外出①
「少し早く来すぎたかな…」
入り口の窓から差し込む日差しがちょうど目にあたる。扉越しにも、外からは人々の騒ぎ声や雑踏が絶え間なく聞こえる。
ルオ曰く、外は相当暑いから薄着でも問題ないらしい。確かに俺がこの世界に来たときもこのくらいの気温だったろうか。この世界も俺がいた世界も四季は変わらなく巡る。今は丁度夏くらいだろうか。
涼しい格好と言っても、俺が転生してきた時と服装は変わらない。薄手の灰色のパーカーに黒いプー○のジャージ。靴はスニーカーだ。
トントンと階段を降りる音が聞こえる。恐らくルオだろう。さりげなく髪を整え、迎え入れる準備をした。
……ルオは、どんな服を着てくるのかな。
「お…お待たせ!!」
肩で息をして駆け寄ってくる彼女をみて思う。
可愛い。その一言に尽きる。
白を基調としたワンピースに、水色のスカート、ピンクの肩掛けタイプのポーチを身に付けている。
朝の裸Yシャツにもドキッとしたが、私服もまた違う意味でドキッとして自然と頬が熱くなる。
「?…どしたの??」
「あっ、いや~その……」
「なに~?言ってくれなきゃ分かんないよ?」
と、上目遣いで言ってくる。
クソッ、俺の理性が崩れる…!さすがのエリート(童貞)の俺の心も私服+上目遣いの連鎖に揺らぐ。それはもう、心臓の音が聞こえちゃうんじゃないかというくらいにドクドクと唸っている。
…言ってくれなきゃとか言ったのはそっちだからな!
「いや、かっ可愛いなと、思って…さ……」
自然と語尾が口籠る。そしてチラッと彼女の顔をみてみると……
「…なっななっな、かかか可愛いだなんて、そそっそんな事……!」
………めっちゃテンパってる…!!俺以上に!
「『言ってくれなきゃ分かんない』って言ったのはそっちだろ!」
「い、いや~…そんなストレートに言ってくるとは思わなかったから……」
未だに真っ赤になった頬を両手で抑え隠している。
相当嬉しかった(?)のだろう。
平常心を取り戻したルオは照れ臭そうに俺の隣にならんだ。
「それじゃ、行こっか!」
「…おう!」
俺たちはギルドのドアを開け、歩き出した。
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人口二百万人程の街『エクスマキナ』。
別名:水の都。
リヴァイアスアイが位置する街だ。
この街は海を観光地として発展したらしい。豊富な海産物が有名だ。
そもそも、俺が先程ハラヘッタ発言のお陰で、街に繰り出すことになったのだが、ご存知の通り俺は街どころかこの世界の知識もままならない。
本当はルオに格好いいところの一つや二つ見せてやりたいが、今回ばかりはルオに任せよう。
そう考えながら歩いているとルオが、「なに食べたい?なんでもいいよ!」と聞くもんだから、「ん~…パスタがいいな」と、無難な回答をした。
「パスタか……じゃあこの近くに『ロッツォ』っていうパスタの専門店があるから、そこ行こっか」
「わかった!ってことで、道案内よろしく!」
「まっかせといてよ!」と自信満々な態度で言った。
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ギルドから歩いて15分くらいで着いた。
店内に入れば洋食店独特の香りがしてきて、思わず鼻をスンスンしてしまう。
俺達は店員に案内され、店の奥の席に座った。
暫くして店員がお冷やとメニュー表を持ってきた。
「さてと、何にしようかな~っと……お、海鮮パスタか俺これにしよ。ルオは?決まった?」
「ん~、まだ迷ってるからもーちょい待って」
どうやらまだ決まってないみたいだ。
なにやら小声でカロリーがどうの体重がどうの呟いている。……そんな気にしなくてもいいと思うけどな。
「……ルオはさ」
「ん?」
「その、結構ストレートに言うけど……太ってるようには見えないし、別にカロリーとか気にする必要はないと思うよ?……多分」
「うぅ……自分でも気にしないようにはしてるけど、どうしてもお風呂上がりとか体重計に乗って確認しちゃうんだよ…。
……その、例えばの話、例えばだよ?私がシドの彼女立ったとして、体重とか気にする女の子って…嫌いですか?」
