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desire 5

先日カップヌードルのカレー味に、納豆を入れて食べました。

納豆カレーヌードル。カップヌードルの新しい楽しみ方を知りました。良い子の皆さんは是非真似してみてください。


第5話です。

desire 5



プシャーーーーー!

真っ赤なシャワー。彼女の内に秘められている1つの愛の形。体の中を駆け巡り命を繋いでいる血。

まるで鋭利な刃物で切り裂いたように、彼女の首元には大きな傷口がパックリと開いて、そこからこの部屋を、惨劇の舞台へと変えるように大量の血液が吹き出している。



もちろん猛の手で切れるわけがないし、猛が手に刃物を持っていたわけでも、彼女が猛に刃物を渡した訳でもなかった。なのに、きれた。猛はわけがわからなかった。



???「ぁぁっ!あ、あぁーー!は、ハハ、痛い。痛い、痛い痛い!痛いよ!感じる!君から受けた傷!!痛い!熱い!アハ、アーーハッハハ!んっ...あぁっ!!」



猛「あ...あぁ、、、ぁぁっ」



???「あっ、あぁ、んんんっ、くっ、あぁ、止まらない。止まらないよォ...ねぇ君も一緒に、あぁんっ、感じよぉ、ねぇ、熱いでしょっ、んっ、熱いよね!」



猛「あ、ぁ、......あ、」



???「言葉も出なくなったぁ?アァっ!んっ、んんっ、!ふぅ...ふぅ...聞いてぇ...痛いの...苦しいの...もう、んっ!死んでしまいそうな、くらいっん!でも、でも止まらないの!!!血が、血が止まらないの!」



猛「う、、......ぁ、う......」



???「アァんっ!!!可愛い声...聞かせて、聞かせてぇ、愛しい...君が愛しい...この傷も、この血も君がくれた...ん、あぁ、ぁぁぁぁっ!気持ちいいよぉ、助け、て、助けてぇ、死んじゃ、う。私死んじゃうよォ......」



猛「.........。」



異様な光景。痛みによがる女と恐怖と狂喜に嬲られている男。病室は鮮血にそまり、なにかの儀式が行われているような猟奇さを内包している。そこで向かい合っている2人はどこか儚く、望まない夢を見させられているかのように、自分ではどうすることもできない悲しみにも似た空気があった。



???「う、あぁ、...」



彼女は力尽きて猛の上に倒れ込む。人間だったらとっくに死んでいる出血。真っ白で汚れ1つなかったベッドは、彼女の血で真っ赤に染まっていた。それは先程彼女が言い放った彼女の愛。ただ一途に、猛のことを想い、求め、止めようがなかった、彼女の情熱的な愛の色。



猛は息絶えだえに今にも頭がおかしくなりそうになりつつ、どこかに息を潜めていた理性が少しずつ恐怖を制してきていた。



猛「はぁ...はぁ、はぁ!」



気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。生理的なものと、精神的なものと、そもそも何が起こったか理解が追いつかない。ナースコールをかけて今すぐ誰かを呼びたいのに、体が言うことを効かない。



猛自身も彼女の血を大量に浴びていた。ただ殺しを楽しんでいるかのような狂った殺人鬼のような姿。猛はようやく動くようになった目で自分の手をみて思わず声を上げる。



猛「ひっ!!!」



前にも見たような光景。あの時は違った。冷たくなった人間を抱きかかえて、悲しみに打ちひしがれて、悲しい選択をしたその人を止められなかったことを、ただ呪い、自分自身に対しての怒りで震えていた。



今、猛の手は真っ赤に染まっている。頼んだ訳でもない、救えなかった訳でもない、ただ一方的な愛情にも似たなにかを向けられて、浴びせられた、拒絶することも出来なかった感情。震えが止まらない。



