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第三話 幼女は見守るべき神聖なものです。汚れたわたくしたちが触れていいものではありません。




手を振り上げたままのわたくし。

手を頬に当てて、どこかやりきった顔のルードヴィヒ殿下。


そして、開け放った扉の前で固まる国王陛下。



うん。カオスですわね。



わたくしは何事もなかったように淑女の礼で頭を下げました。ルードヴィヒ殿下も素早く立ち上がると、しれっと礼をしております。陛下ばれないように埃をはたく手腕は見事ですわ。


「……面をあげよ。」


その言葉に、わたくしとルードヴィヒ殿下は姿勢を正しました。ありがたいことです。コルセットを付けたまま、高いヒールの靴を履いて、たおやかな笑みをぴくりととも動かさずに礼をするのは新手の拷問ですもの。



「それで、先ほどは何をしておったのだ?」


はい、きました。でしょうね。そう言うでしょうね。わたくしだって自分が陛下だったら同じ質問をいたしますもの。



……………どうする?


ルードヴィヒ殿下へ一瞬視線で問いかけます。


…………なかったことにしよう。



「はて、いつのことでしょう。何かありましたかな?」


「先ほど…………? わかりませんわ。期待に添えず申し訳ございません。」



ごらんなさい! わたくしたちのこの面の皮の厚さを! 陛下のうしろに控えている衛兵二人の冷たい視線も、まったく気にならなくってよ。公開処刑で石を投げられながら死ぬのと比べれば、全然ノーダメージですわ。



「………………。」



…………疑われております。陛下がすごい疑わしそうにこちらを見ております。


あ、やばい。ルードヴィヒ殿下がそわそわしてきました。フリだろ? これってフリだろ? って感じにそわそわしてます。ほかの人が見れば、ああ、いつもどおり悪辣な顔だな、という感想しか抱かないでしょうが、わたくしにはわかりますわよ。


…………この人、押すなよ? 絶対押すなよ? と言われたら、例え崖下だろうと笑顔で背中を押すタイプですわね。



「何ですかな? もしや私で疑っておいでで? いやいや、嘆かわしいことですな。まったく。兄上は私を信じてくれないのですか? 私は悲しみのあまり兄上にちょっとした “仕返し” をしてしまうかもしれませんなぁ? せいぜい、まわりに気をつけることですな。」



はい、やらかしましたわ。多分やるだろうと思っておりましたが、本当にやりましたわ。ノリノリで。しかもいい具合に三下感が醸し出されております。陛下にすごい不審そうに見られておりましてよ。


かくなる上は、王族の身分をかさに、ルードヴィヒ殿下に暴行されそうになったところを撃退したことにするしかありません。ルードヴィヒ殿下。短いあいだでしたが、あなたのことは忘れませんわ。


これから幼児愛好家の性犯罪者になるルードヴィヒ殿下の末路を思って、はなむけに思いきり哀れんで差し上げようと目を向けると、なぜかドヤ顔を向けられました。さすがは王族。レオンハルト王子殿下といい、ルードヴィヒ殿下といい、ドヤ顔の本拠地とよばれるだけありますわね。いえ、知りませんけど。


…………ですが、無性にイラッといたしました。今回ばかりは、その輝かしいけどなぜか邪悪なドヤ顔に拳を叩き込みたくてたまりませんわ。


もはや殿下を性犯罪者にすることに、少しの躊躇いもございません。



「へ、へいかぁ……。じ、実は、べ、ベットで寝てたら、おーてーでんかがいらっしゃって、お、おーぞくだから、ゆーこと聞けって…………! へ、変なことしようとして……。怖かったからっ、手で、叩いちゃって、ふけーざいですかぁ……?」



どもりながら、今にも泣き出しそうな声でそう言います。


衛兵の眼差しが一気に同情的になりました。反対にルードヴィヒ殿下を見る目は氷のようですわ。ブリザードです。これで王弟の幼女趣味説が広まること間違いなしでしょう。

古今東西、子供に泣かれて無事でいた者などいないのです。誰かに見られたその瞬間から、世間体という強敵が襲いかかってくるのです。


ばれないようににやりと笑ってルードヴィヒ殿下を見ました。


あろうことかルードヴィヒ殿下は、肩をすくめて “やれやれ” とでもいうように首をふって、こちらをちらりと見やると大げさにため息を付いております。


うわぁ。……うわぁ。こんなに腹の立つしぐさをする人を初めて見ましたわ。

おっと。思わず舌打ちが出てしまいました。淑女なのにはしたない。

慌てて姿勢を正して、陛下の様子を窺います。




「そうか…………。辛かっただろう。大丈夫だ。不敬罪にはしない。ルードヴィヒには儂からよく言い聞かせておこう。体調は大丈夫か?」


そう、陛下が優しく声をかけてくださいました。


「ええ、もうすっかり。初めての国王陛下とレオンハルト殿下との謁見でしたので、緊張してしまったようですわ。」


「そうか。それは何よりだ。目が覚めたばかりのところをすまないが、少し付いてきてもらおうか? レオンハルトとの婚約者となる令嬢とは、少し話しておきたいのでな。」



そう言い放つ陛下の目を見上げて、わたくしは思いました。

あ、これ、全然信じておりませんわ、と…………。



何気に陛下の名前が一度も出ていない件。



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