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フィリピン海といっても太平洋の付属海なのだから、見渡す限り瑠璃色だ。
潮に揺られて海面近くに浮き上がると竹竿で海面を叩いているような音が聞こえてきた。デニソワ人の新しい漁法だろうか。
しかし、ここらへんで取れるのはハクジラぐらい。どうも様子がおかしい。
僕は再び、海中へと潜った。
バシーン! バシーン!
かなり強烈な音だ。フィリピン海で雹でも振っているのだろうか。
そのうち、未確認飛行物体の一つが僕の眼前を通りすぎた。刹那、時間が止まったような感覚に襲われた。両の目には殺意が宿っている。
なんと正体は相模湾一帯を跳梁跋扈していたあのヒドロクラゲだった…。
「どうしてこんな所にっ!」
僕はDr.ハマグリを捜し回った。その間もひっきりなしにヒドロクラゲ弾が空から降ってくる。そもそもクラゲは空を飛べない。なぜ、ヒドロクラゲが宙を舞うことができるのだろうか。
世の中、奇妙なことばかりである。
いずれにしろ、ペルセウス流星群のように降り注ぐヒドロクラゲに衝突されたら命はない。僕は触手を器用に使って潰走した。
しかし、ヒドロクラゲ弾は僕の居場所を通信衛星で特定するかのように追跡してくる。たまたま捕まえたイソギンチャクたちの助けを得ることができなければ、ミズクラゲちゃんに再会することなく僕はフィリピン海を去っていただろう。
ほどなく相模湾のDr.ハマグリ研究所に潜り込んだ僕はハマグリとともに作戦を練った。
「ものすごい数じゃな」
開口一番にハマグリが発した。
「急にヒドロクラゲの大軍が消えたと思ったら空に逃げていたのか」
「どうして、クラゲが空を飛んでいるのさ」
「月の引力だろう」
「月って、そんなにパワーがあるの?」
「地球の六分の一の重力がある。ヒドロクラゲを持ち上げるぐらいわけないじゃろ」
「………そ、そんな」
「絶望している暇はないぞよ。この炭素繊維複合材ロケットで迎撃するんじゃ!」
Dr.ハマグリはいそいそと機械の組み立てに入った。
弾は死滅した貝殻を使うようだ。僕はヒドロクラゲ弾が降り注ぐ海中に戻り、貝殻を触手で持てるだけかき集めた。
「取ってきたよ」
僕は触手いっぱいの貝殻をハマグリに渡した。
「ふむ、もう少し必要じゃ」
僕は一目散に残りの貝殻を回収した。