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「こういう着物をサラリと着こなす人っていいよな….純も着物とか着てみてよ!」
そういや浩平、そんなこと言ってたな…
思い出すと悲しみからか悔しさからか、また涙が溢れ出てきた。
「コレ、私のおごり。」
タヌキ女将は私の前にそっとハイボールを置いた。私はそれを一気に飲んだ。
「…女将、私…5年付き合った彼に振られたんです…」
女将は私の目をじっと見て、それから目を瞑って頷いた。
「30から付き合い始めて5年ですよ!」
「辛かったわね…」
女将の言葉にまた涙が溢れてきた。
「人間…生きていると、いろいろあるわよね…」
いえ、あなたはタヌキですけど…
「私もね、それとは違うんだけど、いろいろあったわ…」
「女将にも辛い恋があったんですね…」
「…そうね…。お互い愛し合っていたのだけど…身分の違いっていうのかしら…」
身分の違いと言うより、人類と動物の違いでは…?
「まあ、私の事はいいのよ…。お嬢さん、溜まってる物を、ここで全部吐き出していきなさいよ。少しは楽になると思うわ。」
タヌキ女将は憂いを秘めた流し目で私に言った。憂いを秘めたタヌキの姿が若干おかしくて噴出しそうになったが、私の胸の中にヘドロの如く溜まっていた物が口から溢れ出てきた。
「…結婚するとばかり思ってたのに…。死刑宣告されたも同然ですよ! 私の人生、もう終わりだぁ。これからまた結婚相手見つけるなんてしんどすぎる! …私の…どこがダメだったのかな? どこが一体気にくわなかったんだろ! 教えてください女将! 私のどこがダメだったの?」
私はかなり酔っていた。そして私は答えられないような質問を女将にぶつけまくった。とりあえず誰でもいいから愚痴を言いたかったのだ。見ず知らずの女将に…ましてやタヌキにこんなことを言ったところで、何もできないのはわかりきっていたのだが…。小料理屋なんて、私みたい管を巻く客なんて日常茶飯事だろうから、適当に聞き流すだろうと思っていたのだが、タヌキ女将は違った。
うつむいた目の周りは真っ黒になって、目は白く不気味に光っていた。
「ねぇ女将! 聞いてますか? 聞いてるなら私が何で捨てられたか教えて! 私のどこがダメだったの?」
「…女将……?」