二人のお姫様のお話
昔、昔のこと。あるさほどお金持ちではない国に、それはそれは美しい二人のお姫様がいました。その容姿から二人はそれぞれ姉姫は白銀姫、妹姫は黄金姫と呼ばれていました。髪が銀髪と金髪だったからです。
思慮深く大人しい白銀姫に比べ、黄金姫は社交的で少しばかり我儘でした。白銀姫と張り合って、ドレスも靴も欲しがりますし、舞踏会では自分が目立たなければ満足しません。王さまもお妃さまも黄金姫を甘やかしてばかりいました。
白銀姫は一人質素に暮らしていました。舞踏会も、おしゃべりも、ドレスも靴もさほど興味を持てませんでしたから。王さまもお妃さまも悪いとは思っているのか
「そりゃあ下の子どもは可愛いが、国を託せるのはお前だけ」
「貴女は真面目な良い子だわ」
と白銀姫を褒めますが、白銀姫の心にはちっとも響きませんでした。
黄金姫が白銀姫に意地悪をしたことはございません。むしろ黄金姫は大層、白銀姫に懐いていました。何かあればすぐに白銀姫を頼ります。
「姉さま、お裁縫の仕方を教えて」
「姉さま、姉さまの作ったお料理とっても美味しかったわ。今度作り方を教えてね」
「姉さま、ぜひ舞踏会にいらしてね。約束よ!」
黄金姫はただひたすらに無邪気で、贅沢が好きなだけでした。けれど白銀姫は黄金姫が鬱陶しいことが多々ありました。
あの日、悲しい出来事が起きました。王さまとお妃さまが相次いで亡くなったのです。この世の終わりのように泣き叫ぶ黄金姫を尻目に、白銀姫は王位につきました。
女王になった白銀姫は、隣国の王子と結婚することになりました。いわゆる政略結婚です。若くてハンサムで、頭が良いと評判の王子は、国中の人を味方につけました。治水工事を成功させ、国は栄えるようになりました。王子の憂いはただ一つ。白銀姫との間に子どもができず、次の王様が黄金姫であることでした。わずかながら王子に反発する勢力が黄金姫を旗印にして、王子の権力を脅かす可能性がありました。例によって黄金姫は悪いことは何もしていませんが、王子にとってはこの上なく邪魔な存在でした。
そんな折、白銀姫の食事に毒が盛られる事件がおきました。犯人はしがない従僕で、ただの愉快犯だったのですが、王子はこの事件の黒幕を黄金姫と断定し、白銀姫に言いました。
「貴女の妹を罰しなさい。あの人は貴女を憎んでいる。殺したいとまで願っているんだ。躊躇うことがあるだろうか」
それは甘い囁きでした。女王となった白銀姫にとってもまた、黄金姫は邪魔な存在だったのです。白銀姫に不満がある人はみな、黄金姫に期待するのですから。
そうよ。全部あの子が悪いのよ。
白銀姫は思いました。
お父さまもお母さまも一部の家臣さえ、私を軽んじあの子を可愛がる。おかしかったのよ、私の方が努力していたのに。いつだって愛されるのはあの子、損をするのは私。あの子が何か企んでいたのなら、全て納得がいくわ。
王子の甘い囁きで、白銀姫の嫉妬は、たくみに義憤へと姿を変えました。正しいことをしている時、人は快感を覚えるものです。
黄金姫はその美貌に傷をつけられ、地位を奪われ、城を追放されました。
その後どうなったかって?
白銀姫と王子は長く良い統治を続けましたが、最後には家臣に謀反を起こされ非業の死を遂げました。
黄金姫は幸いにもというべきか、修道院にいましたから攻撃されることはありませんでした。やがて黄金姫がお姫様であったことを知る人もいなくなり、いつも作り話をしている風変わりなお婆さんとして静かに暮らしました。
「昔、昔のこと……」