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海鳥  作者: 雲音︎︎☁︎︎*.
4/10

よん「したかったこと」

【memoryー追憶ー】1章「海鳥」


口下手だがずばぬけて頭がよい“アオイ”

笑顔で過ごすがどこか寂しげな“リョウ”

日々を平和にくらす幸せな子“ヒオリ”

キレ症ですぐ手を出す“ケンセイ”


平和だった。“私達”みんな笑顔で、面白いことが毎日あった。

いつからこうなってしまったのだろう。

いつから私達は歪んでしまったのだろう。

…あぁ、元からだったっけ。


------------------‐


毎日を普通に、幸せに暮らしていた少女、ヒオリはある日突然親友の『アオイ』を失う。

だが、幽霊となった彼女がヒオリの前に現れた。


「心残り、無くす手伝いをしてあげる。」


少女は決断をした。


〈1部残酷、流血表現等があります。人が死にます。〉


巡り巡るものがたり。

親友を失った少女の、ものがたり。


―アオイの家。

アオイの家はそう遠くなく、徒歩5分程度。

よく行き来したもんだよー。

子供の頃、アイスとかゲーム機とか色んな物持って、休みの日はほぼ一日中一緒にいた。

家におじゃましたり、時には車が停まっていない駐車場に座り込んで喋ったり…。

懐かしさで胸が熱くなった。

…リョウの家はねぇ、もっと遠いんだ。コー

キュージュータクガイ、なんだよ。

あやつ実はお坊ちゃまでさ、社長の息子なの。

それとー、…ケンセイはしーらない!教えてくれないの。

思えば、あの葬式以来アオイ()には会ってなかったな。1回ウチに来たらしいけど、私学校(居残り)だったんだー。

そんなこんなでアオイの家に着いた。

白と黒のモノトーンの壁はスタイリッシュで現代風だ。

久しぶりだからか少し緊張し、インターホンを押す指が震える。

ええぃ!

ピーンポーン

その数秒後、インターホンから静かな女性の声が応答した。

『はい。』

アオイのお母さんだ…!

「あっヒオリです。……。」

沈黙。

やべ、訪れる理由考えてなかった!

えーとどうしよお話しに?んー?てかアオイは会って何したいんだ。何が気がかりなんだ?

あー!もっと詳しく聞いておけばよかった!

心の中で強く後悔し、とにかく何と答えようかと考えている中、先に声が返ってきた。

「ヒオリちゃん…!まってね、今出るね。」

あ、お母さんの方から出て頂けるそうで。

10秒もしないうちに扉は開き、女性がでてきた。

間違いなく、アオイのお母さんだ。

彼女は少し微笑んで話す。

「久しぶりね。お葬式以来かな?」

「そうですねえ。あ、少しお邪魔しても?」

結局来た理由は言わぬまま考えれぬままだったが、快く中に入れてくれた。

「おじゃましまーす…。」

何度も来たアオイの家。でも、アオイのいない家の雰囲気は少し違うように感じた。

ああでも、家具の配置とかも変わってるし、実際若干ちがうのか…。

「来てくれてありがとう。ヒオリちゃんの元気そうな顔をみて、私も嬉しくなったわ。」

やーだそんなぁ。照れる照れる〜。

てか、アオイのお母さん、少しやつれた?元々細いのに更に痩せたような…。気の所為かな…。まあ娘が死んだとなると食欲も落ちるか。でも、本当に嬉しそうにしてくれてるみたいだし、来て良かった。

「ヒオリちゃんにも渡さないと行けないものがあるから、ちょうど良かった。少しまってて。」

そう言ってぱたぱたと走り去ってしまった。

ぽつんとリビングに取り残された私はとりあえずソファに腰かけた。

チッ、チッと時計の針音だけが響く。

「…アオイ、どう?」

静かに声をかけた。

すると、背後からにゅっとアオイは顔を出してきた。

「んーまあ、大体思っていた通りかな。でもお母さんが想定より元気そうで良かったよ。」

その言葉を聞き、私はすとん、と腑に落ちた。

あぁ、そっか……。

アオイが、家に行きたいと言った理由。

残された家族の様子を見たかったんだ。

自分が15年間過ごした、思い出で溢れる家だもんね。

「案外…変わんないもんだね…。」

アオイがそうポソリと呟く。聞き返そうとした所で、アオイのお母さんの足音がした。行きと違い、何か紙の擦れるカサっとした音も聞こえる。

何か、持ってきたのかな…?

