水龍の紋章
午前8時
俺は目を覚ました。まだ視界がボヤける。取り敢えず顔を洗おうと、俺はベッドから降りようとする。
ムニュッ ムニュムニュッ
「んぁ…ひぅっんっ」
今まで触れたことのない感触。そして喘ぎ声。恐る恐るその手がある方に顔を向ける。
そこには、
「むにゃ…ん……」
ワイシャツ一枚で寝ている、ルオだった
「え!?ええぇぇぇぇぇぇえ!?」
「ん?あぁおはよー、シドぉ」
「な、なんで?ルオさんが!?」
「だってここ、アタシの部屋だし。う~んと、昨日約束した後に、間違ってアタシが持ってきたお酒飲んじゃって、酔って倒れてぇ、それでアタシが介抱したってワケ。それに、さん付けとか敬語とかいらないよ。私達もう、仲間じゃん!」
ルオは綺麗な笑顔で俺にそう言ってくれた。
「あ、そう、だよね。ありがt……ッ!!」
酷い頭痛だ。大方、昨晩のイッキ飲みが原因だろう。
そもそも、俺未成年だし。
「だ、大丈夫!?シドっ!ちょっと待ってて今水持って…」
と言いかけたが、ルオはニヤリと嗤う。
昨日と同様、悪いことを考えている顔だった。
「ほらぁ、シド水」
その目に気付けば良かったと、後から後悔することになる。
「あ、ありがとうございま━━━んぅ!?」
突然過ぎて頭が回らなかった。
キス!?違う。ルオの口から水が流れてくる。舌も入ってきて、頭がぼぅっとしてきた。
「ん・・・んっ・・ちゅっ・・・ぷはぁっ。酔いと眠気は覚めた?シドっ」
「ハァ・・・ハァ・・・」
「フフン♪」
「な、にするん、だよ……突然……」
恐らく俺は涙目だろう。でも、朝からいいご褒美をもらった。まさかファーストキスそれもDキスで異世界人からとは予想もつかなかっただろう。……そもそも予想もしない。
「それじゃ、ギルドの食堂で朝ごはんにしよっか!アタシはある意味お腹いっぱいだけどね♪」
「えっと、その前に服着てっ!前!はだけてるから!!」
「ごめんごめん。今着替えるから」
「……最悪な目覚めだ」
正にやれやれだぜ。某スバルさんのようにはいかないか…
ルオも着替え終わり、二人は食堂に向かうために部屋を出た。━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
午前10時
昨日マスターから聞いた話だが、このギルドは、廃墟になっていたホテルを建て直して作られたらしい。一階は宴会場や食堂、大浴場やクエストカウンターと言うクエストを受注できる施設が揃っている、二階から四階まではメンバーの部屋や洗面所、シャワールームが完備されている。出来れば、自分の部屋が欲しかったが、空き部屋が無いらしくしばらくルオの部屋で我慢してくれと言われた。
俺とルオは食堂で一緒に朝食をとった。
「ふぅ、おいしかったぁ」
「ね?行ったでしょ?ククルの作るご飯は世界一美味しいんだよ!」
「ハハハッお気に召してくれて何よりだ!こっちも作り甲斐があるよ」
ここのシェフ、ククル=イースは魔法や剣はダメらしいけど料理の腕は誰もが認めている。昔、三ツ星レストランのシェフを務めていたらしい。
食べ終えて食器を片付ける時に気づいた。
「ねぇ、ルオ。口元に食べかす付いてる。はい鏡」
「あ、ありがとー。ホントだ!ってかこの鏡ってクレアのじゃない?」
ルオの言うとおりこの銀の装飾のついた手鏡はクレアの物だ。姿を確認するのに借りっぱだった。
「後で返しておかなきゃ」
さてと、食器を片付け終えた事だしこの後何をしようか……
パソコンも漫画もないし、携帯もなければテレビもない。
「ねぇ、ルオ。一つ聞いていい?」
「なに?」
「ギルドって、メンバーの証として紋章刻んだりとかはしないの?」
アニメやライトノベルだと大概そういうものだと思う。
フェアリーテ◯ルとか、ログ・ホライ~とか…。
その質問を聞くとルオは「フッフッフッ」と笑いだした。そして口を開き、
「よくぞ聞いてくれたっ!その紋章を刻むのがこのアタシの役割なのだよ!!」
ルオは「どうだ驚いたか」といわんばかりのドヤ顔で俺を見る。いや別に驚きはしないんだが、取り敢えずなんか言っとこう。
「へーそうだったんだー」
「リアクションうっすいなあ!」
と言って俺の額にデコピンした。
「まあいっか。で、好きな色は?何処にいれる?」
「う~んと、黒で、右手の甲でお願い」
「オッケー!じゃあ行くよー。
『偉大なる水竜よ、我がの魔力を糧として、瑛傑なる竜の紋章をこの者に刻みたまえ』
ルオは俺の手を握り、詠唱をした。すると青い光と共に俺の手に竜の紋章が刻まれた。
「うぉお!カッケー!」
きっと俺は今、子供のように目を輝かせているだろう。
「喜んでくれて何より!あ!」
「え、どしたの?」
「シドって、魔法に興味ある?」
「魔法?」
「うん。今みたいに詠唱するだけで発動するから簡単だよ。やってみる?多分シドにもできるよ」
「うん!やってみたい!」
「よし決まり!それじゃあギルドの広場に行こう!」
俺は、『ようやく異世界らしさが出てきたな』という期待。
そして、魔法が使えるという楽しさで胸が一杯だった。