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HSシャモ-side She-  作者: シエルガーデン
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EdelWeissの軌跡04




―――目を覚ました時、私の意識は完全に3歳の私と同化していた。

正確には、3歳の私の意識がどこにも感じられなかった。いつもならば、こんなことはないのだが……。

あれ、そういえば荒野にいた時もそうだったかもしれない。この世界の、この身体の私の意識はどうなった?


「………………るか。……も、……ャモ」


思案の網を広げていた私の耳に、かすれかすれの声が届いた。

ゆっくりと瞼を開くと、飛び込んできた天井は知らない色をしていた。

私の記憶にない、ということは生まれた家ではないということだ。どこだここは。

疑問は浮かぶが、それを研磨する余裕がない。酷く眠い。瞼を上げても、直ぐにそれは落ちようとする。


「……ああ、良かった。目が覚めたんですね」


音だけが鮮明に、私の耳に飛び込んで来るようになった。同化していると意識したからか、聴覚がクリアになった。

しかし身体のほうは、起き上がろうとして出来なくて、同時にズキリとした痛みが私を襲って眉をしかめる。


「まだ動いてはいけません。全部の傷が癒えたわけではありませんし、貴女の存在力は著しく低下しています。無理をすればまた……」


……これは、誰の声だったろうか。聞き覚えはあるのだが、誰だったか思い出せない。

姿を見ようにも、この状態では天井しか見えない。

緩慢に腕を振ってみれば、視界に幼児の腕が映った。少し血が滲んだ包帯が巻かれている。

手の甲にも大きな絆創膏が貼られている。


「……ぅ。ぁ」


声を出そうとして、喉が引き攣れるような痛みを感じた。

もう、あちこち痛くて泣きそうだ。泣いたら余計に喉が痛みそうなので止めておくが。


「……大丈夫、貴女は助かった。助かったんですよ、大神災だいしんさいを生き抜いたんです」


ダイシンサイ?なんだそれは。

目元に柔らかな布が当てられ、滲んだ涙が拭われる。


「直に声応島こおうとうにも戻れます。大丈夫」


コオウトウ?

視界に、誰かの手が映る。今の私ほどではないが、小さな手。

そこから、温かな光が降ってくる。身体の痛みが少しずつ引いていく。


「……貴女は今度こそ幸せに生きるんです」


……今度こそ?幸せに、生きる……?


……その言葉を聞いて、がばりと身体を起こした。凄く痛いが、そんなことに構ってはいられなかった。

構ってはいられないが、反射的に身体を抱いて呻く。

それから慌てて声の主のほうを見るも、そこには誰もいない。

椅子だけがそこにあって、私の涙を拭った布も、何も存在してはいなかった。


それを見て、私の目からぽろぽろと涙が零れる。

乱雑に手の甲の絆創膏を剥がすと、綺麗な手が見えた。

こんなに大きな絆創膏なのに、血が付いているのに、私の手にはかすり傷一つついていない。

窓もなければ明かりもついてない部屋なのに、それがはっきりと見えた。


私の身体が、彼がくれた光で淡く発光しているからだ。

私はこの光を知っている。何なのかを知っている。これは彼自身を削る程の強い治癒魔法だ。


ダイシンサイというのがどういったものなのかはわからないが、大震災ではないのは分かる。

地震では、見渡すばかりの荒野にはならないだろう。

だが、そのダイシンサイとやらで私は大怪我を負ったのだ。彼が直接、癒しに来るくらいの。


涙が更に溢れる。止まらない。

ヒドイ。ヒドイよ。そんな。

こんな、言い逃げなんて……。

私だって、貴方に言いたいことがあったのに。話したいことが、あったのに。

どうして私を癒すためだけに、無理をしてまで来たの。きっと、先程の私以上に身体が軋んでいたのでしょう?

それなのに、それを一切感じさせずに。あんなに優しい声で。あんなに優しい仕草で涙を拭ってくれた。

どうして気付かなかったのか。最初の声で、気付いていれば少しは話せたのかもしれないのに。


ああ、けれど。きっとそれは叶わなかった。

少なくとも、その姿を見ることは出来なかったのでしょう。見ようとしたら、消えてしまったのだもの。


ああ神様。姿を見ることすら、許されないのでしょうか。

もう、話すことすら叶わないのでしょうか。ただ一言を、伝えたいだけなのに。





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