スラム街育ちな王宮勤たちの集会
特になし
スラム街育ちの王宮勤・集会
スラム街。そこは世間から弾かれた、哀れな者が住み着くいた場所。そこに正義などなく悪すらも存在しない。あえて言うなら全てが悪にして、まさに弱肉強食。弱き者が虐げられ、その強者ですらさらなる強者に死ぬまで怯え続ける事となる。まさに地獄。
そんな地獄から抜け出すのは並大抵の事ではない。
才能がある者の中でさえ、血を吐くような努力と何度でものし上がれる鋼のような魂の強さ。それを持ってしてもその地獄から這い上がれるとは限らない。
ただ一つの運。
それを持っていなければ、いかなる英雄の器でさえ、その地獄から抜け出すことはできない。
そんなスラム街育ちのエリートの人は…以外といたようです。
「よいしょっと。」
最近話題の王宮メイド、リースさんはその小柄な体に合わない大きさの荷物をお届けしていました。
その姿は、愛らしい小動物のよう。
その荷物がリースさんの背丈と同じくらいの高さに積まれた本でありながら、素晴らしいバランスを保つという神業を披露していなければ。
「…ZzZz」
さて、こちらは、最近話題の騎士団の団員、ウィレンさんです。どことなく無防備な小動物のような気配が感じられますね。
気配は完全に消されていますが。
どうやら、本を読んでいたらそのまま、熟睡してしまったようです。
リースさんはそんなウィレンさんの事を気遣たのか、足音を立てずに入っていきます。その様はどう考えてもメイドのようには思えません。
『いいえ。メイドですよ。ふふ』byリース
「…!」
「…あら。」
しかし、そんな偵察隊顔負けの仕事をして見せたリースさんですか、残念ながらその隠そうとする気配が逆に警戒されてしまったようです。
ウィレンさんはバッと起き上がってしまいました。リースさんは申し訳なさそうに息を漏らします。
『まあ、資料図書館のような人気のない場所であると、無防備でも警戒してしまうものですよね。ハハッ』byウィレン
スッと、交差するリースさんとウィレンさんの視線。思わず二人は唾を飲み飲みます。どちらとも、武を極めた者であることは確認済み。
気を抜けばヤられる……ッ。そんな気配です。
「…もしかして、スラム育ちですか?」
「…もしかして、貴方も?」
こうして、スラム街育ちの二人は出会いました。
「いや〜。その動きは寝ている酔っ払いに絡まれないように出来るだけ、気配と音を消す歩き方!懐かしいなぁ」
「その寝ていても、隠そうとした、気配に敏感になりすぎてしまう癖!あるあるですねぇ」
ハハハ。フフフ。二人のスラム育ちが和か?に笑いあいます。
「ところで、ウィレン様は、何故、このような所へ?」
「ウィレンで良いですよ。今度の遠征に出る魔物の事について、少し調べていたのです」
「あぁ。なるほど」
ウィレンさんは、千年に一度と言われる剣の天才ですが、決して慢心などしません。
何故なら慢心した、油断した、とも言えないような少しの心の隙間で、一瞬にして命と言う炎が消えて行く光景を日常の片隅で何度も目にしていますからね。
「確か、今度の遠征ではエデールデォルト町まで行かれるのでしたよね?その辺りでしたら…。」
持っていた本をすでに片付けておいたリースは、サササ、と、動きいくつかの本を取りウィレンの机に置きます。
淑女たるもの、足音を立てるのはマナー違反ですが、リースさんのレベルとなるとニ周程回って、もうなんか、どうでも良くなって来ます。
そう!その姿はまるで、主婦の敵!メイドの敵!漆黒の身体に生命力溢れる『ゴ』から始まり『リ』で終わる生物のよう!
「おお!これです。探していたのは!」
「お役に立てて何よりです」
「ありがとうございます。リースさん」
メイドらしく一礼したリースさんは、ウィレンさんの横にいくつかの本を置き、ススっお座ります。
その時一筋の風が通り抜けるような気がしたと思ったら、本が突然現れました。物理法則が可笑しいですが、気にしてはいけません。
ウィレンさんは、気にせず本を読み耽ります。
リースさんもその横で本を読み耽ります。
題名は『拷問初心者がしてはいけない100の事』と、『最も魔物の神経を逆なでる罠集(北地方の魔物編)』と、謎の混沌が生じていますが、気にしたら負けです。
「それにしても、こんな所で話題の騎士であるウィレンさんに出会うとは…。あのスラム街の時も有名でしたよね。噂で聞いておりました『閃光の小さな英雄』って。」
二つの本がペラペラ漫画を見るかの如く本が捲られます。
「いえいえ。そんなことおっしゃられたら、貴方こそ10人分の仕事を鼻歌を歌いながらこなす有能な女官だと常々聞いておりますよ。『万能の悪魔』さん」
「まあ。」
ふふふ。ははは。
2人の悪魔と英雄は笑いあいます。二人には何処と無く強者の余裕が感じられます。例えこれが、魔界の最後の決戦だったとしても通じるほどの圧力…!
これが2人とも心から笑っていると知らなければ誰もがこの場から逃げ出したことでしょう。
事実として王宮に潜んでいた鼠は、逃げて行ってしまいました。
仕事放棄とは、なんて不真面目なんでしょうか!
話を戻しましょう。
大変分かりづらいですが、軽口(スラム街風味)を叩けるあたり、2人はかなり仲良くなったようです。
「そう言えば私は休み時間に来ているのですが、リースさんは仕事ですよね。仕事の方は、大丈夫ですか?」
「心配ありがとうございます。ですが、私がいては他の新人教育が行き渡らないと言われ、追い出されてしまいました。」
「それはそれは。」
リースさんは(一応)新人ですが、新人どころか、熟練のメイドさんの仕事すら横取りしてしまうほどの有能さです。
流石、悪魔。
「ですが、そろそろ帰らなくてはなりませんね。この書物を読み終われば帰ることにします。」
「少し残念ですね。」
「ええ。とてもたのしかったです」
そんな会話を交わしながらそれでも手に置いたページを捲るスピードは、変わりません。もちろん、視線も交わりません。
……本当に残念に思っているのでしょうか?
そして、リースさんのページを捲る手が止まり、パタンと、表紙が閉じられました。
「また、機会があればここで会いましょう。これと言った確証はないのですが、貴方とは、また会えそうです。」
「えぇ。では」
リースさんは、本を本棚にスッと戻すと、あっさりと去って行きました。
ーーーこれがのちに世界一平和で差別がない国への第一歩となるとは、きっと誰も予想しなかっただろう。
テスト前にガアってやった。反省はしている。後悔もしている。
やっちまった。