3
ヒゲクジラの潮に吹かれたせいか気が付くと再び相模湾沖に戻っていた。
すると、またしてもDr.ハマグリが僕の元へやって来た。
すいすいと泳ぎながら。
「やあ、ミズクラゲ君。元気だったかな? ところで新しい発明をしたんだが、試してみないか?」
「どんな?」
「水圧ロケットだ」
「どこで水の力を得るの?」
「小笠原諸島の近くに”火山列島”があってな。そこの活火山の噴火で起きる水圧を利用するんじゃ」
「火山列島? 聞いたことないなぁ」
「そうじゃろな。ここから遥か南の島だからな」
「どうやって行くの?」
「わしがイソギンチャクたちを使ってお主を引っ張ってやろう」
「ええ、嫌だよ。イソギンチャクってユラユラしてる奴でしょ? 気持ち悪い……」
「そうか。乗ってみると快適じゃぞ」
「本当?」
「このDr.ハマグリが言うのだから、間違いない!」
Dr.ハマグリは胸を張って言った。
「う~ん、怪しいけど行ってみる」
火山列島。
「着いたぞ」
「アオウミガメより速かったね」
僕の心はウキウキしていた。
一体、どうやって海上へと飛ばすのだろうか。ヒゲクジラの潮で空を飛ぶ快感を味わってから、海の上の空への憧れが強くなった。
「この筒に入るんじゃ。まだ、実験段階だから飛んでも百メートルぐらいじゃろう」
「百メートル飛んだら、また海に落ちるの?」
「ふむ。その時の衝撃は、このスフィア型炭素繊維複合材がガードしてくれるはずじゃ。実験ではな…」
ふいにDr.ハマグリが視線を逸らした。
「飛ばしたの?」
「いや、これからじゃ。何せ火山列島に来たのも初めてじゃからな」
「そんなぁ、ただの実験台じゃないか。いくら無性生殖できるからって、それは嫌だよぉ」
「大丈夫。安心したまえ。五メートルほどだが、イルカの群れがビーチバレーをしても壊れんかったぞい」
「そうなの?」
「もちろんだとも」
「じゃあ……乗ってみる」
僕はDr.ハマグリに背中を押されて、水圧ロケットの球体に入った。
操縦席は水で満たされている。
これならミズクラゲちゃんに会う前に死ぬこともないだろう。ちゃんと海藻まで植わっている。
「準備はいいか?」
僕は触手でOKサインを出した。
「発射二十秒前…」
ついにロケットで海上へ放たれる瞬間が来た。僕は胸を躍らせた。
「十秒前…」
えい航してきたイソギンチャクが順にカウントダウンを読み上げる。
「五、四、三、二、一」
もうすぐだ。
「発射!!!!!!」
Dr.ハマグリが興奮した声で叫ぶ。
海底火山から送り込まれた空気が細いチューブを伝わって水圧ロケットの基底に注ぎ込まれる。まるで海底地震のようにロケットの底が揺れ、僕は一気に発射された。
ものすごい速度で縦型のチューブを通り抜けていく。僕を乗せて…。
海面は、まだ見えない。
徐々に太陽の光が強くなってくる。まもなくだ。
しゅぱぁぁぁぁぁん
僕は再び海上へ飛ばされた。
水圧ロケットのそれはヒゲクジラの潮より、さらに高く舞うことができた。見渡す限りの蒼海が広がる。
季節は夏。
水平線の彼方に鉄砧雲が見えた。