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「オーダーはいりまぁ~す! 筑前煮ワン~!」
今度は熟練ウェイター風な重低音でタヌキ女将は自分にオーダーを入れた。
「スィッ!」
そしてまた自分で自分に返事をした。
ものすごいドヤ顔で…
小料理屋でこのオーダーの取り方不自然だろ!
モヤモヤする私をよそに、タヌキ女将はニコニコ嬉しそうに筑前煮を皿に盛っている。
さっきの歯を剥きだした威嚇は何だったんだ!
「こちら、筑前煮でございまーす!」
タヌキ女将の出してくれた筑前煮を一口食べてみた。
うっまぁ~!
こんな旨い筑前煮、食べたこと無い!
何なんだこの女将!
あまりの旨さにいくつか他の物も注文してみた。
「えっと…じゃあ、このアグー豚の角煮と…ジーマーミ豆腐…ん…この店沖縄系の多いな…ま、いいや、それと…たい焼き…」
タヌキ女将がどういう反応するか見たくて、恐る恐るたい焼きも注文してみた。
シャーーーーーーーーーーーー!
案の定、女将は牙を剥きだして威嚇した。
「あ…じゃあ…たい焼き無しということで…、この本日の魚の塩こうじ焼きで…」
「スィ!」
だから何でイタリア語なの?
タヌキ女将はご機嫌で手際よく料理をしていた。
「どうぞ。」
目の前に料理が運ばれた。
うまぁ~
心に染みわたる家庭的な味!
なんだかお母さんの手料理を思い出すなぁ~。
え?
何?
涙が溢れてきた!
私は止まらなくなった涙を拭うため、ハンカチを出そうとバッグに手を伸ばした。
その時、タヌキ女将が無言でさっとハンカチを手渡してくれた。ガーゼ素材の柔らかそうな白いハンカチ。その女将の心配りにまた泣けてきた。
「ありがとうございます。」
私はハンカチを受け取って涙を拭った。
何――――?
このハンカチ!
めっちゃ涙吸い込む!
しかも肌触り最高―――!
何なのだろう…この料理といい、上質素材のハンカチといい…。この女将、タヌキのくせに、食と住にはものすごいこだわりを持っている!
まてよ…女将の着物…どこかで見た…、そうだ!
この間別れた元カレと沖縄旅行に行ったときに見た琉球紬だ!
シンプルだけど品がいい!
なんとお洒落なタヌキなんだ!
衣食住全てにこだわりがあるということなのね…タヌキ女将よ…