突然白鳥を捕まえたくなる 3
高羽が狙っているのは、深夜零時頃。確実に白鳥を見に来ている者はいない時間だろう。それに、それ以降だと高羽が起きていられない。
零時少し前。高羽は立ち上がる。釣り竿を持って外へ出る。外は静寂の音がするほど静か。舗装された道路から、河川敷を駆け下りる。白鳥は、川の中州に止まっている。羽を折りたたみ首が折り曲げられているその姿から推測するに、眠っているようだ。
高羽は釣り竿を取り出す。冷たい風が吹き付ける。これから行うことに、高羽は多少興奮していた。
川は丘よりも風が強い。月明かりだけが照らす河川敷に、高羽は立っている。
高羽は釣り竿を伸ばす。釣り糸も伸ばしきると、釣り竿を振りかぶる。
一度ミスったら、場所を変えられるぞ。
白鳥が飛んで別の所に移ったら、また狙いを定め直さなければいけない。高羽は慎重に狙いを定める。そして、釣り竿を振り下ろす。
ぽちゃん。
釣り針は白鳥から遙か一メートルほど離れたところに風にあおられて飛んでいった。もう一度。いや、今度こそ。なんど投げても、掠ったり、場所を移られたり。救いは、何度釣り針がぶつかっても、白鳥は場所を少し移るだけで、再び中州に止まることだ。そして白鳥は眠る。
諦めようかな。
高羽はすっかり諦めムードだ。
いや、母さんを喜ばせるためだ!
白鳥を捕ってきたら見せよう。外出したことは怒られるかもしれないけど、白鳥を捕ってきたことは喜ぶぞ。
高羽は自分を奮い立たせる。誰かのためにやるって楽しい。冷たい風が、なんだか追い風のように感じられた。
一時間は経ったろうか。高羽が何度釣り竿を投げても、白鳥には当たらない。高羽が諦め駆けたそのとき。今回も外した、と思った釣り針が、風にあおられて白鳥に軌道修正。
「よっしゃあ!」
白鳥の横っ腹に深く針が刺さる。そのまま引き上げる高羽。白鳥はばたばたと暴れるが、針は深く刺さっているようで外れない。高羽は白鳥を抱きかかえる。しかし、抑えきれないほど暴れる白鳥。
「くそっ! もうちょっと弱らせないと」
高羽は、白鳥の細長い首を釣り糸で絞める。ぎりぎりと食い込む。首がちぎれそうだ。
ぎえっ! きい! きいきい!
聞いたことのない鳴き声が白鳥から聞こえる。そして、ずっと首を絞めていると突然、すっと大人しくなる。
これでよし。
高羽は釣り竿を抱え、もう片方の手に白鳥を抱えて家路に着いた。飛び跳ねたいくらい嬉しい。すがすがしい風が高羽に吹いた。
ピンポーン。チャイムを押し、高羽は親が出てくるのを待つ。扉は開いているのだが、これでまず親を起こしたい。
「なあに、え! いつの間に外に出てたの!」
甲高い声で叱る母親。だけど、これを見たら喜ぶぞ。
「見て母さん、これ! 白鳥! 鍋にしてよ。美味しいかな!」
高羽はぐったりとした白鳥を差し出す。
「いやああああ」
喜ぶと思った母親は一転、悲鳴を上げる。家の中から足音が近づいてくる。父親だ。
「どうしたんだ! 章夫! お前がやったのか」
「そうだけど」
厳しい顔の父親に対し、高羽は困惑の表情だ。
なぜ母さんは、喜んでくれない?
「これは犯罪だ。お前は犯罪者だ! そんな奴家には入れられない!」
父親はそう言ってドアをぴしゃりと閉める。家の中から、どたどたと足を踏みならす父親の足音が聞こえ去る。
「何で……」
高羽は頭を垂れる。そしてそのまま、寒い外を行く当てもなく歩いた。
くそっ! 何でだ! くそ! 喜べよ!
高羽のショックは大きい。地団駄を踏みたい。
少しずつ舗装された道路は細くなり、坂道は急になってくる。街灯の数が少しずつ減ってくる。
そして高羽は、とうとう神社へ続く道を上ってしまうのであった。
「突然白鳥を捕まえたくなる」は今回で終了となります。次回は鳥居をくぐります! ぜひお楽しみに!