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「自分の中の暴れん坊を押さえつけられないうちは無理でしょうね。押さえつけられないのなら無視するの。込み上げてきたら、何でもいいから好きな事に打ち込むのよ。」
女将はそう言うと、フォッフォッフォッっと突然笑いながらお盆を持って、ヘンテコリンな踊りを舞い始めた。
陽気なタヌキが躍っている姿を見ていると、なんだかおかしくなってきて、気づいたら私も一緒に踊っていた。
店の中なのに、何故か空にはお月様が浮かんでいた。月夜にタヌキ女将と私は愉しげに踊り続けた。
「お嬢さん!」
「なんですか、女将!」
「次は、相手の事を一方的に見るんじゃなくて、二人で一緒の方向を見られる人と付き合えるといいわね。」
「相手を一方的に見るんじゃなくて…一緒の方向を見られる人…」
チチチ…
鳥のさえずりが聞こえた。
瞼の上に眩しい光が射していた。目を覚ますと自分の部屋だった。私は服を着たまま、メークも落とさずにベッドで寝ていた。
起き上がると頭がガンガンした。二日酔いだ。
えっと…夕べはどうしたんだっけ?
記憶を辿る。駅前の商店街を歩いて帰っていたら…変な路地を見つけて…そうそう!
タヌキの女将がやっている小料理屋に入ったんだ!
タヌキの女将?
夢でも見てたのかな…。
というか…夢だった?
のそのそと起き上がって洗面所へ行き顔を洗った。歯も念入りに磨いた。鏡に映る自分の顔を見てみた。
悪くない。
まだまだイケてると思った。肌だってツヤがあるし、客観的に見ても捨てたもんじゃないよ。
なんだか少し、元気が湧いてきた。
今日は休日だ。
一日予定はない。
何をしよう?
今までは何をしようなんて思ったこと無かったな。
一日中浩平の事だけ考えていて、休日はとにかく一緒にいようって、それだけしか考えて無かった。
相手の事を見るんじゃなくて、二人で一緒の方向を見られる人と付き合えるといいわね…
タヌキ女将…そう言ってたな…。
私…浩平のことしか見てなかった。
考えてみたら重すぎるよね…。
浩平と付き合う前は…したい事とかあったよね…。
そうそう!
昔から、試験が終わったらこの本を読もう!
課題が終わったらカメラを始めよう!
今のプロジェクト終わったら離島を旅しよう!
で、いざ終わったらゴロゴロするだけで何もしなくて次の予定が始まって後悔する…その繰り返しばかりだったな…。
よし!