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4話「能力者の脅威」

細かいところを修正しました

ボス→リーダー

僕→ボク

 急いで一回に降りた。


 屋敷の大広間を見渡すと、ガラスの窓が割れている。大広間の家具に以上は無いことから、恐らく轟音を出した原因の物ではなく、轟音自体で窓が割れたのだろう。


 「いやぁ、屋敷に張ってあった結界を破ればそれだけで進入成功とは、ガロも随分油断していたんだろうな」


 「そのいざと言うときのためにいるのがカナンと言う女性でしょう。彼女のいない隙を狙ったとはいえ、もしかしたらボクの能力で結界を破壊した事がばれているかも知れませんから、早く息子を回収しましょう」


 二人のひそひそとした話し声が玄関の方から聞こえる。屋敷の窓が全開になってしまったため、勢いの良い春風が吹き抜けていたはずだが、俺の耳にはその低い下種な声しか届かない。父親の名前が出てきた事に驚くが、ある程度理解は出来る。


 もうここまで来たら引き返すことは出来ない。忍び足でゆっくりと玄関に近づく。


 最初に目に入ったのは、玄関で倒れている母親だ。これを見た瞬間、生まれて初めて血が湧き上がるような苛立ちを覚えた。常に冷めていた俺の初めての怒りだ。


 だから、後先考えず男どもの前に姿を見せた。俺程度が何を出来るわけではないと分かっていても、母親に危害を加えたあいつらを許すことは出来ない。


 「お、まさか自分から姿を見せるとは、賢いのか馬鹿なのか分からねぇな」


 「普通の子供なら怯えて動くことも出来ないでしょうが、流石はガロの息子と言ったとこでしょうか。ふふっ、その行動力の割には人形を抱えて手放さない子供らしさもあるようですけど」


 --本当だ、ユンナを持ち出していることに気づかなかった。鼻で笑われたのが癪に障る。


 砕けた言い方をする方は、俺の身長でも分かるくらいの長身で、髪は整えられておらずぼさっとしているが、不思議と先端は尖っている。顎もやや尖っている。俺をみてにやりと不細工に笑った顔から、これまた尖った歯が見えている。眉毛も、目も尖っている。なんともトゲトゲした顔立ちである。


 そしてなんとも印象的なのが手に持っているラッパである。もしかしたら、このラッパから先程の轟音を出したのかもしれない。


 敬語で話していた方は、長身の方と比べるまでもなく小さく、母親とそう変わらない。少し古ぼけた茶色のローブを着込み、子供一人分の大きさの麻布で出来たナップザックを背負っている。手には年季の入った木製の杖を持っている。その風貌と杖は、絵本で見た魔法使いを彷彿とさせる。


 顔が見えない上体格もローブのせいで分からないため、男女の判断がし辛いが、一人称がボクだから男だろう。


 能力者。


 その単語が俺の脳裏に浮かんだ。この二人は能力者、そんな気がする。


 「餓鬼、お前がユル・メディアで間違いないな?」


 「ブルーム、そんな態度では恐怖で答えられるものも答えられませんよ」


 「そうだなキサラギ。じゃあ僕、君がユル・メディアでちゅかぁ?」


 長身の男はブルームと言うらしい。舐め腐った態度で俺を尋ねてくる。ローブの方がキサラギか。


 「沈黙か、本当にビビっちまってる様だな。まあいい。こいつがガロの息子であろうが、なかろうが、やることは同じだ」


 「そうですね、カナンが帰ってくる前に早く事を済ませてしまいましょう」


 ビビってはいない。どうにかしてこいつらに母親を傷つけたことをを後悔させてやりたい。しかし、少し冷静になった今だからこそ、その不可能さが分かる。


 「お母さんに何をした?」


 ようやく発した一言は思ったより小さく出た。案外ビビッているのかもしれない。


 でも、こんなわけの分からない男二人組が家に入ってきて母親に危害を加えてきて、恐怖しない方が無理がある。


 言ってしまえば怖い。あの轟音を至近距離で聞けば俺もただではいられない。でも、逃げるわけには行かない。推測だが、カナンがこいつらに気づけばどうにかしてくれる。そう思わせてくれるほどカナンはこいつらに恐れられている気がする。


