人殺し女とデパート攻防 2
高羽はあたりを見渡す。どこにもあの女はいない。
「おーい、高羽くん!」
「死んでないかー」
さっき皆が追い詰められていた方から、由花と葛谷が駆けてくる。後ろにはぞろぞろと、客たちが「怖かった」と言いながら散っていく
。
「ねえ、警察呼ばないの」
「なに?」
由花は聞き返す。聞こえなかったのだろうかと思って、大きな声でもう一度「警察!」と言う。
「ちょっとそれは知らないな。ね、葛谷さん」
「おう、わりいな」
この世界はおかしい。前からくすぶっていた考えが、纏まってくる。ここには、犯罪という概念がない。だから警察もいない。この世界は、まるで俺が生きたかった世界だ。
「この世界は……」
俺の、夢? 存在しない?
「おーい」
「いだだだ」
急に頬をつねってきたのは由花だ。
「……ってえ。痛いんだよなあ」
現実なのか、精巧な夢なのか。
「で、あいつどこ行ったんだ」
「ああ、見失った」
「事務所階じゃない?」
事務所階。最上階にある、職員専用の階だ。高羽は入り口の案内を見たのを思い出した。
エレベーターに乗ると、職員専用と書かれたたボタンを押す。重力を感じながら、三人はなんとなく動く階数表示を見上げていた。エレベーターが止まり、扉が開くと、さらに薄暗い廊下が延びていた。
「適当に扉開けてこう」
高羽はそう言って手近な扉を開け覗く。事務室のようだ。パソコンがいくつか並べられ、それに向かっている社員がいる。そしてOLたちが段ボールからはみ出した洋服を整理している。
「いるか……?」
後ろから葛谷が声を掛けてくる。
「……いる! いくぞ!」
高羽は飛び出す。人殺し女につかみかかり、押さえ込む。
「人殺しだ逃げろお!」
高羽は叫んだ。社員たちは何が何だか分かっていない様子で、ただただ逃げ出す。
さて、と高羽は考える。ここからどうすれば良いのか。このままこの暴れる女をずっと押さえてる? 殺す? いや、由花に嫌われそう。
「うごおおお」
人殺し女から、人とは思えない慟哭が聞こえる。どんどん力を増していく女。振り切られる。
「逃げろ!」
入り口に立ってる由花と葛谷に声がけた。女が入り口向かって突進しているからだ。しかし女はするりと通り過ぎ、そのまま走って行った。
「もう追わない……だって捕まえたところでどうしようもないし。ここから出よう」
「そうだね」
由花はにこっと笑っている。こんなに可愛いのに彼女はおかしい。この世界、全部おかしい。
「そして、俺はあっちに帰ろう……」
もとの世界に。
『マイクテス、マイクテス、あーあー、今すぐ一階広場に集まりなさい』
人殺し女の声だ。
「誰が行くかよ!」
一階へ降り、扉を思い切り押したり引いたりする。
「開かない!」
鍵でもかかっているようであった。
「かたを付けるしかないようだな」
高羽は息を心底うんざりしていた。
放送ではたくさん喋っていたのに、一言も話さない女。社員客全員集まっても少ししか人数がいない広場。
「そこの女。口から虫がわいて死ぬ」
女が指さした先のOLが、天を仰いで苦しみだす
。
「おえっ、おうえっ、おご……」
ぞろぞろぞろぞろ。大量の黒い物たちが口から這い出てくる。
「お前は心臓が止まって死ぬ」
逃げだそうとしていた男性客の背中を指さすと、客は走る勢いのままに倒れ込む。
「おいお前!」
高羽は女を指さして叫ぶ。
「お前、魔法が使えるのか!」
「ばか! 見ての通りだろがよ!」
慌てる葛谷。なんとか高羽の口を塞ごうとする。無言で高羽をロックオンする女。
「お前はなんでもできるけど、自分には魔法が掛けられないだろう」
「掛けられるわ。けれど掛けたら死ぬから自分には掛けないに決まってるでしょう!」
叫ぶ女。
「詭弁だ!」
高羽は自分でも何を言っているか分からない。ただ、まくし立てる。
「自分に掛けれる事を証明しない限り、お前の魔法は不完全だ!」
「それで、それで私は完璧になれるのね! 私をクビにしたこいつらと、面倒な客たちに証明できる!」
この女の、人間らしい部分を見た気がした。
「私は死ぬ。最高に派手にね!」
高羽の視界がホワイトアウトする。視界が戻ってきた頃には、他の全員が目をゆっくり開けていた。
「あれ、ほら……」
女がさっきまでいたところの床が人間の形に焦げ付いている。それだけ、女はもういない。
「よし、帰ろう!」
高羽は走り出した。もうこんな所こりごりだ。やめだやめ!
由花のことももうどうでもいい! 自分の命のほうが大事だもんな!
デパートを走り出て、町を走りすぎ、突然現れる鳥居に駆け込む。
「じゃあな! さいっこうに最悪な世界! 俺は改心したよ! もう二度と生き物は殺さない! だって――――周りにいる奴は心底面倒な思いをするだろう?」
今までありがとうございました。夢の中の話しなので作っている自分でさえちんぷんかんぷんなお話となってしまいました。こんな雰囲気物語を楽しんでもらえたなら幸いです。では、次回作で!




