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ヒドロクラゲとの戦いからひと月が過ぎた。
まだミズクラゲちゃんには会えない。
Dr.ハマグリも相模湾に戻り、ロケットのさらなる改良へと日夜、勤しんでいた。
すると相模湾一帯で防衛網を張り巡らせているイソギンチャクから緊急通報が入った。大量の”未確認クラゲ”がこちらに攻め入ってきているというのだ。
もしかして、アノ時のヒドロクラゲか?
僕は足りない脳みそをフル回転させて記憶を辿った。
が、全く思い出せない。
イソギンチャクたちによると速度0.5ノットで相模湾に向かっているそうだ。このままの速度でいくと十時間後には警戒区域に入る。仮にヒドロクラゲだとしたら、轍鮒之急である。
実はヒドロクラゲはデニソワ人にとっても脅威となっており、捕獲作戦が実行されている。
しかし、彼らの無性生殖の能力は高く、無尽蔵に増え続けている。ここで僕らが食い止めなくて誰がやろうか。
ふわーん、ふわーん、ふわふわーん。
僕は全速力でDr.ハマグリの元を尋ねた。
ふわふわーん。
「おや、どうしたんだい? ミズクラゲくん」
「知らないの? すぐそこまでクラゲの大群が迫っているんだよ」
「それは大変だな。一つ手を貸そう」
「うん、ありがとう。Dr.ハマグリ!」
「では、どんなクラゲなんだ?」
「まだ、わからないんだ。でもヒドロクラゲだったら一大事だよ!」
「そうじゃな。策を練る必要があるな」
Dr.ハマグリはそう言ったきり貝の蓋を閉じてしまった。
「ねえ、起きてる?」
返事がない。
「Dr.ハマグリ!!」
僕は触手で刺激してやった。
「おお、まだいたのか。それで、クラゲの正体は分かったのか?」
「ううん」
僕は八本の触手を横に振った。一応、否定のジェスチャーのつもりだ。
「いかんせん相手の情報が薄いと対策が立てられんな。ひとまずイソギンチャクたちからの連絡を待つとしよう」
僕は居ても立っても居られなくなり、イソギンチャクたちと少しでも早く連絡が取れるよう相模湾防衛ラインの最前線に移動を開始した。
ふわーん、ふわーん、ふわふわーん。
ふわーん、ふわーん、ふわふわーん。
着いた頃には僕でも敵の正体が分かった。
あれはヒドロクラゲだ。
しかも、この間とは比較にならないほどの数だ。海底を埋め尽くさんばかりのヒドロクラゲがゆらゆらと移動している。
僕らの海域まであと五時間ぐらいだろうか。僕は急いでDr.ハマグリの元に引き返した。