唐突に思い出したがこのままだと俺は死ぬ
俺は唐突に気がついた。
俺の名前はチャン。
ここは山賊のアジト。
そして今の俺はこれからはじめて人を襲う山賊だ。
元は農夫だったが、国に徴兵されて簡単な訓練を受けた後、前線に送られ、なんとか生き延びて兵役を解かれた。
そして、行く宛もなく山賊になった俺は、これから通りがかりの隊商を襲って返り討ちに会い死ぬ。
そういういわゆる小説やゲームに良くでてくる名無しの雑魚悪役で、しかもよくある西洋ファンタジーではなく中華ファンタジーの世界だ。
なぜそんなことを思い出したのかはわからないが、そういう立場であることを何故か認識してしまった俺は、死ぬことがわかっているのにこのまま死ぬだけの行動を続けるつもりはなかった。
ぜったいに勝てない強さの相手と戦って踏み台として死ぬだけなんてまっぴらごめんだ。
「なあ、みんなちょっと考え直さないか?
隊商を襲ってものを奪うよりも素直にこの近くの山を切り開いして田畑にしてのんびり暮らしていけば良いじゃないか?」
しかし俺の言葉は見事に否定された。
「はぁ、何をいってんだ今更?」
「そうだそうだ!」
「いまさらやめられるか」
「こんな臆病者と同じ部屋にいられるか!俺たちは自分の道を行くぞ!」
そういって長年隊伍の5人組として兵役を解かれた一緒に居た連中は粗末な刀を手に山を降りていってしまった。
彼らはきっと戻ってこないだろう。
これからは一人でなんとかするしかないか……粗末とは言え風雨をしのげる住居には、兵役時代に支給された炊事などに使う竈のある土間と寝ることができる部屋や、近くに飲むことができる水源になる沢、手斧や小刀などの道具や弓矢、米・粟・稗などの種籾になるものなどがあるだけだいぶましではあるか。
それこそまるで何もなければ途方に暮れなければならないところだったはずだ。
「まあ、山賊をやって返り討ちで死ぬことや、必死に田畑を耕して収穫しても半分以上は領主に持っていかれるよりはずっとましかもしれないな」
そうでも思わなければやっていられないが、ともかくある意味のんびりスローライフはここからはじまるのだ。