俺はそーいうのが大っ嫌いなんだ!
――プルプレアは先ず、冒険者登録をする為に、ギルドと呼ばれる施設と魔導書と呼ばれる本を売っている店を目指した。
魔導書とは、このゲームで使うことのできる魔法スキルを習得できるアイテムだ。
ただ、売られている魔法は初級魔法と言われる基本となる魔法だけである。
しかし、プルプレアが目的とするモノを獲得するにはどうしても必要なのだ。
そして、それは早い者勝ちと言った要素がある為、それを知っているプルプレアは全速力で目的の為に走る事にした。
あと、プルプレアは人嫌いと人見知りをこじらせてるので、ギルドが参加者で混む前にどうしても済ませたい、といった思いもある。
プルプレアは、ギルドと店に向かう道すがら、視界から過ぎ去っていく石造りの町並み……中世期の西洋を彷彿させる建築物の数々を堪能したかった。
(くぅぅ! まさに夢にまで見たファンタジーの世界! だけど今我慢!)
それらを横目で見つつ、目的を是が非でも達成したいが為にプルプレアは石畳の上を駆ける。
それからしばらく走ったところで、第一目標である本が売っている店見つけると勢いそのままに駆け込み、それを手早く購入する。
そして、すぐさま店を飛び出した事でそれは起きた。あるいは《《旗》》が立ったと言えばいいだろうか。
プルプレアの体に、想定外の衝撃が伝わり転びそうになるがぐっと堪えて、体勢を整える。
「――いったぁ……くわないけど。なに?」
と一拍おいて、若いなと思う何かが聞こえ、同時に、やっぱああいうのはスカートを穿いてる時が一番輝くな、でもあれが自分だったらと考えるなら遠慮したいが、とつい考えそうな(プルプレア主観)何かが見えたが、時間がもったいないと判断して『何も聞こえてないし、何も見てない。ただ転びそうになっただけ』と思考(事実)を自分の都合よくを塗り替え、目的地へ駆け出そうとしたのだが――。
「ちょっと!! あんた!? ぶつかっておいて無視する気なの!!」
立ち去ろうとするプルプレアの腕を掴む『何か』。
それでも、肯定する道しかないか? と模索するプルプレア。
肯定もなにも横目でちゃんと状況把握しておきながら『気が付かなかった』を免罪符に走り去ろうとしといて、これである。
プルプレアの拗らせた人嫌いと人見知り結果とも言えよう。
舌打ちしそうになるが、そこは我慢して横目に映る《《きゃんきゃん喚く『何か』》》に顔だけ向ける。
(くそっ。テンプレ通りのセリフ吐きやがって……めんどくさい!)
「聞いてんの!? あんた!」
「……聞こえてるし、聞きもしてる」
忌々しそうな表情と声色で答えるプルプレア。
『何か』――いや彼女は、プルプレアの態度と言動に目をさらに吊り上げ、声を張り上げる。
「なんなの!? その態度と言い方! てか、ちゃんとこっち見なさいよ!」
と声をさらに張り上げ、彼女はプルプレアの腕を無理矢理に引っ張って自分と向き合う形にする。
そして、されるがままに体を動かされるプルプレア。
見上げ、見下げて睨み合う二人の姿に周囲の目が集まる。
真っ赤な髪を後ろで束ねた髪型に、怒りの度合いを表すように青く揺れる虹彩。
常時でも気が強そう、または高飛車と思わせるであろう目を吊り上げ睨む女性は、見る人によっては『美少女』に見えるだろう。
片や、腰までありそうな長い真っすぐな銀髪を垂らして、面倒、怠い、不愉快といった感情を隠さず、顔に浮かべて金色の瞳で睨む女性。中身を知らなければ美女か美少女で討論となるだろう。
ちなみにプルプレアは面倒、怠い、不愉快といった感情を隠していないだけで睨んではいない。ただ見てるだけだ。目つきが悪いだけである
そんな、十分に目立つ二人である。目だけではなく人も集まり出だす。
「なあ? 何かのイベか?」「さぁ? でもイベっぽいよな」「お? 突発イベか? おい?どっちがいい? 俺は赤だな。銀は見た目は文句ねぇが、目がやべぇ」「ああ? 無論、赤だな。 銀はありゃ目がダメなやつだ。あれさえ隠してくれればイケる」「見て見て! なんかイベントらしいよ! あとイケメン美少女いるよ!?」「え? 美女じゃないの? てか目つきヤバくない?」などと言った声も聞こえ始める。
