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HSシャモ-side She-  作者: シエルガーデン
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EdelWeissの軌跡03




……意識的に意識を沈めて眠りについてから、どれほど経ったのだろうか。

とうの昔に身体は誕生し、すくすくと成長していた。それは漂う眠りの中でも感じていた。

適正年齢だろうと思われる、物心がつく頃、遅くても学校に通うくらいになってから本格的に動こうと思っていた、のだが。


―――気がつくと、私は荒野に立っていた。

空は暗雲に包まれ、絶え間なく雷鳴を轟かせている。

“私”は雷が得意ではなかったはずだが、不思議と今は何とも思わない。

いや、途切れることのない光が少々目に悪そうだとは思った。


雷以外に、視界内で動くものはなかった。

人間はおろか、動物も、植物すら。

何もない荒野で、ただ、私だけが存在していた。



掌を眼前に翳した。

記憶の中のそれより、随分と小振りだった。それは当然だ。新たに生まれた身体なのだから。

そのまま視線を下に落とすと、フリフリのスカートが目に入る。

まるで幼児が着るような――いや実際に幼児なのだが――それもかなり少女趣味で異国情緒のあるエプロンドレス。

イラストや小さい女の子が着ているのなら微笑ましいが、自分が着るとなると少々尻込みするくらい可愛らし過ぎる代物だ。

特に、これでもかってくらいにあしらわれたレースとか、ふりふりのフリルとか、何の意味があるのかって位置についたリボンの数々とか。


そんな可愛い服だが、よくよく観察してみれば、一部焼け焦げている。それと雰囲気的にそこにあったであろうリボン等がないような……、

というか、あちこち泥で汚れていたり、何かで擦ったのかところどころ傷んでいたりする。


いやいやそれより、脚(特に膝!)とか腕とか痛い。頬がヒリヒリする。

視線を向けると、未だ乾ききっていない擦り傷や鋭いもので切ったような切り傷、青々とした打撲痣などが次々に見えた。

ぞわぞわっと背筋を寒気が走り抜ける。出来れば見ていたくない状態だ。

視界からは消したものの、気付いてしまったからか余計に痛みが増した気がする。


というかまず、今この状況が掴めない。

なんでこんな事態に陥っているのか。


最近 3歳の誕生日を迎えたばかりで。

よくあるイケメンと美女の両親。穏やか優しげで家族を大事にする有能イケメンパパな父と、やや荒い口調ではあるが凄く美人で有能で実は現役バリバリママな母。

カッコいい系のビジュアルの犬と一緒に幼児ライフを満喫していたはずなのだが。

もうちょっと成長してから色々行動しようとしていたのがまずかったのか。いやでも幼児段階で頑張りすぎると何かのフラグが立つじゃない……。

手を抜いていたつもりはないのだけれど、逆にフラグが立っていたのだろうか。


それよりも両親はどこに?決して幼児を独りで荒野に放り出すような人たちではなかったと思うのだが、思い違いだったのだろうか?


「……ぁ」


声をあげて、誰かを呼ぼうと思ったが喉が酷く痛んだ。思わず涙目になる。

空気が乾燥しているからか、砂が舞っているからかはわからないが、喉が凄くイガイガする。

もしかしたら、叫んだりしていたのかもしれない。

今思考している私ではなく、身体そのものの持ち主が。


……とりあえず今置かれている状況がどういうことなのか考えてみよう。混乱するのは一番良くない。


周りが荒野で雷鳴が轟いている状態でやることじゃないかもしれないが、逆に自問自答くらいしかやれることもないし。

生まれる前と大差ないのが泣ける。それ以上に身体中が痛くて泣ける。泣いてもいいかなこれ。

泣かないけどね、無駄に体力消耗したくない。

ぽすんとその場に座り込む。もっと柔らかいところに座りたいが、贅沢は言えない。何もないし。

膝を抱えて蹲る。……お尻が痛いが、背に腹は代えられない。

既に休みたいくらい体力ないし。なんでこんなに疲れてるの。


落ち着いて記憶を読み取るも、認識力が低すぎて要領を得ない。

こんなことなら意識を起こしておくんだった。これだがら異世界は。……転生したら毎度異世界だけどね。

まぁ、済んだことは仕方ない、今出来ることを考えよう。


記憶を読んでいる最中に知ったが、今度の私は……というか世界は、幼児でも魔法が扱えるようだ。

治癒魔法とか使えないだろうか、正直痛いのは嫌いだ。血を見るのも、それが自分のものだろうが他人のものだろうが嫌い。


「……ううううん」


とはいえ、どうすれば治癒魔法が使えるのか。

そもそも私にその適性はあるのか。どちらも不明なのだが。

ゲームとかでよくあるのは呪文を唱えること。それとそれを使うための代償が必要か。

私くらいの子供で幼児でも使えると知っているというくらいだから、たぶん使い方さえ分かれば使っても大丈夫だろう……と思う。

幼い、というのが何歳からを指すのかはわからないけれど、記憶の中では一度も魔法を使ってはいけないと言われてないから。

使おうとしても、使ってみても、生死には関わらないだろう。


「……むむむむぅ~!」


一番やばそうで痛い切り傷を、見たくないけどじっと見る。

物は試しだ。かつてやったゲームの治癒魔法の呪文でも唱えてみよう。

傷を見ながら集中し、傷が塞がるようなイメージを頭に描く。


「……ひーりゅ!」


ヒール、と言ったつもりだったが、舌がうまく回らなかった。

しかしそれを口にした途端、全身から何かが流出する感覚がした。

成功したのだろうか、と思ったところで、脳が勢いよくシェイクされるような錯覚とともに酷い頭痛がした。

一気に視界が暗転する。


体育座りのように膝を抱えて蹲っていた身体が、ぐらりと傾いで地面に倒れる。

地面が少し尖っていたのか、肩に痛みを感じた。


―――それを最後に、強制的に意識が断絶する……。







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