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第八話 結婚できないまま祖父母の境地へ至るのは、結構寂しいものだと思いますの。




こんにちは。王城内の蔵書館にいるエレオノーラですわ。

蔵書館の、いったいどこにわたくしとルードヴィヒ殿下がいるのかともうしますと。



二階の隅の、あり得ないほどつまらない、礼儀作法について延々と書かれている本や、ただひたすらに怪しげな壷を勧め続ける本などが置いてある一角……つまり、誰も読まない本を寄せ集めている場所ですわね。

聞くところによると、王宮と関わりのあった者たちから無料で進呈された物らしく、捨てるに捨てられず今に至ったらしいですわ。


ちなみにわたくしとルードヴィヒ殿下は、誰も来ないのをいいことに、ローテーブルやクッションを持参しております。王弟と公爵令嬢ですもの。堂々としていれば、多少不審行動をしても、案外何も言われないものですわね。

…………ただ、すれ違っていく目が、回を増やすごとに異常者を見るものに変わっていきますけれど。


ですが、おかげでこうして寛ぐことができたので、気にすることはないでしょう。


さっと巻いていた絨毯を敷き、ローテーブルを置き、クッションを整えた王弟の動作は手慣れたものを感じました。さすがですわ。

ですからわたくしも、魔術で湯を沸かしてお茶をいれ、先ほどすれ違った侍女から掠め取ったクッキーを並べました。

あのときの侍女の、頭のおかしい者を見る目は忘れられませんわ。


クッションに座ってお茶をすすります。



「さて、人心地ついたところで。君と私は今日記憶が戻り、これから十三年後に死ぬ。そして、それを繰り返している。OK?」


「OK」


ルードヴィヒ殿下と、二人でクッキーを貪りながら確認します。難しい話は頭を使うので、糖分が必要なのです。だから太ることはありませんわ。たぶん。


「では、わたくしからも。死ぬ理由は、いつも処刑。罪は、わたくしはアンネリーゼちゃんの暗殺に、ルードヴィヒ王弟殿下はレオンハルト殿下への反逆……面倒ですわね。なんとお呼びすればいいでしょうか?」


「死ぬ理由は、そのとおりだ。名前は適当でいいのでは? ルードヴィヒだから、ルーイ……は駄目か。王弟殿下は長すぎるし、おじさんとか……………? ほら、一応未来の叔父な訳だろう」


「では、おじさまと呼ばせていただきますわ。ですが、いいのでしょうか? 男性とは繊細なもので、三十代の中盤を超えるまでは、どうしても “お兄さん” で押し通すと聞いたことがあるのですが。いえ、特殊な性癖の方は、いくつになっても “おにぃ~たま☆” と呼ばれたがるものらしいですけど……。」


「大丈夫だ。私の精神年齢は、三十代など軽く超越している。そしてそんな性癖は私にはない。むしろ可愛い孫に “おじいちゃん” と呼ばれたいお年頃なのだ。だからおじさまで全然かまわない。むしろいい。」


「……わかります! わかりますわ! 健気なアンネリーゼちゃんとかに、おばあちゃん、いつもありがとう、なんて恥じらいながら言われたらっ…………!」


「わかるか! だろう! 肩もみ券とか渡されて、じいちゃんのこと、俺、そんなに嫌いじゃないから……いつでも頼めよ。とか! とか!」


「ツンデレですねわかります! あと、子供夫婦の家に行ってみたら、紙いっぱいに書かれた “バーバと僕” の絵とかが壁に貼られていたら……もう…………!!」


「ほかにも、成人式の手紙で…………




◇◆しばらくお待ちください◆◇




「…………ごほん。とにかく、おじさま、で決まりですわね。」


「ああ……。そうだな。」


それにしても、おじさま…………おじさま。……義理の姪と叔父が親しくなるのは、客観的に見てほのぼののはずですのに、何故でしょう。わたくしとおじさまに当てはめた途端に、ものすごい犯罪臭が……。

言ってはなんですが、わたくしもおじさまも、客観的に見て和むような雰囲気の人間には見えません。

………おじさまの幼女趣味疑惑が、ますます濃厚になりそうですわ。


「なんだかすごい犯罪臭がいたしますわね。」


あ。声に出してしまいましたわ。


「まあ、それは仕方ないだろう。この顔だしな。実は、何度生まれ変わっても処刑されたのは、この悪役顔のせいではないかと思ったことがあるんだ。そうさ。一度たりとも私を怖がらなかった子供などいない。私を “おじいちゃん” と呼んでくれる子なんて、永遠に現れないんだ……。それに最悪、私が実は幼児愛好家で、エレオノーラ嬢を気に入ったから王宮に引き止めた、ということにする方法を取ることもできるな。きっと、誰も疑問に思わないだろう…………。ははっ。」


「ああ……! 言いましたわね! 言っちゃいましたわね! わたくしが敢えて触れなかった話題を…………! 悪女顔からって……怖いからって……顔か、顔なのか! ちくしょー!」


わたくしとおじさまは顔を見合わせると、ふっと黄昏て、乾いた笑いをもらしました。

いけません。この話題は危険です。双方ともダメージが大きいですわ。すぐに話を変えなければ!



「…………そういえば、おじさま。陛下の前と、今とでは、口調が違いますわね? どうしてですの?」


「…………ああ、あれか。あちらの方が胡散臭いだろう? だからだ。私の言動ひとつに右往左往するさまが、面白くてな。」


「おじさま……。それこそが、子供に好かれない理由の一端なのでは…………?」


「…………言うな。」


この人、馬鹿ですわね。思わず憐れみの目で見てしまいました。




「………それはそれとして。もうお開きだ。これ以上時間が経ったら、あらぬ噂が立ってしまう。私に。」


「そうですわね。ですが、もっとお話ししたいことがございましたのに……。けれども、わたくしは陛下に疑われてしまいましたので、もうお会いするのはやめた方がいいでしょうか?」


「いいや。せっかく巡り会えた同士だ。確かにあのやり方は強引だったとは思うが、気持ちはわからんでもないからな。一緒に疑われて差し上げよう。そしてたまにはおじいちゃんと呼んでくれ。」


「さすがですわ、祖父の鏡! おじいちゃん! イケメン!」


「いいってことよ。」


おじさまは男前に白い歯を煌めかせて親指を上げました。これでも爽やかに見えない不思議。やはり悪役補正なのでしょうか……。悪役補正、恐ろしい子…………!


まあ、とにかく。本当に帰る時間になりましたわ。




「では、さようなら。」


「さようなら。また今度。」



やらかした。反省はしているが、後悔はしていない。byエレオノーラ



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