何度も言うようだが、プルプレアは常時、目つきが悪いだけだ。まだヤバくない。
(うるせぇ。イベじゃねぇよ! あと俺の愛くるしい目を……顔覚えたからな特に隠せばどうのっていった野郎。……ったくそれより、どこのラングレー家のお嬢さんだよこいつは。大丈夫か? キャラ設定? だがまぁ、ポニーで横に髪を残してるのはポイントが高い、ここであのお嬢さんみたいな髪型だったらぶん殴ってるな。あとは……小柄で真っ赤な髪に青い目……うーん68点かな)
と周囲に悪態をつきつつ、目の前の彼女を独断と偏見で評価するプルプレア。大きなお世話である。
一方、68点と評価された彼女は――。
「どーすんのよこれ!?」
と周囲にできた人だかりについてプルプレアに問い詰めるが、当の本人は……。
(ラングレー家で思い出したが、どちらを嫁にするか同志と討論したな……嫁にするなら俺はイラストリアス家のお嬢さんなんだが……だが真の嫁は第一級神二種非限定の彼女だな。なんど彼女の旦那と入れ替わりたいと思った事か……が彼だからこそ、彼女は真の嫁なのだと思うな。とすれば、旦那にするなら彼と――)
と馬の耳に念仏状態で、自身の嫁と旦那は誰かという考察に没頭していたが、耳をつんざくキンキン声により引き戻される。
「――無視してんじゃないわよ!!」
「だぁーー! うるせぇ!! 喚くなメス犬!!」
「メス犬!? なんなの! さっ――」
「叫ぶな! 吠えるな!! ……でなんだ?」
「なっ――……。まぁいいわ。よくないけどいいわ」
「どっちだよ」
「うるさい! そもそもあんたが素直に謝罪しとけば――」
「謝りゃいいのか? すまんな。見えなかったんだ。じゃ」
とおざなりであんまり態度を貫いたプルプレアはとっととギルトを目指そうとするが、彼女はプルプレアの腕を放そうとはしなかった。
「待ちなさい! それで謝ったつもりなの!?」
と怒り心頭といった表情の彼女。
「そのつもりだが?」
と尚も、おざなりに返すプルプレア。
それを聞いた彼女の表情が一変する。
先ほどは打って変わって微笑みが浮かぶが、目が笑っていない。
プルプレアは何となく嫌な予感を感じるが彼女はへー、と短く声に出してプルプレアの腕を放す。
すると彼女の前に掌ほどの|青白く透けて見える薄い板状のモノ《パネル》が浮かび上がる。
彼女は目の前に浮かび上がったそれに、手をかざすとそれは赤色に変わる。
プルプレアはその赤色のパネルを見て顔を引きつらせる。
その顔を見た彼女は満足そうに、にぃと口を弧にして――。
「これが何なのかは知ってるみたいね」
「通報する気か……」
「あら意外。ちゃんとチュートリアルは済ませてたのね。あんたみたいな奴ってああいうのはスキップしてそうなイメージなんだけど」
「馬鹿いうな! チュートリアルをスキップしていいのは二週目からだ」
「ふーん。まぁどーでもいいけど。あとはこれに触れるだけで、この町の衛兵全員に群がれる事になるんだけど……どーする? 少しは誠心誠意ってのを見せるに気にはなったぁ? それともエネミープレイヤーに憧れてたりするの? もし、そうならすぐにでも手伝うけど」
プルプレアは、そう捲し立てる彼女を苦虫を噛み潰したような顔で睨んで舌打ちをする。
彼女はその表情みて、思わず少し後ずさり、それから舌打ちを聞いて小さく体が震わせる。
ちなみにだが、プルプレアはリアル――現実ではこういった表情や態度はとらない。
心の中ではいろいろ思うがそれを一切漏らす事無く、その場で最善の行動をとる。
事務的にではあるが空気を読んだり、顔色を窺ったりはするのだ。
だが、それらを自分の愛する世界に持ち込みたくない為、ゲームの中では一切そういった行動をしないと決めている。
しかし、何がどうあれ自分に非がある事は事実で、それを目的の為におざなりにした自覚もある。
