仮面の殺人鬼に女性が次々殺されて
朝霧が煙る、木のアーチに囲まれた坂道。高羽はうっすら汗をかきながら登る。すると向こうに見えてくる、真新しい鳥居。
「まだ残ってたんだ……」
もしかしたら、いや、ほとんど、もう無いだろうと思ってきた。落ち込んでいた自分を助けるため、一時的に現れた救いの鳥居。そう思っていたけれど、諦めが付かなくてきてしまった。スクールバッグを持ち、行ってきますと言って出てきた。
高羽は鳥居を、もう恐れることなくくぐる。
「変な感じするな」
浮くような、重力が少し軽減されたみたいな感覚。明らかに異世界と分かる。
「夢の世界、って感じもするな。感覚鈍いし」
地面を踏み抜いている感覚が薄い。
高羽はそのまま、適当に歩いた。ピンクの空。浮かぶシャボン玉。ふわふわした感覚。
「建物はっけーん」
指を指した先に、不思議の国のアリスを想像させる、ちぐはぐな形の屋根や扉が着いた家を見つける。童話みたいなカラーリングの家だ。
「家って言うか、小屋っていうか」
おそらくワンルーム。高羽はその小さな家に近づく。
「異世界って感じするなあ」
家の横手の窓から中を覗く。
「ちょいと失礼……」
カーテンなど無く、でんと中が見える。
「ぎゃああ」
突然の悲鳴に高羽は肩を跳ね上がらせる。家の中からだ。家の中は、よりアリスの世界観を体現していた。しかし、そこに似つかわしくない仮面を被りシルクハットを被った黒いスーツの男がいるのだ。体型から男だと分かった。そして目の前に、女が並ばされている。立っているのは二人だけ。隣の一人が今崩れ落ちた。それより向こうは全員、血を流して倒れている。
「殺人鬼……」
明らかに順番に殺して言っている。次の番が来た女は、可哀想に震えすぎてむしろ止まっているように見える。
「あの子だけ子供だ。可哀想に。……よし、いっちょ助けますか!」
震えている女の隣。一番高羽のいる窓に近い方にいる女の子だけ、子供に見える。高羽は、腕を組んで考える。
そういえばば小学校の時に先生言ってたな。不審者を見つけたら叫べって。
そのとき、女の子がこちらを向いた。目が、助かった! と言っている。
なんとかなるぜ、俺!
高羽は思いきり息を吸う。肺が膨らみ、少し天を仰ぐ格好になる。
「誰かあ! 人殺しだあ! 助けてくれええええええ!」
思ったより木霊する声。
仮面男が扉から飛び出してくる。黒スーツを翻し、包丁を高羽に向けている。高羽は走って家に沿って逃げる。後ろから仮面男が追ってくる足音。全力で家の周りを追いかけっこ。
「うわあ! やっちまった!」
仮面男はフェイントを掛けたのだ。目の前に突然、仮面男が現れる。高羽はきびすを返し、反対に逃げる。中の女性が逃げて行くのが見える。
女の子は逃げただろうか。
高羽が入り口の前を走りすぎたとき、中にまだ女の子が座り込んでいるのが見えた。
いや、あんたが助からなきゃ意味ないだろ!
もう一週回って来たとき、高羽は思いきって中へ飛び込んだ。
「ほらっ!」
女の子に肩を貸す。高羽に体重を預けながら、立ちがる女の子。入り口から、当たり前だが仮面男が入ってくる。女の子に向かって一直線に包丁が向けられている。女の子の腰に手を回し、ぐいと引き寄せる。体重を傾け、包丁をひらりと躱す。入り口から飛び出す二人。
「大丈夫かー! こっちだ!」
「おーいお前ら、あっちにいるぞー!」
人が集まってくる。高羽たちを指さして駆け寄ってくる。
「あっ! 逃げたぞ! 追え!」
振り返ると、仮面男は森の方へ逃げ去っていた。それを何人かの男たちが追っていく。
「ありがとう!」
女の子は高羽に抱きつく。ぎゅうと抱きしめられる感触。女の子はやっと高羽を離す。
「名前を教えて! 私は飯間由花!」
「俺は高羽章夫。よろしくね由花ちゃん」
「よろしくね高羽君!」
ありゃ。
「警察とか来ないの」
「警察? 何それ」
警察という概念がない世界なのだと理解した。
「いや、ないならいいや」
「どの辺に住んでるの?」
由花は底なしの好奇心で聞いてくる。
「あっちに鳥居があってね、その向こう」
「神社の人?」
「いいや。ちょっと見てみる? すぐそこだから」
高羽と由花は手をつなぎ、鳥居の所まで来る。由花から手を伸ばしてきたのだ。
「わあ、鳥居だけある! えっ? なにこれ……通れないよ」
由花の体は、鳥居に透明なガラスでも張ってあるかの様にはじかれる。
「嘘だろ! あれ? 俺は通れる」
思い切り肩から体当たりしようとした高羽はぽんっと元の世界に飛び出した。もう一度異世界へ入る
。
「こっちの人は通れないのかもね。高羽さんって、もしかして違う世界から来たんじゃない」
「そうだね。異世界から来たんだと思うよ。僕からしたらこっちが異世界だけど」
「そうね。困ったら言って。こっちの世界は私が紹介するよ」
由花はにこっと微笑む。
「んーじゃあ、俺学校サボってきたんだ。なんか遊べそうな所ない?」
「そうね。じゃあ良いところあるから行こ!」
由花は高羽の腕を引いて先を歩く。ふわふわとした世界。ふわふわと浮かぶ、幸せな感情。由花は先ほどまで捕らえられていたというのに、屁にも思ってないようだ。異世界、不思議だなと高羽は思うのであった。由花も、幻影のようなものに思えた。
はい、初殺人鬼です! 夢に出てきました。私が由花ちゃんの立ち位置に立っていて。ホント怖かったんですから! その怖さが伝え切れていない気もしますが、次回お楽しみに!




