表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

私は帰ってきた!


 本日、正式稼働したVRMMORPG『different』


 最新のVR技術を搭載したこのゲームは、ゲーム内――仮想空間内で用意された体、アバターと呼ばれる仮想体に意識を移し、思いのまま行動できる。

 ゲーム内でアバターの体感設定を調節することで、五感全て感じる事も可能だ。

 痛みに関しては基本感じる事はないが、攻撃判定されたモノに関してはなんとなく痛いかな? と思う程度である。

 使用するアバターも変更できる。声、性別、姿に関しても思いのままに変更できるが、ゲーム内であらかじめ用意されている以外のアバターを使用する際は、予め審査を受けなければならない。


 

 他にも様々な要素があるが、このゲーム『different』が参加者プレイヤーに与えた自由度はかなり高い。

 しかし、ゲームである以上、決められたレール、物語も存在する。

 勿論、ルールだってある。

 だが、レールに乗るか、乗らないかは参加者プレイヤー次第。

 世界である以上、秩序も存在する。

 守るか壊すかも参加者プレイヤー次第。

 ただ、破るも壊すもそれ相応の覚悟が必要になる。


 幻想的ファンタジーであり、現実的リアルでもある。

 どちらを求めるか、はたまた、どちらも求めるか、これもまた参加者プレイヤー次第だ。 

 と言った感じの謳い文句で正式稼働前から多くのゲームファンから注目されていた。


 そんなゲームファンの一人でもある彼、あるいは彼女はたった今、このゲーム『different』のチュートリアルを終えた。


 そして、大のゲーム好きでファンタジー世界をこよなく愛す彼、あるいは彼女、もとい大馬鹿野郎は、思いの丈をぶちまけながら、光の先へと向かって叫び、駆け出した。


「俺は魔道士王になる!!」


 ちなみにだが、このゲームに魔導士は存在するが、魔道士王というのは存在しない。



 ――リンダル中央広場。



「――私は帰ってきた!!」


 目に映る風景に感動して、声を張り上げる人物――この世界での名はプルプレア。

 帰ってきたもなにも、このゲームは今日――厳密に言えば先程――正式稼働したばかりだろ、と周囲から伝わってくるが、プルプレアの場合はある意味帰ってきた、と言えるだろう。

 プルプレアは、正式稼働前に行われたβテストに参加していたからだ。

 だが、その時に入手した装備やアイテム、スキルやアビリティなどは全て消去されている。これはプルプレアだけでなく、βテスト参加者全員だ。勿論、所持金もだ。

 故にプルプレアの全財産は、新規プレイヤーとなかよく1000でお揃いだ。


 引継ぎができたのはβテスト時にフレンド登録したプレイヤーか、己の脳みそに蓄積された記憶だけ。

 なので、今のプルプレアの姿を見ても周囲にいる人たちは、プルプレアがβテストプレイヤーだったとは思わないだろう。

 思うとすれば、自分たちと同じ――良くて新規プレイヤーか、悪くて言動が痛いプレイヤーかの、どちらかだ。

 ちなみにプルプレアの知り合いは一切いない。フレンドリストもまっさらだ。

 プルプレアは孤高なソロプレイヤー(笑)なのだ。


 では、そんな孤高なソロプレイヤー(笑)の風貌はというと――。


 身長は成人男性の平均身長より高く感じる。

 むしろ高いだろう。 

 髪は色素の無い白髪だが、日のひかりを浴び、煌めかせる様は、まさに白銀糸の如く。そして、目は大きく、やや鋭い。虹彩の色は金色で猫の目を彷彿させる。

 だが目つきが悪いので愛玩的ではなく、捕食的。


 中性的だが女性よりだと感じる顔立ち。

 人形のように整ってる所為で人間味があまり感じられない。

 美人または美少女ではあるが、如何せん目つきが悪い。なので近寄りがたい。

 声を張り上げると同時に張った胸は、大きすぎ小さすぎと言った感じでプルプレア曰く、DよりのCで理想の大きさ。

 そんな理想の体を覆ているのは質素な皮鎧。足にはブーツ。

 こういったゲームやアニメ、漫画に馴染のある人にわかりやすく表現するならば、『駆け出しの冒険者姿』これで伝わるだろう。……顔から下を見ればであるが。






 嬉しくてたまらないプルプレアはその思いをぶちまける様に、体を使って表現していた。

 前屈みになり頭を振って髪を振り乱す様は、傍から見ればちょっとした事案である。

 現に周囲にいるプルプレアと同じ格好の人たちが遠巻きに、何事かと言った風に視線を向けている。

 だが、彼女はそんな視線に怯むことなく金色の目を爛々と輝かせ、空に向かって拳を突き上げる。

 そして、また声を張り上げる。


「我が人――いや、まだ始まったばっかだよ。あぶねー。いきなり終わせるとこだった」


 女性にしては少し低いかな、と思うが、それが妙に色っぽい感じる声色が周囲に響き渡る。

 え? と驚く人。

 うんうん、わかるよ! そしてよく思いとどまった! と頷く人。

 頷いてる人たちはプルプレアと同じように夢を見続けた部類だろう。

 彼ら、彼女らもこの世界に降り立ったばかりの参加者プレイヤーたちだ。

 気持ちはわかるがなにもそこで……といった感じでプルプレアに生暖かい視線を送る。


 


 ――そんな若干イタい『プルプレア』の冒険劇(喜劇)は奇行と奇声で幕を上げた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