ましてや、エネミープレイヤーになって、どこぞの妹の為に世界を壊して作り替えた仮面の王様になる気は今のところない。憧れはするが……。
しかし、プルプレアが真になりたいのは、愛して憧れ続ける天才美少女魔道士なのだ。もしくは全力全開の魔法少女である。
故に、画面の向こう側に並々ならぬ愛を捧ぐプルプレアの思考内天秤が傾きを変える。
優先事項は『早急にギルドに向かう事』そして、その中で最優先なのが『早急に』だ。よってプルプレアは彼女に要求通りに謝罪して、『早急に』この場を去る事にした。勿論、自分に非がある事を認めて、である。
「わかった。悪かった、ぶつかって。だが急いでいるのは本当なんだ」
「……そう。まぁわかったわ」
言い方はどうあれプルプレアの雰囲気が変わったのを感じた彼女はとりあえず謝罪を受け入れる事にした。
「じゃ、早くその通報を消してくれ。動くに動けん」
「あんたね……」
雰囲気は変わったが、態度は変わらないプルプレアに怒りを忘れて呆れる彼女。
そこでふと彼女はプルプレアの姿が気になり、じっと見つめその姿を観察する。
じーっと見つめる彼女は何かに気付き、そして何か思いついたような表情する。
プルプレアはその表情見て、またもや嫌な予感を感じ怪訝そうな表情を浮かべる。
「なんだ、その顔は?」
「え? 顔に出てた?」
「アバターだからな。リアルよりも心情ってのが顔に出やすいんだよ」
「へーそうなんだ」
「ライセンス取る時に習ったろ?」
「そ、そんなことはどーでもいいのよ! それよりこれ取り消してほしかったら私の『お願い』を聞きなさい」
「てめぇ……」
そう言われたプルプレアの気配と言葉に若干剣呑さが混じる。
「なによ! 被害者として当然の権利だわ! そうでしょ? 加害者さん」
そして、彼女は自分の優位性が絶対的であると思い込んで、調子に乗った結果を代金に、プルプレアの怒りを買うことになる。
ただでさえ、普段から目つきの悪いプルプレアが怒り覚えた結果、軽く洒落にならない目つきとなりそして、彼女に近づき、顔を――。
「なによ! そんな風に凄んで――ヒッ」
調子に乗った彼女はプルプレアが近づけてきた事に気付き、睨み返そうとしてその顔をまともに見た瞬間、言いかけた言葉を思わず飲み込んだ。そして続く言葉の代わりに、喉から小さな悲鳴を漏らす事になった。
プルプレアはそんな彼女を無視して、視界全てにその顔が映ったところで、語り掛ける。
「おい……調子に乗るなよ。それはもう脅迫だからな。オレはそーいうのが大っ嫌いなんだ。周りをよく見ずに飛び出したオレが悪いと思ったから謝ったんだ。それを何を勘違いした知らんが! そんな戯言でてめぇに命令されるぐらいなら、目的を諦めてエネミープレイヤーになった方がまだマシだ! ……稼働したばっかで、ここにいる全員を手当たり次第にやれば簡単に成れそうだしなぁ。手伝ってくれるんだろ? ……さぁ覚悟が出来たなら、オレの引き金を引いてみろ!」
それからゆっくりと彼女から顔を放して、赤いパネルを指さしたプルプレア。
が、勢いよく啖呵を切ったのはいいが、内心は冷や汗が止まらないといった感じだった。
(やっべっ!! ついイラッとしてやらかした!! どうすんだよホントに衛兵呼ばれたら!! でも一度は言ってみたいセリフを言えたのは気持ちがよかったな!)
余裕がなるのかないのか、判断に困る内心であった。
だが、話はプルプレアの望む形に動く。
「――……じょ……冗談よ! ま、真に受けないでよね!」
視界を覆いつくしたプルプレアのヤバい目つきに、ビビった彼女はすぐさま前言を撤回し、通報を取り消す。ビビりながらも軽口を叩いたのは彼女の自尊心の高さ故だろう。
赤いパネルが消えた事を確認し、ほっとするプルプレアは自分が急いでいる事を思い出し、今度こそ、この場を後にしようと駆け出そうとするが――。
「まって! お願いがあるの!?」
とまたもや彼女に腕を掴まれるのであった。