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第五話 緊張しているように見せかけて、実はそうでもなかったりいたしますの。



この小説はバトル物ではありません。






目の前の強敵(※国王陛下)を見てじりじり後ずさります。額に汗が流れるのを感じますが、そんなことを気にしていたら、一気にやられる……!

手がじっとりと汗ばんできました。怖い、怖い、怖い!!!

ですがなぜでしょう。この強敵(※国王陛下)に、とてつもない恐怖を感じると共に、どうしようもなく高揚しているのです。今まで、全力を出して立ち向かうことができなかった…………。いつも心のどこかで、自分を超える強者(※国王陛下)と向かい合いたいと望んでいた…………!

ですが、それは所詮、自分勝手な夢でしかありません。こんなわがままに、彼を巻き込むなんてできない!!

すると、まるでわたくしの心をさっしたように彼がふりかえりました。わたくしを見つめると、ふっと笑って、頷いてくれました。

わたくしは泣きそうになりました。この危険な場でも、彼は側にいてくれるのです! 覚悟を決めて笑いあいます。

わたくしが前衛で、彼が援護。

恐ろしい魔物(※国王陛下)へ不敵に笑って……。



脱兎のごとく扉へ向かって逃げ出しましたわ。

だってね? どれだけ生きても、怖いものは怖いですからね? だって国王陛下ですわよ? 国で一番偉い人ですよ? 撃退できない訳ではないですが、国民の本能に刻み込まれておりますからね? 国王=なんかすごいは、絶対の方式ですもの。


はい。案の定扉は開きませんでした。


地べたに這いつくばって謝罪するしか方法はありませんわね。



「無駄だ。魔術で扉が開かないようになっていr」



「申し訳ございやせん! 申し訳ございやせん旦那ぁ! うちの金はもうねぇですだ! 領主様んとこの金取りが、ぜぇんぶ持ってっちまっただ!」


「もうおやめください! お金はありませんわよ! わたくしには年老いた母と病気の娘と借金を残して失踪した息子と旦那に死なれた妹と博打打ちの夫がおりますの! お金を借りたいなら、うち以外で借りてくださいませ!!」



「……………は?」



「か、金はねぇげども……おっかあとおっとうの片身の指輪があるがら、どうか帰っておくんなせぇ! うちの女房の腹に子供がおりますだ! どうか、どうかもう勘弁してくだせぇまし!」


「わ、わかりましたわ…………。だから、娘のアンには絶対に乱暴しないでくださいまし! 何か……何かないか、かき集めてきますから。ああ! お母様! 危ないから出てきてはいけませんわ。大丈夫。わたくしは大丈夫ですから……。メアリー、申し訳ないけど旦那様の片身をくれないかしら……。ごめんなさい。本当にごめんなさい。だけどこれが家族のためなの……。泣かないで、メアリー。」



「いや、いやいやいや! なんでそうなるんだよ! 意味わかんねーよ! アンとメアリーって誰だよ!」



あら、わたくしたちの懇願はあまり通用しなかったようですわね。

でしたら、跪いていても意味がないので立ち上がります。


ルードヴィヒ殿下が優雅に埃を払いながらおっしゃいました。


「でしょうね。兄上の金で生きている私に、兄上が金の無心をするはずがありません。」


「まあ! 確かにそうですわね。国王といえば、国で一番儲かるお仕事ですもの。あら、わたくしったら勘違いしてしまいましたわ。」



「いや、そういう話じゃないから。全然違うから。大人しく何を企んでるか陛下に言いなさい。」


もう、陛下ったら、ちょっとしたお茶目ですのに。

…………ごまかせなかったようですわね。


わたくしとルードヴィヒ殿下は、神妙に目を見交わすと、頷き合いました。正確には、お前から言えよ、いやお前から言えよ、と無言で押し付け合いました。

結局、年長者であるルードヴィヒ殿下が先になりました。



「出来心、だったのです。正直国王とか面倒そうだし兄上の金で食う飯万歳とかお外怖いとか思っておりますが、意味あり気に国王の地位狙ってますよって感じに言うと、みんなすごい動揺するから楽しくなってしまいましてな。ちなみに反省も後悔もしておりません。」


「わたくしは……ルードヴィヒ王弟殿下がやらかしたとき、同類に見られるのが嫌だったので、性犯罪者に仕立て上げて自分だけ逃れようとしておりました。…………あと、殿下のドヤ顔がウザかったのもありますわ。」


言い訳はいたしません。自分の恥を堂々と晒していくスタンスですわ。逃げも隠れもいたしません。さっき逃げましたげど。



「嘘は……言っていないな。ていうかルードヴィヒ、お前性格変わりすぎじゃないか? さっきのあの……領民? の真似とかお前しないだろ。陛下は知らない。こんなルードヴィヒを陛下は知らないぞ。」


確かに暗黒系美形のだべ口調とか、すごいシュールですものね。


その言葉に、ルードヴィヒ殿下はぽんと陛下の肩に手を置くと、穏やかにおっしゃいました。


「兄上。私はこれが……素です。」


「なん……だと……? 陛下の知ってる引っ込み思案で顔が邪悪でちょっとどす黒い性格のルードヴィヒはどこ行った!? 陛下の当たり前がすごい勢いで崩されていってるよ!」


「兄上。子供は成長するものです。まるでたけのこのように。」


「え? たけのこ? ごめん陛下ルードヴィヒの言ってる意味がちょっとわかんないわ。」



へいか は こんらん して いる



「大丈夫です。陛下。引っ込み思案かどうかはわかりませんし、ほぼ中身は別人と言ってもいいほど違いますが、邪悪な顔だけは変わりませんわ。しゃべっている言葉を聞き流して、顔だけ見ていれば何の問題もございません。」





陛下はまだ再起不能ですわ。混乱している陛下に素晴らしい解決法を教えて差し上げたので、あとは立ち直るまで待つしかないでしょう。



この五話目を書き終わったら、俺、絶対陛下の名前を出すんだ……。



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