まえられず遠くに飛んでいった蝶を少し悲しそうに眺めぐるぐるとその場をまわり歩いた。
ふふ、かわいいなあ。
「にゃーぁ」
「そういえば、アオイ何でこんなとこで飼ってたの?家、ダメだったっけ。」
家からもそんなに近くないし、毎日通って世話をしていたなら結構な時間がいる。
「んー…うち、お母さんが猫アレルギーだから。」
実際には触れられてはいないが、猫を撫でながらアオイはいった。
でもそれで面倒みるほど猫、好きだったんだ…。いや、この子に惹かれたのかな?
私は犬か猫なら犬派かなー。まあどっちも好きだけどね。
すると、私の頭にひとつの案が思い浮かぶ。
「アオイ、これからは私が変わりに見に来てあげようか?」
猫用クッキーを幸せそうに食べる猫を眺め言う。
「…いや、いいよ。この子はもう保護団体に預けよう。いつまでもこのままじゃ駄目だ。きっと。」
「…そっか。」
また何か隠されている、と思った。
この数週間で、アオイのこと知ってるつもりで何も知らなかった事に気付かされている。そして、深いところを何も聞けないでいた。
ずっと知らなかったんだ。
猫が好きなことや
ずっと世話をしていたこと。
死にたいと思っていたこと。
ねえどうしてそんな顔をするの?
何故何も話してくれない?
どうしてアオイはリョウとー。
また、汗が滲む。スマホを見ると今は1時。そりゃあ暑いわけだ。そろそろ涼しいとこにでも行かないと熱中症になってしまうだろう。
ポカリをグビっと飲み、蓋を閉める。
「アオイ、そろそろいこっか!ホゴダンタイ?には後で電話しとくよ!」
「……えーヒオリ電話できんのー?」
煽るように指さして笑う。
「失礼な!それくらいできるよ!!」
「心配だしお母さんとかにやってもらったほうがいいよ。」
「私1人でも出来るから!!ちょっ早く帰ろう!出来るという証拠みせる!」
私は思い切り走る。
暑いなんてこと忘れて思い切り走った。
その後電話してみたが、途中で話がわからなくなり結局母に代わってもらったのは内緒の話。