 「お、ようやく喋ったか。安心しな、気絶してるだけだ。鼓膜はやられたかもしれねぇがな」


 良かった、大事には至っていないか。


 「この状況が分かって自分より母親の心配をしているのでしょうか、それとも何も考えていないのでしょうか」


 「キサラギ、考えすぎだろ。所詮餓鬼だぜ?」


 「そうですが、念には念を込めましょう。幾ら子供と言っても騎士団長の息子、何か能力を持っているかもしれません」


 「はっ、じゃあとりあえずアジトに持ち帰るか。そのために親子共々気絶してももらわねぇとな」


 ブルームはラッパを構える。まずい、あの轟音がこのラッパから出たのだとしたら、ラッパの音を聞く訳にはいかない。


 どうすれば、なんて考えるより先に体が動いた。手に持っていた人形をラッパに投げつけた。


 「んぐっ!」


 人形は見事ラッパに当たり、振動でブルームの口元を強打させた。ブルームは堪らずラッパを手放し、ラッパはガシャリと重たい金属音を響かせて玄関を揺らす。


 「テメェ……やりやがったな」


 ブルームは先端が尖った唇を押さえて顔を震わせる。屈辱と憤怒が込み上がっているのが手に取るように分かる。その顔は少なくとも5歳児に向けるものではない。俺じゃなかったら泣き喚くか、涙すら出ないほど震え上がってしまうだろう。


 「お前らなんかにお母さんは渡さない!」


 だから俺は抵抗する。抗う。


 「てめえ、今すぐぶち殺してやる!」


 「ブルーム、落ち着きなさい。その程度で怒るなどみっともないですよ」


 「みっともない? こんな餓鬼が俺様に楯突いてんだぞ!?」


 「そう言うのをみっともないって言うんですよ……」


 キサラギは溜息をつく。二人の関係性は良く知らないが、短気なブルームにキサラギは苦労しているようだ。


 「何度も言いましたがボスの命令は母親ではなく、この子供です。不用意に殺してしまったらブルーム、あなたがボスに殺されますよ」


 「ちっ、わかってるっての。じゃあ能力でこの餓鬼を気絶させるか」


 ブルームが俺に近づいてくる。ここは一端距離をとって、隙を見て逃げよう。母親より俺に価値があるなら、なんとしても俺を捕まえたいはずだ。だったら俺が逃げれば母親より俺を優先するはずだ。


 --何だ、足が動かない?


 「ああ、あなたの足の動きを封じました。ブルーム、今の内に」


 キサラギは木の杖を俺の脚に向けていた。その杖の先端からはかつて公園で見た魔方陣がはっきりと出ている。


 「言われなくてもな。もう二度と音が聞こえないようにしてやるよ」


 ブルームがラッパを拾った。やばい、轟音が来る。でも足が動かない。


 畜生、俺は母親を守れないのか……?





 ヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!


 それはラッパの音だろうか、どう考えても一楽器として生み出される音じゃない。これがブルームの能力……耳がはち切れそうだ! 痛い! 痛い痛い!


 プツン!


 何かが途切れる音がした。


 その正体は直ぐに分かった。鼓膜が破けた音だ。世界から音が消え、恐ろしいほど清閑になった。無に等しい音とは裏腹に、目に見える光景は悲惨な物だ。倒れた食器、割れたガラス、倒れている母親、そして地面に崩れる俺。


 畜生、畜生畜生。


 何も出来ないと分かっていても、空しさが残る。俺の見た目でもっと奴らの目を欺くことも出来たかもしれなかったが、もう遅い。


 「よし、こいつらを回収してアジトまで運ぶぞ」


 「ええ、しかし盛大にやりましたね。危うくボクまで鼓膜が破けるかと思いましたよ」


 「ふん、ちょっと勢いあまっただけだ。お前は能力で封じれるからいいだろ」


 「まあ、それもそうですけど」


 ローブの男が笑ってやがる。


 「ま、待て……」


 何とか声を振り絞り、掠れた声が奴らに届いた。


 「あ、まだ意識があんのか。てか耳潰れてねぇのか」


 --あれ? 本当だ、聞こえてる。でも風とかの雑音は聞こえない。奴らの声だけが俺の脳に直接届いてる感じだ。


 しかし今更そんな事がどうだっていうんだ。頭痛はひどいし、目は霞む。立ち上がることも出来ない。


 「一応殴って確実に気絶させとくか。お前も念には念を込めろって言ったしな」


 「そう意味では無いですけど、まあ死なない程度なら大丈夫でしょう」


 ブルームが幼児に危害を加えるDV親のような態度で俺に近づき、拳を振りかざす。キサラギは茶色のローブを深く被っているが、俺の事を凝視している様がなんとなく分かる。まだ何かあると、疑り深く探っているように思える。勿論俺に何か出来る程の力は残っていないし、初めから持っていない。




