鳥居を越えて異世界へ 1
木々が生い茂った道は、月明かりが少しだけ足下を照らす。高羽はうっすらと汗をかきながら、ゆるい坂道を上り続ける。
確かこっちには、神社があるはず。
家を追い出された高羽に行く当てはない。神社の軒下で休憩しよう。そう思ったのだ。
高羽は歩みを進める。土の地面は、木の根っこが時々邪魔をする。そうして歩き続けた道は、突然開ける。普段は。
「この鳥居は!」
神社に繋がるはずの道。目の前に鳥居が立っているのだ。あるはずがない。結構前の台風で、倒れて回収されたはずだ。それなのに、綺麗な鳥居が立っている。しかも、鳥居の向こう側に、明るい世界が広がっているのだ。今は夜。全く違う世界が、鳥居の向こうに広がっている。
噂通りだ。
高羽は息をのむ。
噂。それはまことしやかにささやかれているもので、突然鳥居が現れる。そしてその向こうは異世界に広がっているというものだ。
一度で良いから行ってみたい。高羽はそう思っていた。この世界は、高羽にとっては少し息苦しい。なぜか分からない理由で良く叱られる。昔から。
「あっちの世界の方が良い……」
高羽は、ふらりと足を進める。少しずつ、鳥居に向かっていく。そして、とうとう。
鳥居を越えた。
その、少しだけ体が軽くなったのを感じる。きらきらした靄がかかっている。まるで、夢の中を歩いているよう。頭がぼんやりとしているが、心は踊っている。
「どういう仕組みなんだろう」
高羽は後ろを振り向く。ちょうど鳥居の向こうだけ、元の暗い世界が広がっている。
鳥居をくぐる。突然地に足が着いた気分になる。鳥居の脇を通りすぎ、後ろ側から鳥居を見る。やはり、異世界へ繋がっている。そしてやはり、ちゃんと神社は建っている。今にも崩れそうな廃墟ではあるが。
高羽は迷う。当初の目的は、神社で寝ることだ。けれど、また見られるとは限らない異世界が目の前にある。
「よし、あっちの世界を探索するぞ!」
高羽は勢いよく鳥居をくぐる。体が軽くなり、心が澄んでいくようであった。
勢いをつけて異世界に来たものの。
「大丈夫かな……」
初めて見る世界で、高羽は一人。心細くなる。
「あっ、あそこ街灯がある」
元の世界にもあったものが、少しずつ現れる。それは、高羽の心細さを救った。
明るい音楽と、ふわふわ漂うきらきらしたもの。高羽の心もふわふわ。体もふわふわ。心地よい。帰りたくない。
「建物発見!」
高羽の重力が少しずつもとの世界と同じくらいになる。そして、建物が現れたのだ。廃墟。崩れそうな、二階建てのビル。ただ、あの神社よりは原型をとどめている。
「建物あるんだ、入ってみよ」
あの神社で寝泊まりしようとする高羽だ。特にためらいもなく、廃墟と化したビルに向かった。
二階建てのビルの中はいっそう廃墟。割れた窓に、破れたカーテン。取り残された備品たち。高羽はゴミたちにつまづかないよう、足を高く上げて歩く。
そこで高羽は、ゴミの一部だと思っていたものが、人であると気づく。高羽はこのとき、そう、このときに限って思い出したことがある。それは、高羽が前々より胸の内に抱えていたもの。
人を、殺してみたい。
何度も、頭の中ではシミュレーションした。けれど、現代日本には殺人罪という物がある。そのため高羽も行おうとはしなかった。しかしここは? ここは異世界なのだろうか。つまり問題は、ここで行ったことには殺人罪が適応されないのではないか、ということだ。
「異世界だし、大丈夫だろ」
このとき高羽は、人間としての一線を越えた。
作者は夢に見た物を脚色して書いていますが、怖い話を書くと怖い夢を見るので、これからもエンドレスでこのシリーズが書けそうです。
次回はとうとう浮浪者をいたぶります。いかにいたぶるのか!? 次回をお楽しみに!