「待たせてごめんね。はい、これ。」

そう言って渡してくれたのは手紙や、写真、その他様々な物品が入った籠だった。

私は目を見開く。

「これ、は…?」

聞かなくても見ただけで分かるけど、意図せず口からそんな言葉が出る。

「あなた達2人がやり取りした手紙や、写真。あと思い出のものとかよ。まとめると、あなたに渡した方が良さそうなもの。」

触れると カサ…とすれた音のする手紙は、少し破れていて、薄く埃をかぶっていた。

幼い、乱雑な濃い字で「アオイちゃんへ」と書かれている。

「あっ、別に要らなかったら受け取らなくてもいいわ。辛いって思う人もいるから。」

慌ててそう言う彼女に、私はとっさに返す。

「いや全然大丈夫!ありがたーくもってかえります!」

すると彼女はホッと息をつき、良かったらと

お菓子を用意してくれた。

それから、しばらく話をしていた。

籠の中身も見ながら、思い出やアオイのことをはなし、2人わらった。

聞いたことないエピソードもお母さんからいっぱい聞いた。

彼女の顔は、仕草はアオイによく似ていて。

そういえばお母さん似って言ってたなとか思い出した。

亡くなった家族のことだけど、こんなに笑って話せるなんて、本当にアオイは愛されていたんだなと、大切だったんだと思った。


こうして、1、2時間ほどたった頃、私は玄関で靴を履いていた。

アオイのお母さんはふと私に言った。

「ごめんなさいね。ヒオリちゃん。悲しい思いをさせてしまって。…私、悔しいの。ずっと愛してきたはずなのに、何故こうなってしまったのかが分からない。私は、アオイの事なんてこれっぽっちも知れなかったし、助けになれなかったのね。」