 

 --ああ、意識が遠のく。









 《ギャハハハハハハ!! おう兄弟、随分とピンチじゃねぇか》


 ついに幻聴まで聞こえてきた。ひどく汚い言葉使いで、そのくせマイナスの感情を微塵も感じられない、自信に満ちた、陽気で淀んだ声。耳に付く、汚らしい笑い声。


 (俺に兄弟なんていない)と幻聴に返す。


 《そうつれないこと言うなよ。俺は兄弟が生まれる前からずっといるんだから、兄弟も同然だろ》


 (幾ら兄弟でも生まれる前からとか無理だろ。そもそも俺は生まれた時は死んでいたわけだし)


 《ギャハハハハハハ!! ちがぃねぇ、こりゃ一本取られたな! ギャハハハ!! じゃあ言い方を変えよう。俺は生まれてからずっと兄弟と行動を共にしてきた。互いに学び、守りあって来た。だから兄弟だ! ギャハハハ!》


 (何なんだこの幻聴は。ああそうか、耳がやられて可笑しくなったのか)


 《そうか、耳か! 兄弟の耳はもうやられちまったよ》


 (でも、あいつらの声は聞こえたじゃないか)


 《それは俺が聞き取った音を兄弟に流しただけだ》


 (そんなことが出来るなんて、お前何者だ? もしかして--)


 《ああ、そうだよ》





 《兄弟の言う、[何者か]だよ》


 その声は、俺の胸の奥から頭を通り抜けるように響いた。『何者か』が、俺に語りかけてきた。そう思うと何故だか冷静になれた。


 (そうか、じゃあ[何者か]、お前は俺を助けてくれるのか?)


 《ギャハハハ! 助けたいのは山々だが、生憎俺は兄弟の中に閉じ込められてる身でよ、兄弟の外に干渉することは出来ねぇんだ》


 (じゃあ、裁縫道具をくれたのは誰だよ。 お前の仕業じゃないのか?) 


 《あー、それそれ。折角兄弟が欲しいって言うから、俺も何か手伝おうかなーって思ったけどよ、俺兄弟の外側に何も出来ないんだわ! 笑えるだろ? ギャハハハ!》


 (いや、全く)


 《そうか! ギャハハハ! あれは兄弟が自分でやったことだよ! 俺がやったと思い込んで、物体練成の能力を使ったわけだよ! あ、勿論俺が兄弟が能力を制御できるようコントロールはしたぞ。でも能力を起動させたのは間違いなく兄弟自身だ! おめでとう! 兄弟は立派な能力者だぜ。ギャハハハハハハ!》


 は……?


 《まあ逆に言えば俺がいなかったら練成に成功してないんだけどな、ギャハハハ! つっても、物体練成は1級以上の能力だから、兄弟の歳じゃきついもんがあるのは当たり前だけどな。--ってそんな話は後で良いか。兄弟、あいつらを倒したいだろ》


 (当たり前だ。俺に話しかけて来たってことは、お前がどうにかしてくれるんだろ)


 《兄弟、俺に対して当たりが強くねーか? 普通はもっとこう、感動の運命の出会いみたいな雰囲気出るんじゃないか?》


 (状況が状況だ。早く母親を助けないと)


 《ギャハハハ! 兄弟の大義名分はそれか。まあ昔から兄弟はそれだもんなぁ》


 (さっきから何を言ってる? 兎も角、俺に力を貸してくれ。今までもそうして来たんだろ?)


 《ギャハハハハハハ! 分かってんじゃねぇか! 元より俺と兄弟は一心同体、鉄より堅い絆で結ばれているからな! ただーし、あくまで俺は兄弟の補助をするだけだ。能力を使うのは紛れもなく兄弟自身だからな、ギャハハハ!》


 [何者か]は想像以上にフランクであるが、心強い味方である事は間違いない。


 《あ? なんか言ったか?》


 (なんでもない)


 《じゃあいいぜ! ギャハハハ!》


 そして馬鹿だ。


 《じゃあ俺の能力を使って兄弟の目を覚まさせるぜ。耳は修復に時間が掛かるが、さっきみたいに俺があいつらの会話だけでも届けてやる。後は兄弟の能力であいつらを倒せばいい。なぁに、俺と兄弟に掛かればあの程度俺達の敵じゃないぜ》


 [何者か]はそう笑った。だったらやってやるしかない。


 この屋敷を、この家を守るために。


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