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Dr.ハマグリの計算によるものか、ただの設計ミスか知らないが、着水すると僕はまた相模湾沖に戻っていた。
彼は本当に博士なのだろうか…。僕の脳裏にはてなマークが二、三浮かんだ。
「あーあ、ミズクラゲちゃんに会えないな…」
潮まかせに浮遊しているとミズクラゲちゃんに似たクラゲの姿が目に映った。
「ミズクラゲちゃん!」
僕は衝動的に叫んだ。
「ミズクラゲちゃん!!」
反応がないので次はもっと大きい声で叫んだ。
しかし、そのクラゲは振り向いてくれなかった。気がつくと周囲をヒドロクラゲに取り囲まれていた。繁殖能力が高いと評判のクラゲだ。もう数えきれないくらいいる。
まさかミズクラゲちゃんに会えないように妨害しているのだろうか。
ふわーん、ふわーん、ふわふわーん。
僕は決死の覚悟で戦うことにした。
ふわーん、ふわーん、ふわふわーん。
でも、触手がまったく届かない。攻撃も潮まかせなので、偶然近くに奴らが来たら刺すぐらいだ。
ふわーん、ふわーん、ふわふわーん。
手も足も出ない。
四面楚歌とはこのことを言うのだろうと1メガの細胞が本能的に感じ取った。
三十六計逃げるに如かず。
僕は戦線から離脱することにした。
黒潮の流れを感じ取って、触手を大きな輪の形にする。こうすればミズクラゲでも舵を取ることができる。
幸いヒドロクラゲの知能は低い。
群れと群れの間隙をぬって懸命に泳いだ。
ふわーん、ふわーん、ふわふわーん。
去り際に少し敵の触手が傘に当たった。
「くっ」
ヒドロクラゲも逃がすまいと最後の攻撃を仕掛けてくる。
ふわーん、ふわーん、ふわふわーん。
戦闘に全く緊張感がないが、旗口クラゲ目・ミズクラゲ科としては必死に戦っている。
ふわーん、ふわふわーん。
「ふう。ようやく離脱できた」
思わず独り言を呟いてしまった。