猛「な、なんなんだ......なんなんだよ…...」



???「はぁ...はぁ...は、ぁぁ、ウフフ。やっと、話せるよう、に...なったぁ?...」



猛「お、お前、お前は、何がしたいんだよ......何が望みなんだ......」



???「望み、なんて、ない、はぁ、はぁ、欲しい、欲しいの、...ぃが欲しいだけ...」



猛「何が欲しいんだよ......こんな、こんな事までして!人を怖がらせて!な、何が欲しいって言うんだよ!」



???「はぁ...ぃ。...ぃよ。何にも変えられない。君の.........。」



彼女はそう言うと、もう残ってないであろう力を振り絞り這いずりながら、猛の顔へ迫る。



猛「く、来るな!!」



そう言われても彼女は止まらない。彼女を突き動かしているのは猛への欲望。いつ死ぬかも分からない命の瀬戸際にもかかわらず、彼女はただ、ただ純粋に猛を求めている。



猛「やめろ...来るな…来るなぁ!」



???「どうして....、どかない、の、......うして、私...見てくれ...いの......」



猛「ひっ、そんな目で俺を、俺を見るな!近寄るな!!」



いよいよ彼女は猛の目の前まで近寄り、鮮血にまみれた手を猛の顔へと伸ばす。だが猛が見た彼女の顔は痛みに苦しんで、憎しみを抱いている怨念じみた顔ではなく、痛いを抱いてもどうにもならなかった現実を悲しんでいるような、弱々しい顔をしていた。



猛「な、なんで......そんな顔を、してるんだよ…...」



???「はぁ...、ぁぁっ、...れたいの......君に......はぁっ、触れたいのっ......!」



猛「な、なんで......」



???「なんで......ゎからな......けれど......はぁ...はぁ......」



遂に彼女の手が猛に触れる。その瞬間、猛の震えは止まり、彼女は満足そうな表情をして、こう呟いた。



???「...ける......やっ......やっと、、、......届いたっ......」



猛「(なんで、俺の名前を......、、、お前は......誰なんだよ...)」


プツッ


猛の意識はそこで途切れた。暗闇の中でただひとり、何かに包まれたような浮遊感。その中で愛しい人の声が聞こえてきた。悲しそうな、寂しい、寂しい声が。



美夜「猛...やっと、...やっと、届いたっ!!」


......。


猛「うわぁぁぁ!!!!!」



猛はけたたましい叫び声をあげて飛び起きた。

外から目がくらむくらいの眩しい朝日が部屋の中を穏やかな温もりで満たしていた。悪夢のような体験。現実だったのか、それとも夢だったのか。ベッドは何事もなかったように潔白だった。



猛は自分の手を見る。赤くない。何もついてない。臭いもない。赤くない。赤くない。赤くない。赤くない。赤い。赤くない。

一瞬、猛は彼女の血で染まっていた手を思い出す。



猛「うっ!!」



猛は昨日の夜に食べたものを吐き出す。



猛「おぇぇ!(なんなんだよ。なんで俺だけこんな目に、こんな目に会うくらいなら、生まれて来たくなかった。美夜に出会わなきゃ良かった。美夜に出会ってなければ、愛していなければ。......何故、今美夜に会わなきゃなんて思ったんだ?美夜に会ってなかったら、どうなんだ。もう...訳わかんねぇよ…。)」



焦ってナースコールを押した。猛は明らかに混乱している。亡き今でも想い続けてる人に出会わなければ、あの女にも出会わなかったのか、疑問が疑念を呼び、猛の根本を揺るがそうとしていた。



猛「はぁ...はぁ...」



看護師「坂本くん!大丈夫!!?どうしたの!?」



猛「す、すみません...急に気持ち悪くなって、堪えきれなくて...」



看護師「大丈夫よ!すぐに片付けるから、身体は大丈夫??とりあえず立てる?シャワー浴びに行きましょう!」



猛は看護師に連れられ、院内のシャワー室に連れていかれた。幸い、吐き気も収まり、とりあえずシャワーを浴びる。温かいお湯が身体をキレイにして行く。一瞬身体に液体を浴びることに、恐怖を感じたがそれもお湯のおかげでの直ぐに収まった。



猛「(忘れたい。何もかも。忘れさせてくれるなら…安心出来るなら、もう誰でも…)」



何がそうさせたのかは分からないが、猛は美夜との思い出を忘れることが出来たら、あの女のことも考えずに済む、わすられる気がする。なら誰でもいい。自分を求めてくれる人がいるなら、その人に身を任せたい。そう思っていた。猛の中で美夜が死んでからずっと抑えつけてきたなにかが、猛を変えようとしていた。

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