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HSシャモ-side She-  作者: シエルガーデン
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EdelWeissの軌跡02



―――霧散していた意識が、ひとところに集束する。

こぽこぽという水音が聞こえる事で、身体が、少なくとも聴覚があることが分かった。

しかし身体は満足には動かない。粘度のある水中を、僅かに身じろぎする程度だった。


「………………しゃ………る…。……………ろう?」


厚い水壁を隔てて、かすかに音が聞こえる。

今まで使っていたものとは異なるようだが、不思議とそれが言語だと理解出来る。

意識すれば、前回以前の意識、いわゆる前世の記憶も引き出すことが出来た。

これも毎度のことだが、凄く便利だ。

引き出せるのは記憶の一部のみという制限はあるが、いわゆる転生チートというやつだ。


―――それを理解して、正確には思い出して、私は内心で溜め息を吐いた。

生まれる前に私の意識が回復したということを知ったからだ。それは生まれるまでは暇だぞということを意味している。

何度目かの生の記憶は、それを私に教えてくれる。

誕生までに考えなければいけないことは、今までの人生で何度か経験済みだ。もう新しく考えることはない。

強いて言えば今度の世界がどんな世界かということくらいだが、生まれる前では情報を集めることは容易じゃない。

容易じゃないというか、酷く困難で面倒だ。

何度かの記憶を引き継いでいるとは言ってもそれは一部に過ぎないし、今の状況でどう役立てろと。

チートといってもそこまで強くないのだ。


そう言えば、何回目かの世界で異世界転生やトリップの創作物を観たり読んだことがある。

自身が転生者だったせいか、創作物のそれは他人事には感じず酷くのめり込んでしまったのを覚えている。

しかし読むたびに思ったものだ。私もこういうチートが欲しかった、と。


例えば前世で、強く思ったものだ。

前世の世界は、全ての人類が何かしらの能力を所持する世界だった。

能力はひとりにひとつ、一生物にも関わらず、人によっては凄く有能で、人によっては真逆なこともあった。

後者で言うなら、“針に糸を通す”とか……、糸通しで事足りますやん……。

私の能力は、まぁ、役に立たないレベルではないものの、あまり重要なものではなかった。知り合いには凄い能力者が居たが。


そう言えば、彼女はどうしたのだろう。凄い能力者の一人で、私が死ぬ少し前に行方不明になっていた―――、

……そこまで考えたところで、何かに邪魔されて思い出せなくなった。姿は思い出せたのに、名前とか能力とかも思い出せていたのに。


憮然としながらも、隠されてしまったものは仕方ないと意識を切り替える。思い出せないものは思い出せないのだ、無理をしても意味がない。


ひとつひとつ、私は覚えている記憶と思い出せない記憶を振り分けていった。

それはさながら、散乱していた書類を分類ごとに分けて引き出しに入れ、判別できない物はとりあえず箱に入れて棚の奥のほうにしまっておくような作業。

利用できない物はとりあえずしまっておく。思い出せる物を思い出すときに、思い出せない余分なものが出てきても困るのだ。

今回は思い出せないが、次回は思い出せるかもしれないし。残っているということは利用価値があるのだろう。


―――そうして、直ぐに終わってしまう選別を済ませた後に、私は意識を沈める。

生まれるまでただ待つのは退屈に過ぎる。以前それのせいで、達観した態度に無表情がデフォルトの子供になってしまった。

親は愛してくれたが、正直そんな子供は嫌だろう。持論だが、子供は感情豊かなほうがいい。

退屈は感情を殺してしまう。だからその次からは生まれる前に時間を使うのは止めた。

意識が戻っても、また眠ろうと努力することにした。

下手に前世の記憶がある意識があると、いろいろ障りがあるし。

創作物でも散々言われていたが、赤子の生理現象とか凄く困るよねホント。





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