「何故敬語……ん~…嫌いではないけど、小さい事でウジウジしてるのはイラッとするかな」
「そ、そうなんだ。ちょっと意外だな……あっ、待たせちゃってごめん決まったから注文するね。
すいませ~ん!」
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ルオが料理を頼んで20分後、二人の料理が運ばれてきた。
俺は海鮮パスタで、ルオがクリームチーズパスタだ。
2つとも美味しそうだ。
「「いただきます!」」
と、二人揃えて言った。
フォークに麺を一巻きして口に運ぶ。
……なんか、ものすごい視線を目の前から感じる。
チラッと前…ルオの座っている方に視線をやると
「ジーーー……」っと効果音が流れそうなくらい俺のパスタを食べたそうに見ている。こういうのをみてると小さい頃を思い出す。
「……たべる…?」
恐る恐る聞いてみると、物凄いスピードで縦に顔を振った。
そして俺はフォークに絡めたパスタをルオの口元に運び、わざとらしく
「はい、あ~ん!」
と言ってやった。
ルオもそれに応えるべく顔を近づけパクリと食べた。
「美味しい?」
「うん!美味しい!」
「そっか。よし、じゃあ改めていただきますっと」
もう一度いただきますを言ってパスタを食べた。
「ん~、なんか食べさせてもらうのも悪いし、今度は私が食べさせてあげる!はい、あ~ん!」
と言われ、パスタを差し出された。が、
「ごめん、ルオ。おれ、チーズ苦手なんだ…」
と、丁重に断った。なんか申し訳ないな。
アレルギーではなく、ただの好き嫌いだ。
なんというか…あの独特な匂いがどうも好きになれない。
「そっかー残念……はむっ!ん~~~!美味し~い!」
俺も人生初の「あ~ん」を期待したが、今回は叶わないようだ。
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ものの15分も経たずに食べ終わった。
俺達は店を出て、次の目的地の洋服屋へ向かう途中だ。本来はこのまま帰る予定だったが、ルオがついでに買い物もしたいと言うものだから、まだ日は高いしこのままショッピングということになった。ついでに喫茶店で二人でコーヒーを買って飲みながら歩いていた。
二人並んで歩いていると目の前からガラの悪い男が向かってきた。一応横に避けたが、
ドンッ
どうやらルオの肩が当たってしまったようだ。
「キャッ!?」
「オイオイねーちゃん。どうしてくれんだよ!俺のお気に入りの上着が汚れちゃったじゃねえかよ!」
……否、当てられたらしい。見れば男の白い上着に自身が持っていたコーヒーが掛かってしまったらしい。
「えっ、その……」と、ルオも尻込みしてしまう。
その表情には先程までの明るい笑顔は無く、代わりに恐怖感、焦りが貼り付いていた。
「おい、どうしてくれんだよ!……」と男は声を荒げたが、なにやらルオの身体をジロジロとそれも舐めるような目で見て、口元をニヤリと曲げ笑った。そして男は
「……おい、ちょっと場所変えようや。そこの、"路地裏"で話つけようぜ」
と、ルオの肩をつかみ言った。
こいつの言う路地裏は話し合うための場所ではなく、もっと別の用途に使うためだろう。即ち、もとより話し合いなどしないはずだ。
その言葉を聞いてルオの顔色は青ざめ、その目尻には涙が浮かんでいた。
・・・もう、我慢ならねぇ!!
「おい!その手を放せ!!」
俺は怒りを露にし、男に怒鳴り付けた。
「あぁ?んだてめえ!部外者の癖に口出ししてんじゃねえよ!」
「部外者なんかじゃねえ。こいつは俺の恋人だ!汚い手で触るな!」
「うるせえ!!てめえからブッ殺してやる!次は女ぁ!てめえの番だ!こいつの死体の横でブチ○してやるよ!ハッハハ!!…………ッ!?」
俺はには誰にも言っていない特技がある。
それは『怒り』を『殺気』に変える事だ。
「てめえの罪……それはルオを侮辱し、傷つけたことだ。覚悟は出来てるよな?当然…」
俺は自分の紅い眼で男を睨み付ける。
込められた殺気全てで。
「ヒッ……!?なんだよ!やんのかてめえ!」
「当然だ。俺を怒らせたんだ。……今からお前を5秒で倒す…!」
俺は男を指差し、そう宣言した。