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突然白鳥を捕まえたくなる 1

 春うららかな今日この頃。教室に差し込む日差しは柔らかく、午後ともなると眠気を誘う。帰りのホームルームが終わっても少年、高羽章夫は机に突っ伏してまどろんでいる。そこに近づく足音。


「白鳥が出たらしいぞ! 見に行こうぜ!」


 そう言ったのは、高羽の友達である。彼について特筆することはない。

 白鳥については説明しておこう。今朝、近くの川に一匹の白鳥が迷い込んできたと話題になっているのだ。もちろん普段は白鳥が来ることはなく、現在川には住民たちが集まっているらしい。


「見に行こうか」


 そう言って高羽はゆっくりと立ち上がった。

 歩いて数十分のところに川はある。高校生の体力では、息も切れない程の距離だ。


「人多いなー」


 遠くからも人混みが見え、友人は片手を額にかざしながら言う。人の隙間を縫い、川沿いの欄干まで行く。


「すげえ」


 高羽は声を漏らす。白鳥の、なんと翼の大きいことか。なんと優雅な姿であろうか。真っ白な翼を閉じ、凜とたたずむその姿。高羽は他の人々と同様、欄干から身を乗り出して白鳥を見る。


「な! な! 来て良かっただろ!」


 友人は欄干に身を乗り出しながら高羽に言う。

 一方高羽は、白鳥に集中していて話しかけには応じない。そのとき高羽が考えていたことは。

 母さんにあげたら喜ぶだろうな。

 高羽は白鳥をうっとりと眺める。白鳥を母親にプレゼントしたい。そんな高羽の心境を理解するには、高羽の過去を振り返るのが一番であろう。






 夏の日差しが熱い頃。小学生の高羽は、半袖短パン姿で近所を走り回っていた。近所に友達はいないが、一人で遊ぶことに寂しさは感じていなかった。元気に歩道を歩いていると、低い街路樹にトンボが止まっている。


 よし! 捕まえてやる!


 高羽少年はトンボの後方からゆっくりと忍び寄る。足音を殺して、空気を揺らさないように。そしてトンボまであと少しというところに手をスタンバイして――――勢いよく羽を押さえつける。片方の羽を押さえつけられたトンボはばたばたと体を暴れさせる。


 このトンボ、どうしようかな……


 少し思案すると、高羽少年の中に少々残酷な考えが浮かぶ。それは、トンボは羽をもがれても動く。という同じクラスの中でこっそりと話題になった話しだ。

 しかし高羽少年にかかると、それだけでは済まない。


 じゃあ、頭を取っても動くのかな!


 高羽少年は目を輝かせる。さっそく、トンボの頭を親指と人差し指で挟む。トンボは口を大きく開け、牙を突き立てて指に噛みつく。そしてとうとう、高羽少年はその無垢な心でトンボの頭を引きちぎる。トンボの頭は彼の指に噛みついたまま。

 一方のトンボの体を、高羽少年は地面にそっと置く。トンボのしっぽは生きていたときの様に海老反りに動き、羽をばたつかせる。飛ぼうと頑張りながら、前に進む。進む。

 高羽少年は頬を紅潮させ、鼻息を荒くしながらその様子を最後まで見守った。

 そして最後に残ったのは、高羽少年の指に食いついたままのトンボの頭。


 トンボの頭見せたら、お母さん驚くぞ。


 高羽少年は、トンボの頭を手の中に握りしめる。そして一直線に家へ帰った。

 家に着き、チャイムを押す。ドアが開くのを、少年は飛び跳ねながら待った。そしていよいよ、ドアが開かれる。


「おかえりー」


 笑顔で母親が迎える。高羽は笑顔で、何も言わずに握った手を差し出す。


「ん?」


 母親は手を出して受け取る。丸いそれを、顔を近づけて見る。


「なあに、これ」

「トンボの頭」

「いやあ!」


 母親は瞬時にそれを投げ捨て、手を払う。その後ガミガミと高羽少年が怒られたことは言うまでも無い。


 高羽少年は、思いついたら我慢ができない。それが多少、残酷なことであっても。



 なぜ白鳥なのか。それは、家の近所にホントに出たからです。

 トンボが頭をちぎっても動くかは、試していないため定かではありません。

 次回、高羽はいかにして白鳥を捕まえるのか、お楽しみに!


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