無双は多かったら無双じゃない
この手法も既出かと思いますが……
トラックに吹っ飛ばされた……と思ったら、いつの間にか真っ白な空間にいた。
『はーい、その通り! そんなわけで、異世界転生させてあげるよ~☆』
え、意味解んない。そして要らない。
『大丈夫大丈夫! ちゃんとチートな能力もあげちゃうからね! ふふん、女神様は太っ腹なのだ☆ 欲しい能力、何でもいいからどーんと言ってみて!』
……話が通じねえ。
ええと……思った能力が、貰えるのか? 何でもいいの?
『もっちろーん! この女神様に二言はございません! ささ、どんな能力か言ってごらん? 複数でもいいよ! 大盤振る舞いだっ☆』
……なるほど。じゃあ、遠慮なく……。
『…………………………………………え。
そ、そんなのでいいの?』
これがいいの。
あと、他には特に要らないから。
『そ、そうなの……?
んー……ま、まあ、ものは使いようだしね! その能力で、頑張って無双してね!』
*
この世界の女神は、異世界人が大好きである。
そのため異世界から転移した勇者や聖女、あるいは異世界人としての記憶を持つ転生者が、まあ、さほど多くはないにしても、それなりにいる。
そしてまた一人、異世界人の魂を持つ赤ん坊が産まれた。
「転生者だ!」
「この子はどんなチートだろうな」
そして今日日、子供の魂を測定して転生者か否かを調べることは、一般庶民にも浸透している。
異世界の知識――は、既出である場合も多いが、ほとんどの転生者は女神の加護として何らかのチート能力を有しているのだ。巧く育てれば、家族としてその恩恵に与ることも出来る。
能力だけ搾取しようとしても、転生者は女神の愛し子だ。何かの因果が都合よく巡り巡ってざまぁされるので、どこの家でも転生者は大事に育てられる。
新たに転生者の子供を授かったこの家は転移勇者の末裔であり、これまでに何度も転生者を輩出しているから、今回もいつも通りに転生者を育てるだけ。
「あー。ぼーゆー」
「ふふふ、若様はこのボールがお気に入りなのね」
「あい!」
乳母とボール遊びに興じる息子は、年相応に幼くはしゃぐ。
微笑ましい光景だが、遠視魔法でその様子を覗き見る当主は、厳しい表情で首を傾げて。
「……普通の子供……だな」
「ええ、旦那様。転生者特有の高い魔力ではありますが、若様の言動はそれらしからぬものです。
こちらが見ていることに気付いて隠しているわけでもないようですし、これは単に前世の記憶を取り戻していないだけかと」
「うむ。意識が成人であれば、すでに魂を測定されていることは知っているだろう。転生者だと隠そうとしたところで無駄だと、理解もするはずだ」
「引き続き、若様の教育を続けます。記憶が戻れば、またその時に改めて――」
「うむ。
……魂測定で、能力も判れば便利なのだがな……それは女神の意に反するか」
息子はどんなチート能力を授かったのだろう――前世を思い出した当人が、自身にしか見えないステータスを開けるようになるまで、待つしかあるまい。
このステータスも、異世界人特有のものである。中には他人に見えないからと、偽の能力を申告する者もいるが――
「この世界で育った性格は簡単には覆せないのだよ、息子よ」
記憶を取り戻していないのが、逆に好都合。
ある程度自我が発達していた方が、前世の人格に呑み込まれることもない。
さあ、今世で役に立つ人間に育っておくれ。
*
どうやら僕は、転生者らしい。
この世界では子供が産まれると、女神の加護があることを期待して、魂を測定する――異世界人の魂を持つ転生者であれば、確実に加護持ちだ。チーターとも言うが。
「……でもお前は、言われるまで知らなかった、と……」
「僕があまりに普通なんで、さすがに可怪しいと思った父上がようやく教えてくれたんだけどね。今も自分がそうだとは思ってないよ」
「でもステータスは開けるんだろ? どんな能力なんだ?」
「うん、『自己記憶消去』だって」
「……何だそれ」
「さあ? 自分の記憶を任意に消す能力じゃない?」
「……何だそれ……」
友人は変な顔をするけれど――家族も使い道の判らない能力に、困った顔をしていたけれど。
加えて転生者の能力は、前世の自分が生まれ変わる前に望んだ能力を、そのまま女神から与えられたものだ。
前世の僕が一体何を考えて、こんな能力を望んだのか――周囲は首を傾げるが、すでに記憶を消した今でも、僕自身は解る気がする。
きっと『僕』は、面倒だったのだ。異世界でチートだ無双だと騒ぎ立てるのが。
「……お前自身も変わってるが、前世のお前はもっと解らんな。何の役に立つんだ、そんな能力」
「さあね」
自分の能力で前世の記憶を消した僕は、だから少し魔力が多いだけの普通の人間である。
臍を曲げた女神が襲撃に来る……と言う続編が書けそうですね。
書きませんが。