重ねるぬくもり。
ベッドに転がされた私を見下ろす彼女の、二つの細い瞳が怪しげに光る。逆光で表情は読めないけれど、にんまりとした笑みが張り付いてることがわかる。
「ねぇ、はるねぇ」
「な、何、千秋……っ」
何故かって、それは、……その彼女は、私の妹だから。生まれてからこれまでの十何年間の時間を、ずっとそばで見てきたんだから。
「……今日は、いっぱい甘えさせて?」
体を支えてた千秋の手が、私の手に触れる。そのまま、指を絡ませて、きっと、もう離さないって意味。あまりにも身勝手で、それでも私を傷つけないように腕には力を入れないでいる。
「どうしたの?もう……っ」
お姉ちゃんぶろうとしたって、そんなのはただの虚勢に過ぎないって、自分が一番わかってる。
「そんなの、はるねぇが一番分かってるでしょ?」
じっとりと濡れた千秋の手のひらから伝わる熱。私のことを欲しがってることが、心臓が痛くなるくらいわかる。
ちっちゃいときは、素直で甘えんぼで、かわいかったのにな。どこに行くにも、お姉ちゃんって呼びながら付いてきてたっけ。
でも、年を重ねていくにつれて、二人がいつの間にか抱えてた気持ちも膨らんでいて、ただの『姉妹』には、もう戻れない関係になったせいなのかもしれない。生意気になって、意地悪になっていったのは。心の根っこが変わってないことは、知っているつもりでいるのに。
「千秋ってば、ずるい」
唇を尖らせて、目線を逸らす。真正面から刺してくるような目線に、今は耐えられそうにない。
私、お姉ちゃんなのに、五年も長く生きてるのに、妹に振り回されてばかり。その些細なとげすら、見透かされてるみたいに。
「拗ねてるはるねぇも、かわいいよ」
「変なこと言わないでよ、千秋……っ」
今の、押し倒されてる状況とは別に、胸の奥の鼓動が早くなっていく。顔を寄せられて、キスされる寸前の情景が、ふと頭に浮かぶ。不思議そうに見つめる顔が、今はよく見える。
「言っちゃだめなの?千春お姉ちゃん」
「べ、別にそういうんじゃないけど……っ」
もう駄目、逃げられないよ、ここから逃げるには、嫌いになるのには、私も、千秋のことが好きすぎているから。
「ふふ、やっぱりかわいいな、はるねぇは。……好き」
「千秋?な、なに言って、んん……っ!?」
有無を言わせずに落とされる口づけに、重なり合う微かな音と、早くなっていく二つの吐息。私には、そこから逃れる術なんてなくて、ただそれに応えるだけ。繋ぎあった手から、唇から、とめどなく伝わる気持ちに、乱されて、溶かされて。
「二人で、溶けちゃおっか、一緒に」
こうなったら、千秋はもう止められなくて、私ももう、千秋に逆らえない。私たちの『好き』は、際限なく溢れて、……きっと、これから、二人だけの長い長い夜がやってくる。