03
「土鉄と同種」
鋭い眼差しがおれに向く。
「マルセマルスカス様から、そうお聞きしました。それはこの石も、土鉄の毒性と同じなにかを含んでいるということですか?」
「いや違う。そうではない。この石の成れの果てが、土鉄だということだ」
おれの頭上へちらりと目をやって、続けた。
「あの山から湧き出た水は、流れ流れて、やがて海へと辿り着く。事物は漏れなく、高きから低きへ流れるように、定まるところへ移ろうもの。それが天下の理。今は美しく耀くこの石も、定まるところに流れながら、まるで老化するように、徐々に艶を失い、ながい永い時を経て、土鉄と呼ばれる元素と化す。その毒とは関係ない」
「石が、金属に」
茫然と呟いて、木箱に触れた。
「この内側の厚い金属も、土鉄ですよね? マルセマルスカス様がお持ちになったのも、土鉄でした。封印との説明を受けましたが、それは」
「そうだ。土鉄は、この石が秘める猛毒を、よくよく封じ込めるのよ。魔法ではないよ。物質的な話しだ。いずれ土鉄と果つる石の封じに、土鉄が適する事実については、偶然か必然か、わしにもわからんが。ルイメレクが残したおもちゃ箱のなかに、土鉄と錫の合金があったことを思い出してな。それでどうにか用意ができた。こちらは完全に偶然だ」
こけこっこーと鶏が、だしぬけに鳴いたので、おれはそちらへ顔を向けた。
マルセマルスカス氏が示した、サリアタ氏の言葉の真意が知れ、理解はともかく、納得した。
石が土鉄に変質する。
その土鉄が、石の猛毒を封印する。
いずれの返答も、澱みがなかった。
確信がなければ、答えられない。
向きなおり、木箱を見つめた。
「この石は。この星、固有のものと、思われますか?」
「そう思う」
即答だった。
頬が思わずゆがんだ。
先史人類の偉大な歴史を、おこがましくも眺め尽くしたとは思わない。
だが、先祖学者として、目星を付けた記録群を読み尽くしたという自負はある。
「モハネトク鉱石。われわれはそう呼んでいました。発見された鉱山の名前です。のちには、呪われた石とも。片手で持てるほど、どれも小さな石でしたが、わたしには、乗り越えられませんでした。ロヴリアンスはなにも語ってくれなかった。何度、訪ねても、徒労に終わりました」
過る。
ここに辿り着くまでに、去来していた様々の記憶が、色々の感情が。
「サリアタ様」
求めたその名は違えども、ついに面前にした人物は、まぎれもなく。
樹海の魔法使いに、おれは問いかけた。
「この石は、いったい、なんなのですか?」
搾り出すような声になって、深々と頭をさげた。
「教えてください。この石が秘める猛毒とは」
すると、おれの左肩に、そっと手が置かれた。
その仕種が、愚かな男の伏せた面を持ちあげる。
「そろそろ夕餉の刻限だが、先におろしてしまおうか。おまえさんが独り、この肩に負った重い荷を」
静やかにそう言って、サリアタ氏は語りはじめた。




