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海中をたゆたっていると”Dr.ハマグリ”に出会った。
ここらでは物知りで通っている博士だ。道すがら挨拶をしていくことにした。
「おや、ミズクラゲくん、どこへ行くんだい?」
ハマグリは貝の蓋を上下させながら言った。話すたびに貝の中から空気が泡となって海面へと昇る。
「ミズクラゲちゃんを捜してるとこ」
「そうか。若いな。ところでクラゲのご先祖様はどこから来たか知っておるか?」
「ううん」
僕はただ横に首を振った。そもそも僕の頭脳は1メガもない。せいぜい覚えられるのはミズクラゲちゃんの顔と触手の場所ぐらいだ。
「宇宙だ」
「ウチュウって?」
「夜になると空にキラキラ光るのが見えるじゃろ?」
「うん」
「それが宇宙じゃ」
「でも、いっぱいあるよ」
「そうじゃ、そうじゃ。その中でもな、火星という星から来たという噂があるんじゃ」
「遠いの?」
「遠いな…」
「どれくらい?」
「行ったことないが…一年、いや五年くらいかかるだろうか。とにかくわしらが生きたままたどり着くのは不可能なほど莫大な時間がかかるんじゃ」
「そんなの役に立たないよ」
Dr.ハマグリは咳払いを一つした。
「それがそうでもないんじゃ」
「どうして?」
「お主ら、ミズクラゲは無性生殖で増えるじゃろ?」
「まあね。それもできるよ」
僕は胸を張って言った。
プラクトンの友達で有性生殖と無性生殖ができる種は少ないのだ。
「だから、何世代か後には子孫が火星につけるじゃろ」
「どうやって?」
「炭素繊維複合材じゃ」
「タンソ……、何それ?」
「最近、ホモサピエンスが発明したものでな。とっても軽いのに頑丈なんじゃ」
「僕より軽い?」
「ああ、もちろん」
「じゃあ、そのタンソセンイとかいうのに乗ったら、宇宙に行けるね」
「そうじゃ、そうじゃ。でも一つ問題があるんじゃ」
「何?」
「水がいる。しかも海水の」
「それならココにいっぱいあるじゃない」
「いいや、その物体の中に海水をどう注入するかがミステリーなんじゃ」
「研究中ってことね」
「ふむ。しかし、さらに大きな課題がある」
「もしかして、飛ばす方法?」
「ご名答。ミズクラゲやわしらは海の生き物。人類のように火を使って打ち上げることができん。常に水中にいないと死んでしまうからな…」
「じゃあ、水の力を使ったら?」
「おおおおおおおおおおお! 水圧か!!!」
そう叫んだきりDr.ハマグリは岩場の研究室に閉じこもってしまった。