栗と胡桃と棗だけじゃ物足りないし、沢のイワナでも取るか
さて、粗末な寝台で横になって寝た翌朝だが、太陽が上ってから俺は目覚めた。
昨日はあまり時間もなかったこともあり確実に手に入る木の実の栗と胡桃に棗を採ってきて食べたが、正直物足りないしできれば肉が食いたい。
兵士のときには兵士の皆で行なう巻狩りで狩った鹿や野ウサギなどの肉や豆類に食える草を入れた、粟粥を食っていた。
その他の雑穀が混じっていることもあるが。
無論今は食料が支給されるわけではないから、すべて自分で確保しなければならない。
そして一人で鹿などの狩猟をするということになると猟犬がいない限り何も手に入れられない可能性が高い。
豚でもいればどんぐりや茸や大便など何でも食うから放っておいても育つし、驢馬や羊、山羊、鶏や家鴨などでもそこまで手間はかからないのだがそういった家畜は手元にはいない。
というわけで動物の肉を食うのは諦めよう。
逆に簡単に手に入るのは貝のたぐいで、タニシなどは実際泥を吐かせた後で煮込んで食べるわけだが、山の中のきれいな清流にいる貝で食えそうなのはカワニナくらいか。
逆にイワナならこのあたりにもいるはずだ。
で、どうやって魚を採るかと言えば、釣りでも良いのだが竿と針と糸を用意するのは時間がかかるだろうから、小刀で木を削って逆さのとげが付いたヤス先を作り、それを手頃な太さの竹にくくりつけて竹ヤスを作り上げる。
骨か動物の角が見つかればそれを加工してもいいが今は加工性優先だ。
竹ヤスが出来上がったら沢に降りて川の中を眺める。
二尺(およそ60センチメートル)もあるような大岩魚がゆったり泳いでいるのが見えたのでそれへ向かいヤスを突き出すと上手く刺さってくれた。
「ふむ、これなら食いでがありそうだな」
小刀のさやで頭を叩き野ジメにし、小刀の刃をイワナの肛門に突き刺し、頭に向かって少しずつ腹を割いていき、エラの切れ込みの手前まで割き、エラと内臓を一緒に取りさって、沢の水で血を洗い、ウロコを削ぎ落としつつぬめりを取って後は竹の串に挿す。
昨日拾い集めた薪を握りしめて”急急如律 令木生火 疾”と五行仙術の呪禁を唱えて火をおこし、その火を使ってイワナを炙り焼きにする。
あまり大きなものよりは小さい方が美味いらしいが、この際文句は言うまい。
1時間ほどかけてじっくり焼いて中まで火を通し、その身にかぶりつくとやや癖のある野趣溢れる香りが鼻腔をくすぐったあと口の中にじゅわっとうまみが広まった。
「はあ、美味いな、こりゃ」
大きいイワナは美味くないとも聞いたが十分うまかったし、腹も膨れた。
後はのんびり過ごすとしようか。