段々とか細くなる声に、うっすら流れた一筋の涙。やつれて、艶を失いつつあるその肌を潤していく。

私は、ひとつ、静かに伝えた。


「…アオイは、お母さんの手は暖かくて、安心すると、よく言ってました。もし、今アオイがいるならば、きっとあなたに会いに行きたいというと思います。」


涙を帯びた黒い瞳は私を確かに見た。

その姿に私はアオイを重ねた。

そして、ポツリと言う。


「…ありがとう。」


家を出た。

すると、目の前の空間が歪み、うねる。1度瞬きをすればもうそこにアオイはいた。

「久しぶりの私の家、どうだった?」

「…あたたかかった。」

「まあもう夏だから。」

違う。

冷房の効いたあの家はどうしようもない程にあたたかく、やさしかった。

確かにこの家にはアオイがいたのだと、私は感じた。

彼女と同じ温度を感じたのだ。


「…やさしさに溺れていきができなかった。」


「贅沢だね。やさしさは貰えない人間だっているのに。」


「まるで自分が足りない人間みたいに言う。」


「…そうみたい。」


…私は笑顔で言った。

「今日はもう帰ろ!疲れちゃった」


ショルダーバッグに入った手紙や写真がずっしりと重く、何か生き物を抱えているようだ。

「いやぁ、来れて良かった。だっていいものを貰えたし、アオイの心残りもひとつなくせた!」

何より楽しかったもんね。

「うん。お母さんの姿見れたし、お父さんにも顔合わせられた。色々安心できたよ。」

そっか、途中いないと思ったらお父さんのところにいたのか。何話したんだろ。

「つーかさぁ!ヒオリとお母さん私の醜態の話で盛り上がりすぎじゃない!?聞いててもう穴に入りたくなったんだが!」

「えーだってエピソードがいっぱいあるんだもん〜それにしてもびっくりしたなぁアオイがパンツ一丁で家を駆け回ってたとは。」

4、5歳の話だからね!??と焦りの声が聞こえる。やんちゃだったのか…確かに私もそれくらいの頃アオイに結構無茶ぶりされてたなあ。

「もういいから帰ろ帰ろ!」

そう言いくるっと背中を見せたアオイに、歩きながら尋ねる。

「そういえば、“あっち”ではお父さんにあってないの?」

「…まぁ、うん。会えてないよ。私さ所謂、死後の世界?みたいな所行ってないんだ。」

行ってない…?選択制なのか?

天国の話は行ったことないし全然分かんないや(そりゃそうだ)

「まぁ、行けたとしてもきっと会ってくれないよ。」

「…じゃあアオイさ、もし『死後の世界』でお父さんに会ったらなにをいいたい?」

少しの沈黙が流れる。

表情は変わらず、だがどこか悲しそうな声で言った。

「……ごめんなさいって、謝りたいかな。」


彼女の透けた体には青空の色が映っていて、眩しい。


「もう、私を助けちゃダメだよって、言わないとな。」

後悔ということばが見えた。

どうして、謝るのだろう。

そんなことないよと言えれば良かったけど、何も言えなかった。

そんな状態を誤魔化すかのように、私は話す。

「そういえば、さ。お母さんにも似たように『もし今アオイが生きていたら何をしたいですか?』って聞いてみたの。」

その時アオイはお父さんの所にいたみたいで、なになに?と聞いた。

「『アオイの好きなご飯を作って、好きな音楽を流して、家族3人でなんでもない話をしたい。』…だってさ。」

少し声真似も混じえる。

アオイは柔らかい笑みを零した。

「えーいいなあそれ。実はこの体になってから飯食べられてないんだよね。カレーとか食べたい。」

「アオイさあ、結構朝ごはんとか抜いてたよねー。もっと食べときゃよかったんじゃない?笑」

まあ私もたまにぬくんだけど。

休日とか昼まで寝ちゃったりするじゃん!

あれ幸せなんだよねぇ…。

「ははっ、たしかにそうかも。」

笑う。

一連の会話とアオイの反応で私は薄々勘づいていた。

アオイは、死んだことをまだ悔やんでいない。家に帰りたいともあまり思っていない。

あの日、生きたいと言わせると言った日から私はその方法をずっと考えていた。


アオイに『何故死んだの?』と聞いた時、

『楽になりたかった』と言っていた。

死にたいという考えを生きたいにひっくり返すのはなんと難しいかことか。

絶対ミートソースパスタ食べたいって思ってる私をキノコリゾット食べたいに心変わりさせるくらい難しいよ!!(?)

キノコ嫌いなんだ私。

きのこたけのこ派のアレもたけのこ派ですし。

おっと、話がズレた。

で、私は考えたの。

私が何故生きるかっていうと楽しいからなんだよね。今の暮らしが、周りの人達と生きることが楽しいから。明日何しよう。どんなことがあるんだろう。そんな事を考え始めたら何処までも行けるし、顔がにやける。

だから、生きてたらこんな楽しいことがあったんだよ。とアオイに思わせる!

まだどう影響するかは分からないけど、悪くない作戦のはず!!

だから私は聞いてみた。

『もしアオイが生きてたら、どうするのか』

と。

死んだからそれをする事ができなくなったんだよ、と言ってやるんだ。

(私も沢山やりたいことあったし、いっぱいぶつけてやろう)

でも、今の感触だと思っているようにはならなさそう。もう少し改良と作戦の変更をしないと。うーむ人生思ったようにはいかないのぉ…。

そして、私たちはそれからは会話がないまま家に帰った。

また次の心残りを失くす回は1週間後となり、私はまた暫く方法を考えることになりそうだ。

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